11 エルホルザの地に
一週間ほどの旅を終え、エルホルザの地に着いた。
来る前の情報の通りに、牧畜が盛んなようで、そこら中で羊や牛を見た。
家畜を見張る犬の姿もある。
だが、そんなのどかな光景に心癒されたのも、ほんのわずかな時間だった。
「そんなに騎士を大勢連れてこられては困ります」
出迎えに来た代官の言葉に全員が顔を顰めた。
大勢といっても、わずか十人だ。
この国の王妃を守る騎士としては少なすぎるぐらいだろう。
あ、王子もいるんだったか。
「とにかく、そんな方々は必要ありません! この地は平和なんですから!」
こちらの抗議を聞き流し、代官はそれしか言わない。
完全に、嫌がらせだ。
ただの代官が王妃にこんな口を利くか?
誰かにこう言わされているのは明らかだ。
「仕方ありません」
騎士たちが激発寸前となっている中、ソフィーは口を開いた。
「では、二人残して他は帰らせます。それでよろしいですね」
「王妃様!」
「いいのです」
思わず叫んだ騎士たちにそう返す。
代官の勝ち誇った顔がさらなる殺気を呼び起こす。
だが、ソフィーの意見は変わらなかった。
八人の騎士を帰すことが決まった。
もちろん、王都ではなくアンハルト領にだ。
すでにアンハルト領には静養のためにエルホルザに向かったことは、ソフィーが自身の手紙によって伝えてあり、宮殿で働いていた者たちアンハルト領から来ていて、付いて来ていない者たちは帰らせてある。
マックスはその彼らから詳しい話を聞くだろう。
さらにそこから護衛の騎士が帰されたと知ったら、どうなるのだろうか?
俺の知っているマックスなら一人ででもやって来そうだが、さてどうなるか。
案内された家を見て、さらに言葉を失った。
街から外れた丘の上の静かな家……といえば聞こえがいいが、ただのボロ屋である。
「これじゃあ、まだ多いみたいね」
なにかの琴線に触れたらしく、ソフィーは面白そうに笑い、連れてきていた侍女を一人だけ残し、騎士も一人だけにし、残りは帰すと決めた。
もちろん周囲は大反対したが、ソフィーは折れなかった。
暮らすのは母子の二人と、侍女と騎士の四人。
このボロ屋では、それが限界なのは確かだ。
まぁ、これぐらいの家なら、材料さえあれば修復もできるだろう。
旅の途中にボロ小屋で冬越えした時に比べれば、ここは気候もいいのだからなんとかなるだろう。
この調子だと色々と苦労しそうだが。
「楽しくなってきたわね! アル!」
「そうですね。母様」
ソフィーの瞳はキラキラと子供みたいに輝いていた。
「私、こういうところで一人暮らしをするのに憧れていたのよね!」
ああ、これは本気なんだなと思った。
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