03 誘拐未遂


 六歳の春。

 俺は誘拐された。

 幼児な王子の日常は、起床、朝食、午前の授業、昼食。ときどき午後の授業という感じだ。

 午後の授業がない時は、母親や遊びに来た第三王妃のマリアの相手をしない限り、夕食の時間まで中庭にいる。


 その前に、俺がいま暮らしている場所の説明をしよう。

 ヴァルトルク王国はわりと豊かな国らしく。王妃ごとに宮殿を建てている。

 それぞれ、実家の家名がついた名前となっている。

 俺が暮らしているところは、アンハルト宮殿となる。


 その中庭で駆けずり回るという名目の訓練をしていると、急に見知らぬ男たちが現れて、俺を取り囲むと取り押さえ、口を塞ぎ、手足をしばり、袋に押し込まれた。

 あまりの手際の良さに逆らうことも忘れてしまった。


 いや、嘘だな。

 あまりに退屈な日々だったから、乗ってみたっていうのが事実だ。


 こいつら弱そうだし、誘拐ならすぐに殺すつもりはないだろ、とか考えていた。

 それに、殺そうとしてもすぐに対処できる。

 だけど、俺がいないというのが宮殿の連中にバレるのはまずいか?

 ……まずいな。

 騒ぎが大きくなるとソフィーが心配する。

 暴れ出す。

 剣を持って飛び出す。

 うん、それは困る。

 こんな実行犯ではなく、できれば指示をしている主犯にまで辿り着きたかったが、そんな呑気なこともできないか。


「しかたない」


 手足を縛る縄に風刃という魔法を最小出力で発動して切り、口に巻かれた布を外す。

 それから俺を押し込んだ袋も風刃で切り、抜け出す。


「うわっ、逃げた」


 袋が軽くなったから、すぐに気付かれた。


「テメェ、逃げんな!」

「バカ、騒ぐなよ」


 大声を上げて俺を威嚇する男たちに、思わずそう言ってしまった。

 宮殿の警備が気づいたらどうするんだ?

 いや、こいつらが侵入しているということが、警備が買収されているという証拠か?


「そっちで暇潰しするか」


 そう決めると、さっと近付き腹に一発当てる。


「ぐあっ!」


 悶絶して座り込む男。

 同じことを繰り返して男たちを動けなくする。


「あっという間だな」


 あっさりと戦闘不能になったので肩透かしされた気分だ。

 弱いとは思っていたがここまでとは。


「王族の家に忍び込むくせに弱いとか、どういうつもりなんだ?」

「うう……テメェ」

「テメェじゃない」


 俺は、口答えをした一人の前に立ち、耳を引っ張って顔を上げさせる。


「王子だよ。お前は王子に手を出したんだ」

「うっ」

「覚悟はできてるんだろうな?」

「ゆ、許してくれ」

「それなら、依頼主の名前を吐け」

「知らない。俺たちは命令されただけで」

「なら、その命令した奴を教えろ」


 今度は素直に吐いた。

 子供に睨まれただけでこんなにあっさり口を割るなんて、大人として恥ずかしいと思わないのだろうか。

 まぁ、こんなことで恥ずかしいと思うなら犯罪者にはならないか。

 その他にも聞きたいことを聞き、そいつらを解放してやった。

 もちろん、魔法による刻印付けも忘れない。

 これで、どこにいてもすぐにわかる。

 お楽しみはここからだ。

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