02 王の家庭



 いろいろと考えることはあるけれど、考えたところで答えが出るわけでもない。

 神でも出てきて事情を説明してくれればいいのだが、神なんて究極魔法を手に入れた時に会って以来、姿を見せてくれたことはない。


 とはいえ、神なんて人間の事情にそう首を突っ込んで欲しくない。

 俺に起きている異常は、俺が知らないだけで、実はそれほど珍しくないことなのかもしれない。


 このまま王子として生きるのもいいかもしれない。

 俺の記憶があることをわざわざ、マクシミリアン……マックスに教える必要もないだろう。

 社交の時期にだけ王都にやってきて、祖父顔で俺を嬉しそうに見ているあの顔に向かって、「おいマックス、なんて顔をしてやがる」なんて言ってやるのは、とてもひどい話でしかない事ぐらい、俺にだってわかる。

 まぁ、かつての仲間にデレデレの祖父顔で迫られるのは割と辛いのだが。


 ともあれ年を跨ぎ、六歳となった。

 それなりに走り回ることもできるようになった。

 さすがに肉弾戦は無理だろうが、ある程度の魔法を使っても問題ないぐらいにはなった。

 全力は……さすがにダメだろうが。

 後は、生まれながらに魔力が多めだとは思われている。

 しかし実はこれでも、魔力を隠している状態だったりする。

 昔、魔族の領域に潜入しなければならないことがあった時に身につけた。

 あいつらは人間の魔力を嗅ぎ分けるのがうまかったから、身につける必要があった。

 それ以来、たびたび訓練をして磨いてきた。

 魔族は特に魔力に優れた種族だったのだが、そのためか五感の全てで魔力に頼ったところがあり、この隠蔽方法が、戦闘で俺の動きを認知させづらくさせることができると気付いたからだ。


 そういうわけで、俺はちょっと魔力多めの子供として周囲に認知されている。

 王子なんていう、生まれた時から多くの他人に期待される人間ともなると、なにか優秀さを感じさせる特徴があるというのは、重要なことのようだ。


「さすが、魔力に優れた第一王子様」

「アルブレヒト殿下は魔力に優れておいでですから」


 みたいな言葉はよく聞く。

 褒めて育てるのは大切だと聞くが、褒めるばかりもどうなのだろうかとも思う。

 まぁうちは、母であるソフィーがマックス譲りの肉体派で、俺が走っているとすぐに混ざってこようとしたり、ことあるごとに運動する遊びに全力で応じようとするし、その時には結構口汚くなるので、褒められるだけで育つというのとは、なにか違うかもしれない。


 母といえば、彼女の夫であり、俺の今生の父のことも語らなければならないだろう。

 父の名前はフランツ。

 ヴァルトルク王国の王だ。

 銀色の髪の優男で、ソフィーに対して苦手意識があるような雰囲気だ。

 押しの強いソフィーの対処法がわからなくて困っているという感じか。

 それでも内政の手腕は良いらしく、マクシミリアンが褒めていた。

 子供の相手の仕方もわからないらしく、俺を前にしてもどうしていいのかわからない顔をしているので、顔が会った時は丁寧に挨拶して、後は放っておくことにしている。

 小さな子供が礼儀正しく挨拶する様は、王宮に勤める者たちにとって何かの金銭に触れるらしく、周りの評判もいい。

 フランツも対処法がわからなくとも、自分の子供が褒められて嫌な気分はしないという顔をしている。

 それだけなら家族への接し方を知らないけど仕事はできる父親という結論で終わってしまうのだが、残念ながら彼は王だ。

 王だから、というよりは上流の人間だからというべきか。


 彼には複数の妻がいる。

 ソフィーは第一王妃。正妃だ。

 さらに第二と第三の王妃、側室がおり、さらに愛人も複数いる。

 ソフィーと結婚し、俺が生まれる前後の王太子時代は一人だったのだが、その後に先代王が病気で亡くなり、彼が継いでからは一気に増えた。

 周囲の貴族が一気呵成に新王フランツに女性を紹介し、彼がそれに応じた形だ。

 外交、大丈夫なんだろうか?

 内省の話はよく聞くが、外交の話は聞かないな。

 まぁ、誰か優秀な人物がいるのだろう。


 王が優秀である必要はないと、いつだったか仲間たちが言っていた気がする。

 マックスだったか、あるいは他の誰かだったか。

 先代王は優秀な人物で、俺を最初に勇者と認めてくれた人物だった。

 その後、周辺国家にも勇者だと認めてもらのは、苦労した。その時に吐いた愚痴に仲間の誰かが答えたのが、前述の言葉だ。


 そんな風に子種をそこら中にばら撒いているフランツだが、いまのところ出来ている子供は俺を含めて三人だけだ。

 ソフィーと結婚したのが彼女が十五の時で、俺が生まれたのが十八だというから、子供を作りにくい体質なのかもしれない。

 俺自身、結婚していないからよくわからないが。


 ともあれ、フランツはそういう男だ。

 王としては、それなりに有能。

 父親としては、仕事ができて裕福だからまぁ許されるというぐらいの人物だ。


 さて、次に出てくるのは、俺の弟妹とその母親たちだ。


 まずは弟のエーリッヒ。

 第二王妃カタリーナの子供で俺の二歳下。


 次に妹のソフィア。

 第三王妃マリアの子供で最近生まれたばかり。

 マリアがソフィー大好きで、生まれた子供が女だと知るやソフィアにすると決めたのだそうだ。

 俺としてはややこしいだけなんだが、親同士が仲が良いのはいいことだ。

 マリアは腹になにか隠しているような人物には見えないし、頻繁にこちらに遊びに来る。

 妊婦の時も、子供が生まれると、まだ首の座っていないソフィアを連れてくる。


 おかげで、今年で四歳のはずのエーリッヒよりもソフィアの顔の方がよく見ているという状態だ。


 なのでこれは、エーリッヒの母親カタリーナが関わっているのだろうなと、俺は思っている。

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