【童話】はじめまして! 私 家政婦犬のリンちゃんです!
菊池昭仁
はじめまして! 私 家政婦犬のリンちゃんです!
はじめまして! 私 家政婦犬のリンちゃんです!
「ネコちゃん、おいでおいで」
「ワン!」
私は犬なんです。でもお婆ちゃんは私を#猫__・__#だと思っています。
仕方がないのです。お婆ちゃんと長く一緒に暮らしていたネコさんが亡くなり、その後に私がこのお家に「家政婦犬」としてやって来たのですから。
ネコさんはお婆ちゃんにとても愛されていたようです。
お婆ちゃんには介護が必要です。
おトイレは自分で行けるようにしてあげたいと、娘さんは敢えてオムツはさせません。
寝たきりでは筋力も衰えてしまうからです。
おトイレを失敗しても、ちゃんと面倒はみてあげています。
お婆ちゃんが元気だった頃は婦人会の会長さんをしたり、お華にお習字、お料理もたいへん上手で、ご近所でも評判の美人だったそうです。
だから今でもおしゃれをするのが大好きで、素敵なお婆ちゃんです。
娘さんはよく、お婆ちゃんを美容室に連れて行ってあげています。
お婆ちゃんはとてもうれしそうです。
お婆ちゃんに介護が必要になったのは、大好きだったクルマの運転を辞めさせてからのようでした。
ご家族は免許返納には悩んだそうです。
「事故でも起こしたら大変だよ」
「でもママはクルマの運転が大好きなのよ」
そして家族会議の末、お婆ちゃんは運転免許証を返納しました。
でもそれは間違いではありません。
それでもし人様を傷つけてしまったら、やさしいお婆ちゃんはそれで苦しんだかもしれないからです。
今では自分の娘さんの顔も忘れてしまいました。
「あなたはどちら様?」
そんなお婆ちゃんが私を猫だと思うのは当然です。
だって私は全身が毛で覆われ、クリクリお目め。そしてお鼻の穴が正面を向いてお耳がピンと立っているのですから。
だからお婆ちゃんにはネコさんと見分けが付かないのです。
唯一の違いは私は二足歩行が出来ることと、鳴き声です。
私は「ニャ~」とは言えません。一応練習はしたのですがダメでした。
「にゃわお~ん」
これが精一杯でした。
私は介護で大変な娘さんのためにこのお家に派遣されて来た家政婦犬、リンちゃんです。
お掃除にお洗濯、お買物にお食事の支度。
お孫さんの学校への送り迎えのお手伝いもしています。
私は言葉が話せないだけの「スーパー家政婦ドッグ」なのです。
もちろんクルマの運転も得意ですし、調理師や介護福祉士の資格も持っています。
私はやさしいこのご家族が大好きです。
「ネコちゃん、おいで。抱っこしてあげるから」
「ワン!」
そしてお婆ちゃんに抱っこされて眠るのも、私の大事なお仕事です。
(お婆ちゃん、どうか長生きして下さいね?)
でも娘さんはいつも介護で疲れ、眠くてクタクタでした。
何でもひとりでやろうとするからです。
娘さんも体が丈夫ではありません。
私はそんな娘さんの傍にいつも寄り添っています。
時々、娘さんが泣いていることがあります。
私は娘さんの頬に伝う涙を、一生懸命ペロペロと舐めてあげます。
そしていつの間にか、私も娘さんと一緒に泣いています。
でもこれは家政婦犬としてではなく、この娘さんが大好きだからです。
そんな私を娘さんはとてもかわいがってくれます。
私はある日、犬の王様に尋ねました。
「どうしたら娘さんがしあわせになれるのでしょうか?」
王様は言いました。
「この娘が不幸? そんなことはない、この娘は嫌々それをしているのではないからだ。
それが娘の生き甲斐なのじゃよ。
介護は大変じゃが、その中でも時々うれしいこともある。
子供みたいに喜んだり笑ったりする母親の表情に、娘の脳裏に元気だった頃の母親の面影が蘇るからじゃ。
リンよ、お前はただ、その愛らしさで娘を癒やしてやればそれでよいのじゃ」
私はしあわせな犬だと思いました。
こんな素晴らしい家族に加えてもらって。
「リンちゃん、おいで」
「ネコちゃん、こっちにおいで」
私はいつもモテモテです。
おしまい
【童話】はじめまして! 私 家政婦犬のリンちゃんです! 菊池昭仁 @landfall0810
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