第26話

「よっしゃあっ!!」


 魔族の"将"を三体倒した。あとは有象無象の軍勢だけだろう。正吾は振り返り、剣を引いて走り出す。

 ゴブリンを次々に突き刺し、串刺し状態になった三匹を放り投げる。

 向かってきたオークも斬り伏せ、さらに突進してきたイノシシのような魔獣を蹴り上げた。

 「ぶ~っ」と鳴き声を上げてイノシシが飛んでいく。【疾走】を使って魔族の合間を駆け抜け、神速で剣を振るい、数十体の魔族を大地に沈める。

 エリゼも魔族に囲まれながら、恐ろしい速さで剣を振るう。

 二人が奮闘していると、街の大きな門が開き、騎馬隊が突進してきた。騎馬の後ろから歩兵部隊も走ってくる。

 ブランの兵団が突撃してきたのだ。


 ――いいタイミングだ! やるなブラン!!


 騎馬隊と魔族軍がぶつかり合う。剣や槍が魔族の体を貫き、魔族も爪や牙で応戦する。あとから来た歩兵たちも突っ込んできた。 

 まさに乱戦となった戦場は阿鼻叫喚の地獄絵図に見える。


 ――ここで俺にできるのは、とにかく敵の数を減らすことだ!


 正吾は時間切れそうになっていたスキル【竜気解放】をもう一度かけ直す。エリゼも魔力を消費して【竜気解放】を使った。

 二人は最後の力を振り絞り、戦場を駆け回る。

 炎の【空牙】が無数に放たれ、魔族を斬って焼き尽くす。正吾は体を回転させ、ゴブリン三匹の首をねた。

 そんな正吾の背後から、オーガとオークが殴りかかってくる。

 わずかに反応が遅れた。


「くっ!」


 殴られる覚悟をした刹那――周囲の魔族が炎に包まれる。

 見ればニーズヘッグが低空を旋回していた。


「親父!」

『その程度の相手に、なにを手間取っている。さっさと片付けよ!』


 ニーズヘッグに発破をかけられ、正吾の足はさらに回転数を上げる。【疾走】を連発し、魔族を斬りまくっていく。

 正吾は五分もかからす百体の魔族を倒した。エリゼも五十体以上の魔族を倒し、なお剣を振るい続ける。

 魔族は鬼神のように戦う二人を見て、恐れをなした。

 一体、二体と戦場から逃げ出し、雪崩を打ったかの如く魔族たちが戦場から離れていく。陣形が崩壊した魔族の軍勢に、ブランの兵団は押して押して押しまくる。

 残った魔族は蜘蛛の子を散らしたように逃げ出し、勝負は決した。ついに魔族の軍勢を打ち破ったのだ。

 ブランたちは剣をかかげ、勝ちどきを上げる。正吾とエリゼはボロボロになりながら、その光景を眺めていた。


「勝った……のか?」

「はい、正吾様。私たちの勝ちです!」


 喜ぶエリゼの顔を見て、自分たちが勝ったことを実感する。「はあ~」と息を漏らし、正吾は仰向けに倒れた。

 本当に疲れた。見上げればニーズヘッグが優雅に旋回し、空を泳いでいる。


 ――親父が力を貸してくれなきゃ、この戦いは勝てなかったな。あとサタンの力はデカすぎた。


 正吾とエリゼがへたれ込んでいると、ブランが駆けてくる。満面の笑みを浮かべ、大声で叫んでいた。

 シュリフの街を巡る戦いは、人間側の完勝で幕を閉じた。


 ◇◇◇


「おお! あったぞ、メダルだ。全部で十枚あった!」


 魔族の"将"の遺体をまさぐっていた正吾は、見つけたメダルを目の前にかかげ、喜んでいた。これでガチャを十回引ける。


「正吾様、ブラン殿が祝いの準備をしているとのことですが……どうしましょうか?」

「酒か! 酒が飲めるなら出るぞ!」


 ブランは魔族を撃退した夜に盛大なうたげを開いた。怪我人も多く出ていたため、エリゼは眉をひそめていたが、正吾は酒とご馳走に舌鼓を打ち、大いに宴を満喫した。

 そして翌日――二日酔いで昼間で寝ていた正吾が、頭を抱えながら起きてくる。


「おはようございます。正吾様!」

「あ、ああ……おはよう。ちょっと寝過ぎたな」

「大丈夫です。ちゃんと準備はできていますから」

「準備?」


 エリゼと供に建物の外に出ると、中庭に立派な馬車があった。


「これで王都に向かいます。ブラン殿が約束通り、馬車と御者を用意してくれました」

「そうか、そりゃ良かった」


 正吾が珍しそうに馬車の中を覗いていると、ブランと付き添いの従者がやってきた。


「正吾殿! 起きられましたか、本当に今回の件、ありがとうございました。何度お礼を言っても、言い足りません」

「いや、もういいよブラン。お互い無事だったんだ。ただ喜んでいりゃあいいじゃねえか。そうだろ?」


 屈託なく笑う正吾に、ブランは「本当にありがたいです」と感謝しきりだった。

 正吾とエリゼは、挨拶もそこそこに馬車に乗り込む。すでに荷物は積まれており、準備は万端だったようだ。正吾は窓から外を見る。


「ありがとよ、ブラン! 元気でな」

「正吾殿、エリゼ殿、無事王都に辿り着けるよう、祈っております」


 馬車が動き出す。手を振っているブランが遠ざかり、馬車は裏門から外に出る。短い滞在だったが、ブランには世話になった。

 酒もうまかったし、もうちょっといても良かったかな、と少し残念に思う。

 小さくなる城壁を一瞥いちべつし、正吾は前を向いた。


「そうだ。移動中にやっとくか」

「どうしたんですか? 正吾様」


 対面に座るエリゼが不思議そうな顔で聞いてくる。


「いや、魔族からメダルを十枚回収したろ。移動中にガチャを回そうと思ってよ」

「そうですね。王都に着くのはまだまだ先になるでしょうし、今の内に魔獣を出すのはいいかもしれません」


 正吾は椅子の上に置かれたガチャBOXを持ち上げる。すぐ目の前に置き、ポケットからメダルを取り出す。

 魔族から回収した十枚のメダルだ。


「さあ、なにが出てくるか……」


 ガタガタ揺れる馬車の中、正吾は一枚づつガチャに投入し、つまみを回した。

 出てきたカプセルを椅子の上に並べる。『SR』が七つ、『SSR』が二つ、『UR』が一つ。正吾は『SSR』と『UR』のカプセルを手に取る。


 ――うしっ、この三つは見なかったことにしよう。


 正吾は三つのカプセルをリュックの奥に押しやり、記憶から消去する。

 こんなものとても開けられない。そう考えていた正吾だが、重要なことに気づいていなかった。

 ガタガタと揺れる馬車の中、ガチャBOXも一緒に揺れていた。ガチャBOXの中に新たなカプセルが補充され、またしても満タンになる。

 よりレアリティの高い、強力なカプセルが増えていたのだ。


「エリゼ、こっから王都まで、どれぐらいかかるんだ? けっこう遠いのか?」

「そうですね……十日ぐらいでしょうか」

「十日!? そんなにかかんのか? 思ってたより遠いな」


 正吾は項垂れ、背もたれに体を預ける。

 窓の外に目をやれば、綺麗な青空が広がっていた。まあ、のんびり気長にいくか、と気持ちを切り替える。

 

 ――もとの世界にいつ戻れるか分からねえが、やるだけのことはやってやる。


 自分の安全を確保するため。エリゼの国を助けるため。そんな理由もあるが、自分はガチャに導かれてここまで来た。


 ――このガチャを使い続けたらどうなるのか……最後まで見届けよう。


 正吾とエリゼを乗せた馬車は、晴れ渡った空の下をカタカタと進んでいった。



             ――――おわり――――



  ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 なんとか完走することができました。正吾はこのあとも小さなモンスターに振り回され、(特に親父やサタンに)大変な目に遭うと思いますが、がんばって突き進んで行くと思います。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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モンスターガチャを拾ったオッサン、30歳から無双する。 温泉カピバラ @aratakappi

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