第24話
暗黒騎士以外のモンスターも負けていない。クラーケンは巨大な体を揺らし、長い触手で辺りの魔族を薙ぎ払う。
オークは弾き飛ばされ、オーガは頭から叩き潰される。あまりの巨体に対応できる魔族はいない。
クラーケンから距離を取ってやり過ごそうとする魔族もいたが、大ダコは下部にある
吐き出されたのは超高圧の水流。
数十体のオークやゴブリンが吹き飛び、そのまま死んでしまう。
巨大なモンスターはクラーケンだけではない。四足歩行のベヒーモスも魔族に向かって突進した。
大柄のトロールにぶつかり、吹っ飛ばす。小柄なゴブリンに至っては踏み潰され、抗うことはできない。軍勢の中にいる大型魔獣がベヒーモスに襲いかかるが、まったく相手にならなかった。
ベヒーモスは魔獣の突進でビクともせず、反対に首元に噛みついた。
相手は藻掻くも、そのまま首を噛み切り倒してしまう。雄叫びを上げたあと、ベヒーモスはまた突進していく。
何者にも阻まれない巨大なモンスターに、魔族の隊列は完全に破壊された。
アイアンゴーレムも魔族を圧倒する。鋼鉄の体は物理攻撃を受け付けず、途轍もないパワーで相手を握り潰した。
三十メートルもあるゴーレムに、魔族はただたじろぐばかりだ。魔族たちは鉄球のような拳で叩き潰され、倒れていると踏み潰される。
ゴブリンキングは巨大な棍棒を振るい、リザードマンやミノタウロスを蹴散らしていく。ぷかぷか空に浮かんでいたリッチは杖を下に向け、黒い霧を放つ。
唸り声を上げるワーウルフの群れはまともに霧を浴び、次々に倒れていく。藻掻き苦しみ、最後には息絶えた。
黒い霧は緩やかに戦場に広がり、死の病が蔓延していく。
上空から睨みを利かせていたリヴァイアサンは鎌首を持ち上げ、大量の水流を吐き出す。圧倒的な水の圧力により、百体以上の魔族が吹き飛ぶ。
リヴァイアサンはさらに『水の玉』を口から放つ。水球が地面にぶつかれば、その一帯は爆発したように吹き飛んだ。
上空にいるため地上の魔族は手が出せず、ただ絶望するしかなかった。
七体のモンスターが戦場で暴れ回っているのを見て、ニーズヘッグも城壁から空に飛び立つ。
『やれやれ、なんと不格好な戦い方をする者たちだ。敵を倒す時は、もっと優雅に行うべきだろう』
ニーズヘッグが空を進むと、魔族の本軍からドラゴンが向かってくる。数は五頭。赤い鱗に覆われたファイヤードレイクだ。
『懐かしい仲間たちだが、我に刃向かうなら払い除けるまで』
ニーズヘッグは羽ばたき、高度を上げて飛翔する。まっすぐに飛んでくるファイアードレイクは口を開き、強力な炎を吐き出す。
ニーズヘッグが慌てることはない。炎は竜王が展開するバリアに阻まれ、直接当たることはない。
ニーズヘッグは口を開け、圧縮された熱線を放った。
閃光はファイアードレイクの口の中に入り、喉を貫通する。ドレイクは力を失い、そのまま落下した。
ニーズヘッグはさらに二度、熱線を吐き出してドレイクを撃墜する。一体のドレイクは器用に空中を旋回し、ニーズヘッグに噛みついてきたが、バリアに阻まれ、噛み砕くことができない。
竜王が『ふんっ!』と気合いを入れると、バリアが膨張し、爆発した。
ドレイクは頭が吹き飛び、
『情けない。我に向かってくる覚悟もないとは……』
ニーズヘッグが見下ろせば、ドレイクの死体が魔族たち上に落ち、何匹かが下敷きになっているようだ。
竜王はバサリと羽ばたき、一気に急降下した。地上にいる軍勢に向かい、口から灼熱の炎を吐き出す。
数十体の魔族が燃え上がり、悲鳴を上げて逃げ回った。
◇◇◇
正吾とエリゼは、目を点にして戦場を見つめていた。
サタンが操るモンスターたちは巨大化し、魔族の大群を蹴散らしている。あれが本来の姿なのだろう。
どうして急に大きくなったのか分からないが、あれなら充分魔族に対抗できる。
「あのまま魔族を全部倒しちまうんじゃねえか!?」
正吾の言葉に、エリゼも同意するしかない。
「はい、魔族の軍勢が相手になっていません。本当に勝ってしまうかも……」
二人が希望を持った時、魔族の本軍が動き出す。残っていた八千の集団だ。七体のモンスターも激しく応戦するが、どうやらかなり強い魔族もいるようだ。
かなり苦戦しているように見える。
『さすがに、全部倒すのは無理そうだな』
「うお! また突然……」
すぐ後ろに現れたサタンに、正吾は顔をしかめる。城壁の上から下りてきたようだ。
「いいのか? サタン。このままじゃ、お前の部下がみんなやられちまうぞ!」
サタンはまったく表情を崩さないまま口を開く。
『別に構わん。例え全て倒されたとしても、数日もすれば私の魔力を吸収し、元の姿に戻るからな。何度でも戦わせることができる』
「そうなのか? えげつない能力だな」
戦場に視線を移せば、サタンのモンスターは魔族に押し込まれながらも奮闘している。暗黒騎士は戦場を駆け回り、相手を串刺しにする。
だが、五体のオーガに掴まれ、集団の中に沈んだ。
アイアンゴーレムも炎に巻かれ踏鞴を踏んでいる。物理攻撃には強いゴーレムだが、炎に耐性はないようだ。
やがて膝を折り、大地に伏した。
空中で水流を吐き出していたリヴァイアサンは、五頭のファイアードレイクに襲われ、体の至るところを焼かれていた。
リヴァイアサンは最後の力を振り絞り、ドレイクの一頭に噛みつき、供に落下していく。下にいたゴブリンの集団を巻き込み、地面に激突して粉塵を巻き起こす。
ゴブリンキングもボロボロになりながら魔族を殴り飛ばしていた。
そんなゴブリンキングに、リザードマンたちが槍を突き立てる。血まみれになって倒れず、ゴブリンキングは棍棒を振るってリザードマンたちを吹っ飛ばしていく。
しかし、最後には力尽き、立ったまま絶命した。
リッチも多くの敵を屠っていたが、魔族の魔導師に取り囲まれ、炎の魔法で焼き尽くされる。
最後まで粘っていたクラーケンとベヒーモスだったが、圧倒的な数の魔族には勝てず、大地に沈んだ。
サタンのモンスターたちは煙となり、その場から消えていく。
カプセルから出てきたモンスターと同じ最後だ、と正吾は思った。
七体のモンスターが暴れ回ってくれたおかげで、魔族の軍勢は半分以下まで減っていた。
「めちゃくちゃありがたいけど……まだ四千ぐらいはいるぞ。いけるか!?」
正吾が眉根を寄せていると、魔族の軍勢が雪崩れ込んでくる。ゴブリンやオーガ、狼のような魔族もいる。
正吾とエリゼが剣を構えると、隣で浮かんでいたサタンが『ふん』と息を漏らす。
『せっかくだ。私も肩慣らしをしておくか』
そう言って両手を上げ、手の平を前に向ける。
『ダークバインド』
走ってくる魔族の足元から、黒い影が伸びてくる。手の形となった影は魔族の足を掴み、次々と転倒させていく。
なにが起きたのか分からない魔族たちだったが、そのまま足元の影に引きずり込まれた。草原に響き渡る悲鳴。百匹以上の魔族が、あっと言う間に消えてしまう。
混乱して足を止めた魔族に対し、サタンはさらに追撃をかける。
周囲に無数の黒い球体を出現させ、それを黒く長い『槍』に変える。サタンが手を振ると、黒い槍は一斉に空を飛ぶ。
槍は魔族の頭や胸に当たり、そこから『闇』が広がっていく。魔族は絶叫しながら死んでいった。
少なく見積もっても三百匹は倒れただろう。サタンは満足したのか、『充分だ』と微笑み、クルリと後ろを向いた。
「おい! もう帰るのか?」
正吾が聞くと、サタンは『肩慣らしはこれくらいでいいだろう』と言い、空間に亀裂を生み出して、その中へと入っていった。
まるで嵐が過ぎ去っていったみたいだ。
とは言え、サタンがいなくなっては、こちらが勝てる可能性はかなり低くなった。
戦場に目を移せば、まだ戦っていたのはニーズヘッグだけだ。
地上に向かって火炎を吐き、多くの魔族を焼き尽くしている。
「エリゼ、俺たちも行くぞ! 親父と共闘して魔族の数を減らす!」
「はい、お供します!」
エリゼは門を叩き、ブランに間を置いて出陣するよう伝える。タイミングが重要だと分かっているのだろう。
正吾とエリゼは剣を構えて走り出した。
二人とも【竜気解放】のスキルを発動する。これで全てのステータスは倍増した。正吾はさらに【豪腕】のスキルも発動し、自分の力を最大限まで上げる。
剣を横に引き、魔族の集団へと突っ込んだ。
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