第14話
閃光は魔族の腹を貫き、遥か彼方まで飛んでいく。
『ぐっ……がはっ』
巨躯の魔族は膝を折り、大剣を地面に突き刺して体を支える。
『なんだ……あの、竜は? 俺の体を易々と……』
魔族は立ち上がり、剣を構えてニーズヘッグに襲いかかる。
「親父!」
正吾が叫ぶも、ニーズヘッグは微動だにしない。魔族が振るった剣はニーズヘッグの展開するバリアにぶつかり、止まってしまった。
魔族は顔を歪め、必死に力を込めるが、剣はまったく動かない。
『ふん、その程度の力で我に挑むとは、愚かにもほどがある』
ニーズヘッグがわずかに動くと、バリアが揺れ、膨張して爆発した。あまりの衝撃に魔族は吹っ飛び、尻もちをつく。
慌てて立ち上がろうとするが、煙の中から
『くそっ!!』
巨漢の魔族は大剣で防ごうとするも、熱線は大剣をも貫き、魔族の腕を貫通する。
『ぐわっ!』
魔族は腕を押さえ、尻をついたまま後ろに下がる。その様子を見ていた正吾は、思わず「すげえ!」と声を漏らした。
『やれやれ、この程度の者を一撃で倒せんとは……小さくなったせいで、我は相当弱くなったようだ』
ニーズヘッグは浮かんだまま、ゆっくりと巨漢の魔族に近づく。魔族は顔を歪め、迫ってくる竜を睨む。
その時、側面からローブを着た魔族が迫ってきた。
杖をかざし、ニーズヘッグに魔法を放つ。無数の火球が弧を描き、バリアに当たって爆発する。だが、バリアが破壊されることはない。
ニーズヘッグが鎌首を上げると、またバリアが膨張し始めた。
バリア全体が
巨漢の魔族は十メートル以上地面を転がり、ローブを着た魔族も空中でバランスを崩して地面に落下する。
ニーズヘッグは羽をはばたかせ飛翔すると、一気にローブの魔族に迫る。
相手が態勢を立て直す前に、口から強力な火炎を吐き出した。
炎はローブを着た魔族に直撃し、激しく燃え上がる。
『がああああああああああああああ!!』
悶え苦しむように地面を転がり、魔族は体に纏わり付いた火を消そうとする。
正吾はゴクリと喉を鳴らした。ニーズヘッグが強いのは分かっていたが、まさか、これほどとは。
まともに戦わなくて良かった、と改めて思った。
ローブの魔族はなんとか火を消したが、かなりダメージを受けたらしい。ふらつきながらも、また宙に浮かぶ。
正吾はニーズヘッグの元に駆け寄り、声をかける。
「親父、助かったぜ。あのままだったら、やられてたかもしれねえ」
正吾が礼を言うと、ニーズヘッグは深い溜息をつく。
『まったく、あの程度の敵に手こずるとは……我の眷属として、情けない姿を見せるでないぞ』
「そりゃ分かってんるんだけどよ。素手で戦うのはさすがにキツいぜ」
ニーズヘッグは『やれやれ』と首を横に振り、正吾の顔を見据えた。
『仕方がない。お前の武器を持ってきてやろう』
「え?」
ニーズヘッグが横を向くと空間が割れ、黒い亀裂が入る。黒い竜は『手を入れてみろ』と
すると、亀裂の先にあるなにかに手が触れる。
「これは……」
正吾はそれがなにか、すぐに分かった。しっかりと掴み、思いっきり亀裂から引き抜く。出てきたのはアパートに置いていた『大剣』だ。怪物男が使っていた剣。
正吾は亀裂から剣身を全て引き抜き、目の前で構える。
『それがあれば互角以上に戦えるであろう。我が眷属らしく、雄々しく戦うのだ』
「ああ、助かったぜ。親父!」
正吾は眼前にいる魔族たちを睨む。ニーズヘッグは空間を操る能力を持つ。この場とアパートを空間でつなげてくれたのだろう。なんにしてもありがたい!
正吾はニーズヘッグに感謝しつつ、剣の切っ先を魔族に向けた。
全力で戦えば、あの巨漢の魔族にも勝てるだろう。だが、二体の魔族を相手にするのは、さすがに分が悪い。
正吾は隣で浮かぶニーズヘッグに視線を向ける。
「すまねえが、親父。あのローブ野郎の気を引いててくれねえか? すぐにデカいのを倒して、ローブもぶっ飛ばすからよ」
ニーズヘッグはギロリと正吾を
『一族の長である我をなんだと思っておるのだ。顎で使おうとするとは、無礼千万であろう』
「いや、そんなつもりはねえんだけどよ。このままじゃ負けるかもしれねえ。親父だって、眷属のもんが負けるのは嫌だろ?」
『それは確かにそうだが……』
ニーズヘッグは苦々しい様子で、敵に視線を向ける。
『しょうのない従者だ。分かった。我があいつの相手をしよう。ただし! あくまで気を引くだけだ。あやつらはお前の敵、最後はしっかりとお前が決着をつけるのだ』
「ああ、分かった! しばらくの間だけ、頼んだぞ、親父!」
正吾は剣を片手に走り出した。後ろからは『やれやれ』とぼやく、ニーズヘッグの声が聞こえてくる。
これで一対一で戦える。正吾は【疾走】を使い、巨漢との距離を一気に詰める。
魔族も黙って見てはいない。大剣を振り上げ、迎え撃つ構えだ。
よく見れば、ニーズヘッグの熱線に貫かれた腹と腕の傷が治っている。
――もの凄い再生能力だ。ちょっとやそっとの傷では倒せないってことか!
正吾は覚悟を決め、意識を集中する。初めて試すスキルだが、こいつを使わなきゃ勝てないだろう。
「いくぞ! 【竜気解放】!!」
叫んだ瞬間――全身が金色のオーラに包まれた。体の底からどんどん力が溢れてくる。これが【竜気解放】か!
正吾は剣を振り上げ、巨漢の魔族に向かって振り下ろす。魔族も大剣を斬り上げてきた。二つの剣がぶつかり、衝撃音が鳴り響く。
正吾と魔族はギリギリとつばぜり合いをした。
バンッと剣を弾き、正吾は後ろに飛ぶ。竜気解放を使った今、力でこいつに負けることはない。正吾は自信を深め、再び地面を蹴って相手に突っ込む。
互いの剣が衝突するが、今度は一撃では終わらない。何度も斬り込み、魔族の出してくる剣を打ちつける。相手も剣で応じるため、なかなか斬撃は入らない。
だが、正吾は構わず剣を振るい続ける。
明らかに押していた。魔族の顔は曇り、焦っているのが分かる。ぶつかり合った剣を押し込み、左の下段蹴りを放った。
蹴りはまともに入り、巨漢の魔族はフラつく。
正吾は横に薙いだ剣で相手の大剣を弾き、そのまま剣を地面に突き刺す。勢いをつけて飛び上がり、剣を起点にしてドロップキックを相手に叩き込む。
これにはたまらず、魔族はよろめいて後ろに下がった。
正吾は畳みかける。剣を地面から引き抜き、切っ先を相手に向けて走り出す。
【疾走】を使ってさらに速度を上げた。巨漢の魔族は対応できない。
「いっけえええええええ!!」
正吾の持った剣が魔族の腹に突き刺さり、そのまま貫通する。相手は肩を掴んでくるが、正吾は気にせず、剣を押し込んだ。
「【雷撃操作】!!」
剣から稲妻がほとばしり、魔族の体を破壊していく。
『がああああああああああああああああああ!!』
断末魔のような叫び声。正吾は剣を引き抜き、一回転して剣を横に薙いだ。まだ動けずにいる魔族の腕に直撃する。
感触で折れたのが分かった。剣の切れ味が悪いため、斬り落とせなかったのは残念だが、ダメージを与えたことに満足して後ろに飛び退く。
剣を構え直すと、魔族はフラつきながらも仁王立ちし、腰を落とす。
そして顔を天に向け、大声を張り上げた。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
あまりの雄叫びに正吾は
『調子に乗るなよ、人間! 魔族との差を教えてやる!!』
巨漢の魔族は大剣を振り上げ、凄まじい速さで向かってくる。逃げる気はない。正吾は剣を構えて腰を落とす。
――迎え撃つのみ!!
魔族が全力で振り下ろした剣と、正吾がかかげた剣がぶつかり合う。
途轍もない衝撃が辺りに広がり、地面が割れて四方に亀裂が走る。正吾は歯を食いしばり、魔族の剣をカチ上げる。
思わぬ反撃に魔族はバランスを崩した。その隙に正吾は前に出る。
「おらあっ!!」
左の正拳突きが、魔族の顔面に入る。充分な手応え。だが、魔族は踏みとどまり、こちらを睨んでくる。
大剣を引き、横に薙いできた。正吾は屈んでそれをかわし、持っていた剣を突き上げる。巨漢の魔族はギリギリで避けたが、剣は相手の頬をかすめた。
魔族は膝蹴りを打ってくるが、正吾は難なくかわして飛び退く。
やはり、速さも自分が上。パワーもスピードも上なら、恐れるものはなにもない!
正吾は勝てると確信して前に出る。
相手の魔族も凄まじ速さで剣を振るってくるが、正吾の剣のほうが速い。何度も斬り合えば、その内の何回かは相手に入る。
胸を斬り、腹を斬り、腕や足も斬る。体が血に染まっても、魔族は剣を振るってきた。体の頑強さに、よほど自信があるのだろう。
体を貫き、【雷撃操作】でつけた傷も、もうほとんど治っていた。
ここまでタフなヤツは初めてだ。
「だったら――」
剣を下段に構え、【爆炎操作】のスキルを使い炎を灯す。【疾走】で勢いをつけ、魔族に向かい突っ込んだ。
相手も当然、剣でガードしたが、炎の剣は爆発して魔族の大剣を弾き飛ばした。
魔族は手を離さなかったものの、両手が上がり、体がガラ空きだ。
正吾は返す剣で相手に斬りかかる。
肩から脇腹にかけて斬撃が入り、さらに炎によって爆発した。踏鞴を踏んで下がる魔族に対し、今度は剣を横に振って右膝に斬り込む。
斬り落とすことはできなかったが、爆発して足をへし折った。
グラリと揺れる魔族の体。正吾は剣の切っ先を相手に向ける。
「おおおおお!!」
そのまま胸に突き刺し、炎を爆発させる。絶叫する魔族。炎は全身に広がり、皮膚を焼いている。だが、この相手はこれぐらいでは死なない。
正吾は剣を引き抜き、止めとばかりに上から斬り下ろした。
その刹那、片膝をついた魔族は力を振り絞って大剣を振るう。
剣と剣が衝突した瞬間――持っていた剣は正吾の手から離れ、クルクルと宙を舞い、十メートル先の地面に刺さった。
一瞬の油断。武器を失ってしまった。
魔族は大剣を振るおうとする。正吾はどうすべきかと頭をフル回転させた。
ここで引けば、せっかく負わせたダメージがまた回復してしまう。
長期戦になるのはマズい。魔力が続かず、自分が不利になる。コンマ数秒でそう考えた正吾は、
炎の灯った拳で、相手の顔面を殴りつける。それも二発や三発ではない。
十、二十、三十と恐ろしい速さで殴り続ける。炎が顔に移った魔族は悶え苦しみ、剣を離して正吾に掴みかかろうとした。
正吾はその手を弾き飛ばし、さらに数十発の拳を叩き込んだ。
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