第10話
今度のことをエリゼと供に考えた正吾は、敵を迎え撃つため、より強くなるしかないとの結論を得る。
「結局、こいつに頼るしかないか」
正吾の視線の先には、カプセルを入れたリュックとガチャBOXがあった。やはり、小さなモンスターを倒して地道に強くなるしかない。
すでに二週間取った有給休暇のうち、一週間を消費していた。残りはあと一週間、有意義に使わないといけない。
怪我が完治するまで丸一日を費やし、その翌日からレベル上げを行うことにした。
◇◇◇
「がんばって下さい。正吾様!」
「おう、任せとけ」
エリゼに励まされ、庭で屈伸をしていた正吾は大きく息を吸い込む。手に持ったカプセルを開け、前に放り投げた。
ひらひらと宙を舞う紙が、正吾の足元に落ちる。
『レア ヴァンパイア』
見れば翼を広げた小さな人間が、こちらを睨んでいる。
髪の長い妖艶な男性。タキシードのようなスーツを着ている。ニヤリと笑った口からは牙が覗くが、小さいので大した脅威は感じない。
正吾は地面に置いていた大剣を手に取る。怪物男が持っていた武器。
どれほど使えるか、ここで確かめてやる! ヴァンパイアが猛スピードで飛び、こちらに向かってくる。正吾は剣を構え、全力で横に薙いだ。
さすがに重く、速度は出ない。
ヴァンパイアは易々とかわし、血で作り出した剣を振るってきた。正吾の腕を斬りつけ、そのまま飛び去っていく。
「ちっ!」
服が切り裂かれ、血が流れる。浅い傷だが、うっとうしいなと正吾は舌打ちする。
かなりの速さで空を飛び回り、血の剣を振り回す。
何度か大剣を振り回すが、やはり当たらない。剣が重すぎるのだ。ヴァンパイアは軽やかに飛び、正吾の足や腕を斬っていく。
「腹立つな、こいつ!」
このままじゃマズい、と思った正吾は、剣を肩に乗せ、足を肩幅に開いて空中のヴァンパイアを睨む。
パワーが足りないなら上げればいい。
「【豪腕】!」
スキルで筋力を30%上昇させた。まっずぐ飛んでくる敵に向かって、剣を思い切り振り抜く。
想像以上に速かったのか、ヴァンパイアはかわすことができず、胴をまっぷたつに両断できた。
「よっしゃあ!」
喜んだのも束の間、ヴァンパイアの体から血が溢れ、分かれた上半身と下半身を繋いでいく。もの凄い早さの再生だ。
空中で元に戻った敵は、再び猛スピードで襲いかかってきた。
正吾は「上等!」と全身に力を込め、大剣を横に振る。今度は【火炎操作】を発動し、剣身に炎を灯す。
炎の剣で斬られたヴァンパイアは燃え上がり、地面に落ちて悶え苦しむ。
最後は煙になって消えた。やはり、攻撃力では『レア』のモンスターを圧倒している。レベルは上がらなかったものの、パッシブ・スキル【再生・中】を獲得した。
次に開けた『レア』のカプセルからは、ドレイクが出てくる。ドラゴン族のようだが、その中では弱いほうらしい。
火炎を吐きながら飛び回っていたが、正吾は【猛毒】を付与した大剣で斬り裂き、瞬く間に葬った。
ドレイクを倒したことで得たスキルは【火炎操作】。すでに同じスキルを持っていたので、二つは統合され、スキル【爆炎操作】へと変わった。
より強力な炎が生み出せるようだ。
その後も『レア』モンスターの狩りを続け、夕方までに【トロール】【サンダーバード】【バジリスク】【カーバンクル】の計六匹、全てのレアを倒した。
◇◇◇
「う~ん」
正吾がガチャBOXの液晶画面を眺めていると、隣からエリゼが話しかけてくる。
「なにか悩み事でもあるんですか?」
「いや、スキルポイントをどこに振ろうかと思ってよ。やっぱりデカい剣を振り回すのにパワーが足りない感じがするし……」
「そうですね。やはり重いせいか、剣に振り回されてるように見えます」
「やっぱ、そうだよな」
六匹のレアモンスターを倒したことによって、レベルは2上がっていた。獲得したスキルポイントは『10』。
どこに割り当てようかと考えていたが、エリゼの言うとおり、パワーが足りないのは明らかだ。正吾はSTR(腕力)に『10』全部を当てた。
そして得たスキルは【再生・中】と【火炎操作】に加え、【怪力・中】に【雷撃操作】【邪眼】【魔力増強・小】を得た。
パッシブスキルの【怪力・中】はSTRを20%増やし、【魔力増強・小】はMPを10%増やすらしい。どちらも強力なスキルだ。
【雷撃操作】は体の一部か持っている武器に雷を付与し、相手を攻撃することができる。【火炎操作】の雷撃版だ。
使い道は色々あるだろう。よく分からないのは【邪眼】か。
相手の目を見た時に、一定確率で『恐怖』を植え付けるらしい。役に立つんだか、立たないんだか分からない代物だ。
なんにしても、レアのカプセルは全て開けた。残っているのは……。
正吾はローテーブルの上に置かれたカプセルを眺める。
四つのカプセルがあり、三つは『SR』、そして一つは『SSR』だ。SRはなんとか戦えると思うが、SSRは怖すぎる。
過去の経験から、ワンランク上のモンスターを出すと、大抵酷い目に遭っていた。
できれば慎重に戦いたいが――
「正吾様、敵はいつやって来るか分かりません。早く力を上げるべきです!」
エリゼが両手を握り、目をランランと輝かせる。
時間を掛けられる雰囲気ではないな。と思った正吾は腰を上げ、『SR』のカプセルを一つ手に取り、庭に下りた。
ふぅと一つ息を吐き、カプセルの蓋を開く。中から黒い玉が出てきた。コロコロと転がり、庭の中央まで行く。
シュウウウウと黒い煙が吹き出し、渦巻く煙の中からなにかが出てきた。
ぼろ切れのような黒いローブに包まれたモンスター。暗黒騎士と同じく、やはり大きい。通常の小さな怪物の、三倍はあるんじゃないか?
正吾は大剣を構え、油断なく相手を睨む。
ローブを着た人型モンスターは宙に浮いていた。顔は半分以上隠れているが、チラリと見えた口元は、まるで骸骨のよう。
右手には杖を持っていた。魔術師系か?
下に落ちた紙を見ようとしたが、その前に骸骨は杖を向け、なにかを放ってきた。
正吾は後ろに飛び退き、相手の攻撃をかわす。
周囲に広がったのは、ドス黒いモヤ。なにかヤバそうだ、と思った瞬間、エリゼが大声で叫ぶ。
「あれは、恐らくアンデッドの【リッチ】。私の世界にもいる強力な魔族です。気を付けて下さい!」
「お、おう」
よく分からないが、とにかく強いモンスターってことだ。慎重に戦わないと。
正吾は距離を少しずつ詰めていく。リッチはまた杖を振り、ドス黒い瘴気を撒き散らす。これに触れるのはヤバそうだ。
正吾は離れた場所から、【空牙】を撃ち込んだ。大剣から放たれる【空牙】は、より強力な風の刃となって飛んでいく。
当たったろう、と思った刹那――リッチはひらりと身をひるがえし、風の刃を避けてしまう。
意外に素早い身のこなしだ。
近づくことができれば、直接剣をたたき込めるのに、と眉をひそめる。
ドス黒い瘴気に二の足を踏んでいると、一陣の風が吹いた。エリゼの放った風だ。突風は瘴気を押し流し、雲散させる。
正吾は「今だ!」と地面を蹴り、一気にリッチに近づく。
相手が反応するより先に、剣を振り上げ、全力で斬りかかった。
【爆炎操作】によって、剣身には激しい炎が灯る。リッチに斬撃が届いた瞬間――炎は爆発したように燃え上がり、敵を焼き尽くす。
【火炎操作】より、遙かに強力な炎だ。
剣を下ろした正吾は、家の中でピロリロリンと軽快な音がなる。さすが『SR』、一匹倒しただけでレベルアップしたようだ。
「お疲れ様です。正吾様!」
タオルを渡してきたエリゼにお礼を言い、汗を拭く。
「さっきは助かった。あのドス黒い瘴気があるままじゃ、近づくことができなかったからな。エリゼの風があったおかげで倒すことができた」
「いいえ、私が助力しなくとも、正吾様はすぐにリッチを倒したでしょう。余計な
「そんなことねえよ」
取りあえずガチャの前まで行き、獲得したスキルポイントの『5』を、AGLに振り分ける。
リッチを倒したことで得たのは、パッシブスキルの【再生・大】だ。RSC(回復力)を30%上げるもの。
これで【再生】の小・中・大が
――これで大抵の怪我はすぐに治るだろう。
正吾は縁側まで歩き、リュックの中からもう一つの『SR』カプセルを取り出す。
――今の俺なら、続けてスーパーレアのモンスターを倒せる。
正吾は自信を持って庭の中ほどまで歩き、カプセルを開く。中から出てきた黒い玉が、庭をコロコロと転がる。
煙の中から、大きめのモンスターが現れる。全長40センチはあるだろうか。
周囲には水の玉が浮かび、モンスターも宙に浮かんでいる。煙が晴れ、その姿がハッキリ見えてきた。
所々青みがかっている部分はあるが、全身のほとんどが白いドラゴン。正吾はカプセルに残った紙を手に取る。
『スーパーレア リヴァイアサン』
正吾は剣を構え、「おもしれえじゃねえか!」と舌なめずりする。リヴァイアサンは口から強力な"水"を吐き出した。
正吾は難なくかわし、剣を下段に構えて走り出す。
あのモンスターは水属性だ。正吾は【雷撃付与】のスキルを使い、大剣に雷の力を流し込む。【疾走】で一気に間合いを詰め、リヴァイアサンが反応する前に
ドラゴンは口に水を溜め、こちらに吐き出そうとしてくる。
だが、正吾の剣閃のほうが遙かに速かった。稲妻を纏った斬撃は竜の体を分かち、バチバチと雷の力で焼いていく。
リヴァイアサンの体は崩れ、煙となって消えていった。
「よっしゃ!!」
一撃で倒せたことに、正吾は思わずガッツポーズをする。水属性と相性がいい『雷』のスキルがあったのはラッキーだ。
ガチャBOXに目を移せば、ピロリロリンと楽しげな音を鳴らす。
近づいて確認すると、レベルが1上がっている。
そしてスキル、【水流操作】を獲得していた。
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