あの日と同じ星の下で

 午後17時、防災無線のチャイムで目が覚めた。

 辺りは夕焼けで照らされていた。

 (今日は何してたんだっけ……。また学校休んじゃったし。またお母さんに怒られそう……。)

 久しぶりに何も出来なかった日だった気がする。

 心が苦しくてご飯も食べれなかったし、これからも食べれなさそう。

 なんでこんな事になったかと言うと、全ての始まりは親の大喧嘩から始まった。

 今から約1年前。僕が中学2年生になった頃。

 時間は午後22時過ぎ。

 僕は2階にある自分の部屋に居て、小説を読んでいた。

 あんまり遅くまで起きているとお父さんに怒られるから夜更かしが出来ない……。

 僕には無関心なくせに早く寝ろとか、意味が分からない。

 「はぁ、今日ももう寝ようかな。」

 そう呟いた瞬間、1回から激しい怒鳴り声が聞こえた。

 お父さんの声のようだ。

 でもお母さんの声も聞こえる……。

 1回のリビングも扉は閉じているはずだが、激しく聞こえる。

 こんなにも喧嘩しているのは初めてだ。

 だから僕はとても怖かった。

 本当に僕の親なのかを疑うほどの怒鳴り声。

 (なんで……。どうしよう……。)

 どうすればいいのかが分からなかった。

 止めようにも、2人の喧嘩を止めに行ったら絶対に僕が怒られるし。

 まず喧嘩の止め方なんて分からないし……。

 ほんとにどうすればいいかが分からない。

 パニックに陥りそうだ。

 怖い。親が僕を怒る時も、僕を人間として見ていないような声で怒るけど……。

 今回のは人間ってこんなにも怖いのかと感じるほどだった。

 僕の感情は怖さと悲しさが限界を超え、気がつけば僕は涙を流していた。

 部屋の中で1人、かなり辛い夜を過ごすことになる。

 だから、僕は家を飛び出した。

 どうせ1人ならもうどうなってもいいと思った。

 時刻は午後23時20分。

 暗闇の中をひたすら歩いている。僕が向かうのはなんにもない土手。

 幸い、空は雲ひとつなく、快晴だった。

 上を見上げればたくさんの星が見える。

 まるでプラネタリウムのような感じ。

 でもそれは絶対に超えるレベルだと思っている。

 ここの場所は知っていた。でもこんな夜中に来るのは初めてだった。

 周りに街灯が全くないからここまで来るのが少し怖かった。

 それでも怖さが消えるほどの美しさが僕を落ち着かせる。

 「綺麗だ……。」

 「あれ、もしかして広斗くんだよね……?」

 「え!?あ!?」

 「あ!ごめんごめん!驚かしちゃったよね……。」

 急に女の子の声が聞こえてものすごくびっくりしてしまった。

 どうしよう。びっくりしすぎて心臓が持たない。

 「だ、誰ですか……?」

 「え、私の事分からないの?2組の凜々だよ。りりー。」

 「あ、凜々……ちゃん?」

 同級生の凜々ちゃんだ。同じクラスだけど、あんまり話したことがない。

 「珍しいね。広斗くんがこんな所にいるの。」

 「いつもの僕もあんまり知らないでしょ?」

 「まぁね〜、てかどうしたの?こんな時間にこんな所に居て。」

 「まぁ、めんどくさい事があったから。ここに来ただけだよ。」

 「めんどくさいこと?」

 「えっと……。親が大喧嘩して辛かったから……。」

 「なるほどね、それで嫌になってここに来たんだ。」

 「てか凜々ちゃんこそ、なんでここにいるの?」

 「私?実は友達と喧嘩しちゃって、嫌な事があったからここに来たの。ほら星空が綺麗だからさ、ここにいると落ち着くの。」

 「そうなんだ。凜々ちゃんも大変だね。」

 「うん……。でも広斗くんも私も同じような気持ちでここに来てるってことだよね?」

 「そうだね。」

 「めっちゃ奇遇だね〜」

 深夜に真っ暗な土手で2人。なんかすごい事をしているような感じだ。偶然とはいえ。

 それにしてもあの元気な凜々ちゃんも落ち込む事があるんだと感じた。

 「やっぱり今も辛い?」

 「まぁね〜。でも見てよ。」

 「ん?」

 「この空を。プラネタリウムよりも綺麗じゃん。だからもう落ち着くかも。」

 「確かに。僕も落ち着いてきた。」

 「よかった〜」

 その後、僕達は互いの愚痴を言い合い、気がつけば午前1時。

 凜々とはかなり仲良くなった気がした。

 それにしても全く眠くない。というかここで寝たら危ないかも。

 「今日はなんだか楽しい一日になったね〜!」

 「こちらそこ、楽しかったよ。」

 「しかも辛い事があったのに全部吹っ飛んじゃったよ〜」

 「僕も。」

 「やった〜!私たち気がつけばもう友達になっちゃったし、これからもよろしくね!」

 「こちらこそ、よろしくね。」

 「よし、じゃあそろそろ帰る?ここで寝ちゃったら危ないし。」

 「そうだね。」

 「お家はどっち側?」

 「僕はこっちだよ。」

 「あ、一緒の方向じゃん!一緒に帰ろ〜」

 「うん!」

 その夜は僕にとって特別だった。

 あの時も全部美しい星空のおかげだ。

 星の知識が全くなかった2人だけど、それでもいっぱい楽しめて、気持ちが楽になったから。

 星はすごいな……。

 楽になるなら星空を見るのが1番なのかもしれない……。

 今日は。

 辛い事……。がある……から。

 凜々ちゃんはあの場所に来るだろうか。

 僕はスマホを持っていないから、連絡できないし……。

 でも行くだけ行ってみよう。

 きっと今日も、あの日と同じ星空が見えるだろう。

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