第十三葉:スクラップブック〈夏休みの書〉(2)

☆☆☆☆☆


 ワタシの夢の中の宇宙空間で。秋の制服姿(長袖ブラウス・焦茶色ベスト・薄茶色チェックスカート)の鳴子が、一冊の本、【楽しかったこと】スクラップブックを眺めて満足そうに言う。

「~~うんうん。なるほどね。ちゃんとページが増えてて良かった!」

 記憶の要不要を整理するため作ったはずが、気づけば時々こうして、ページ数や内容を鳴子にチェックされるようになった。今見られているのは、夏休み中の出来事をまとめたページ。修道院体験とかその辺り。

「わたしも体験してみたいなー。シスター達と畑仕事するの、すっごく楽しそう!」

 アレを羨ましがるなんて変わっている。誰でも歓迎していそうだったし、体力のある鳴子が希望するのであれば、シスター達は喜んで許可してくれることだろう。

Srシスタージョアンナに頼めばできるんじゃない? 秋冬は別の野菜育ててるし。でも大変だよ?」

「そこがいいんだよ。走ってばかりにも飽きてるし、相談してみようかな」

「運動の気分転換にはいいのかもね」

「飽きると眠くなるから刺激が欲しくて……、あっ、聞いて櫂凪ちゃん! わたしあんまり居眠りしなくなったんだ!! このまま治ったりして~~」

 本を読む体勢から身を乗り出して、鳴子が顔を近づけてくる。だいぶ目の前まで。相変わらず距離が近い。あと、居眠りが減ったことは知っている。鳴子の父に聞いたからだ。


 夏休みの終わり頃、鳴子が寄宿舎に戻った日。両親を紹介したいと言われ、学校駐車場で鳴子父・母と会うことになった。その後、簡単な挨拶をしてから成り行きで、鳴子と鳴子母が寄宿舎に荷物を片付けるのを、鳴子父とワタシはその場で待つことに。その際、数分の時間つなぎに話をした。

 鳴子父は写真と比べてだいぶ見た目が変わっていて、ややふくよかな体型で目の下にクマがあり、疲れた様子だった。でも、穏やかな雰囲気は鳴子に良く似ていたように思う。

───

『~~まさか友達を置いていくとは……。そそっかしいっ娘でごめんなさいね、伊欲さん』

『大丈夫です、慣れましたから。朗らかで明るいところ、いつも元気をもらっています』

『そう言って貰えて親として嬉しい。伊欲さんは鳴子が言っていた通り、良い人だね』

『鳴子、さん、そんなこと言ってたんですか?』

『賢くて自分をしっかり持った優しい良い子だって、しょっちゅう言っていたよ。学校の話と……、悪夢の話をする時には必ず』

『悪夢の?! もしかして──』

『──協力してくれているんだよね? 聞いているよ。鳴子のためにありがとう』

『えっと、ワタシ大したことは……。助けてもらったんで、お返ししてるだけです』

『大したことだよ。伊欲さんに協力してもらってから、鳴子寝つきが良くなって昼間の居眠りが減ったらしいんだ。まるで悪夢に入り始める前みたいに。……あ、ダメだねこれじゃあ、押し付けるみたいになってしまった。申し訳ない』

───

 話の途中から鳴子父は、何度も何度も頭を下げていた。しきりに、『無理しないで』や『本当は悪夢に入らせたくない』と言っていて、鳴子の悪夢解決活動をとても心配しているようだった。


「~~ちょっと櫂凪ちゃん、聞いてる?!」

「ごめん、聞いてなかった」

 取り繕わないで言うと、鳴子に肩を揺すられる。

「もー! 櫂凪ちゃんすぐ自分の世界に入るー! 夏休みのことはわかったから他は?」

「他?」

「一学期の楽しかったこと!」

「前の方にあったでしょ?」

「前って……、涼香ちゃんのことだけ??!! 絶対もっと色々あったよ!!!」

 二、三ページにまとめた記録を見て、鳴子は露骨に不満顔。自身のこめかみ辺りを人差し指で円形になぞった。

「何やってるの?」

「ちょっと待ってね、コピーあげるから……!」

「頼んでないけど……」

 なぞった場所が発光。指先に摘ままれ横長の紙が出てくる。写っているのは、七月の試験前に入った悪夢のこと。成績の悩みに関係する悪夢かと思ったら違った上、ワタシ達の体感時間がやたら長い悪夢(?)だった気がする。

「櫂凪ちゃん、長いから忘れようとしたんでしょ?」

「それは……」

「顔に出てるよ」

「う……」

 せっかく整理したのに、ウキウキした口ぶりで鳴子は夢の話題を出した。忘れかけていた記憶が蘇ってくる。

「あんなに楽しかったのに全カットなんてもったいない! 『勉強のことなら解決できるかも』って言ってた櫂凪ちゃんが、夢に入った瞬間『無理そう』って諦めたとことか!」

「試験前にアニメの夢を見てるなんて思う? アニメ詳しくないから、何していいかわかんなかったし」

「漫画やライトノベルの『あるある』が混ざってたけど、櫂凪ちゃん見事に全部知らなかったね……」

 一学年下の子がみていた創作の展開に悩む悪夢で、剣と魔法のファンタジー世界を冒険する内容だった。ワタシや鳴子は登場キャラクターになっていて、剣士だったり魔法使いだったり、色々やらされた。

「でも、なんだかんだ櫂凪ちゃんさすがだなって思ったよ。最後は重要キャラじゃない軍属の魔法使いだったのに、『真っ当に訓練した人間が弱いワケない』って、夢の主を納得させて──ああっ、そんなにカットしないでよー!」

 語っている間に、鳴子が出した紙にハサミを入れて小さくする。とても不服そうにされたが、全部覚えてはスクラップブックじゃない。ワタシが出ている部分はそこそこに、鳴子が村娘だったり格闘家だったりしていたところを抜き出した。


「ところで、鳴子」

「なに?」

「あの夢、屈強な男の人もいたけど、平気そうだったね」

 ファンタジーの夢だけあって、大柄な戦士や武器屋のおじさん、美青年など様々いたが、鳴子はさほど怖がっていなかったように思う。

「夢の主が女の子だから平気だったんじゃないかな?」

「あー、そっか。なるほどね」

 加工が終わって、やたらページが増えたスクラップブックを本棚に収納。

 ワタシを見ていた鳴子の視線が、しまった本の隣に向いた。

「ねぇ、その豪華な装丁の本って前なかったよね?」

 言われているのは、他と明らかに違う、厚みとパール感のある白色表紙の本。各所に金の箔押し模様付きの豪華仕様で、オモテ面の半分くらいに深い青色が四角く塗られている。

「こ、これは……。なんでもないよ」

 本棚の前で壁になるワタシ。

 興味津々で近づく鳴子。

「えー、気になるよー」

「み、見せ物じゃないから。今気づいたけど、ワタシのプライバシー考慮されてなくない?」

 このままではマズイと、とっさに誤魔化し。

 意外にも鳴子はすんなり納得。頭まで下げた。

「言われてみれば、たしかに。記憶を手に取って見られるのは珍しいから、頭から抜けちゃってた。ごめんね」

「あ、いや、別に本気で言ってないよ。本当に見られたらマズいのは自分でわかるし、隠すなりするから。と言うかそもそも、見に来られること自体が珍しいよね」

 鳴子に頭を上げさせる。ホッとした表情だった。

「困らせちゃったと思った。当たり前に来てるけど普通じゃないね。当たり前に夢に入るなんて……あれ?」

「どうしたの?」

「あそこ、何かあるよ。櫂凪ちゃん心当たりある?」

 ワタシの後方遠くに、鳴子が何かを見つけた。宇宙の景色の遠くに、白い渦の壁が見える。鳴子の夢で見るものの色違いで、形は同じ。

「うーん……、わからない。なんだろうね」

「わたしのと同じなら、悪夢に繋がってるのかな?」

 見ても異常は感じないので、笹舟を出して二人で近づいてみる。

 渦の目の前で鳴子が腕組み。注意深く観察した。

「変な感じはしないなぁ。悪夢じゃないかも」

 残念ながらワタシには、感覚的な違いはわからない。

「そんなことあるんだ」

「たぶん?」

 鳴子が首を捻る。今までにないパターンらしい。

「勝手に出てくる渦は基本、悪夢だったから……。念のため入ってもいい?」

「いいよ。行こう」

 棹で水底(宇宙だけど)を押して、舟を進める。吸い寄せられる感じはなく、舟は抵抗なく白い渦へと入っていった。

 ……しかし。

「ふぎゃ?! ……ごめん鳴子っ。ワタシ起きそう」

「えぇ?! なんで??!!」

「なんか顔に当たった! たぶん現実で」

「そんなー!」

 夢から夢への移動で通る真っ暗空間。の、白バージョン。真っ白空間。その中でワタシは、顔面に薄い何かが貼りつく感覚に襲われた。息が少し苦しくなり、(夢での)意識が薄まる。

「ダメだ、本当に起きる。二度寝できたら追いかけるから──」

 そう伝えて、目が覚めることに身構えた。

 どこからともなく女の子の細い声が聞こえてくる。鳴子の返事じゃない。


『~~て。私を見て……!』


 誰だっけ。誰だか知ってる気がする。だけど意識の切れ目で、上手く声を認識できなかった。


☆☆☆☆☆


 めがさめた。かおを振って、起きた原因を知る。枕の横に落ちていたのは、二枚の紙がホチキスで綴じられたもの。夏休み半ば頃からチェスト上に放置していたそれが、開いた窓から吹き込んだ風で飛ばされてきたらしい。

 二度寝で追いかけると言ったものの、止めた。涼やかな風とカーテンの奥に見えた赤みがかった空は、まさしく九月の朝。時間は起床の鐘がなる三分前。

「ごめん、今から二度寝は厳し──」

 隣で眠る鳴子に謝罪。しようとして息を飲んだ。

「──ッ。なんでそんな顔して……?」

 横向きに眠る鳴子の表情が、見たことがないほど曇っている。寄せられた眉も、力の入った目元も、顔の近くで握った拳も。怒りか、憤りを感じてる……?

「あっ……」

 カンコンと聞こえてくる鐘の音。

 鳴子が体をゆっくりと上げた。

「おは、よう、かいなちゃん……」

「大丈夫? 寝顔、すごく険しかったけど……」

「うん……。わるい夢じゃないと思ったのに、悪い夢だったから……」

「どういうこと??」

 ベッドに座った鳴子は、片手の掌をおでこにあてて、目をぎゅっとつむる。

「……いじめの夢だった。わたし達のクラスで起きてる」

「なっ……。誰が被害に?」

「それは~~」


 説明を聞いて、なぜ夢の主と繋がったのか理解した。寝ているワタシに落ちてきた紙は、オープンスクール用パンフレットの一部。ワタシ達が所属する、難関大進学希望者クラスの紹介ページ。夏休みに、来年配布用の原稿を作っていたメアさんから、意見を聞きたいと渡された。

 過去二年分あり、内容はクラスの勉強風景の写真や一部生徒へのインタビュー。メアさんはワタシ達の学年がお気に入りらしく、去年のは一年生の時の、今年のは二年生の時のワタシ達がパンフレットに載った。


「~~じゃあ夢の主って──」

「──みのりちゃんだと思う」

 名前を聞いて、パンフレットを手に取る。インタビューを受けた生徒を見るために。一枚は、ぎこちない笑顔でインタビューに応じる、二年生の時の【小野里おのざとみのり】さん。もう一枚は、自信に溢れた笑顔で写る黒髪ロングヘアの少女、一年生の時の【ごん真理華まりか】。

「学校で話、聞いてみる?」

「うん……!」

 ワタシの提案に、鳴子は力のこもった語気で返した。……ワタシも、いじめは重大な問題だと思う。だけど鳴子の受け止め方は、ワタシよりも何倍も重いものに感じた。


~~


 夏休み初日のお昼休み。鳴子の分の惣菜パンを買って教室へ戻る。鳴子には教室に残って、小野里さんや周りの様子を探ってもらっているためだ。

「……?」

 階段を上る途中で、上階から話し声が聞こえて立ち止まった。声の主は、Srジョアンナと……、小野里さん?

『~~小野里さんの希望で待ちましたが、これ以上は見逃せません』

『もうちょっとだけ待ってください、Srジョアンナ! 必ずなんとかしますから』

『……わかりました。だけどこれで最後にしましょう。私は来週の最初に話します。それまでが期限です。いいですね?』

『……はい。わかりました』

 諭す口調のSrジョアンナと、何かを承諾させられたらしい小野里さん。話が終わり、足音の一つが階段を下ってくる。

 聞き耳を立てていたと思われないよう、今まさに階段を上がってきた風を装った。

「ごきげんよう。Srジョアンナ」

「ごきげんよう、伊欲さん。自然に挨拶ができるようになりましたね」

「は、はい。さすがに、三年もいるので」

「日々、成長ね。良く食べ、良く学ぶと良いわ」

 微笑みを浮かべて、Srジョアンナは去っていった。……もしかしたら、鳴子の分のパンもワタシ一人で食べると思われたかもしれない。

 階段を上がったところに小野里さんはおらず、廊下の先の、教室前に立っていた。遠目でもわかるくらい大きく深呼吸して、教室に入っていく。Srジョアンナと、何を話していたんだろう?


 戻ってきた教室は、いつも以上に騒がしかった。ワタシ以外ほぼ全員が机を寄せてお弁当を広げ、お喋りに大輪の花を咲かせている。長期休み明け恒例イベント、夏の思い出自慢大会。

 自慢と言ってもお金持ち同士。本当の意味での自慢にはならないので、互いがハイクラスだと確認し合うだけの、お喋りと相槌のターン制会話遊びと化している。

××なになにを観に、××どこどこへ行って~~』

『素敵ですわね。私は××どこどこ××なになにをしに~~』

 と、言った具合。愛想笑いを添えることを忘れてはいけない。話題はだいたい海外での観劇や美術鑑賞、買い物など。ヨーロッパが定番のようでいて、庶民ワタシの知らない国(お金持ちにはわかるリゾート地)が話題に上がることもある。

「~~の収蔵品が気になって行きましたの」

「えー、すごい! その美術館ってどんなところ? 写真撮ったりした??」

「え、ええ。どうぞこちら、ご覧になって」

 社交辞令とは違う、本当の興味を感じさせる楽し気な相槌が聞こえてきた。形式的な自慢が本当の自慢になって、かえって話す側が変なペースになっている。

「わー、美術館も美術品みたい!」

「その通りなの。建築も彫刻も××期のものが残っていて~~」

 気分が良くなったのか、普段は続かない会話が二度、三度と進んだ。段々と自慢成分は少なくなって、どう楽しかったとかの感想や、どんな場所なんだとかの紹介やら。普通のお喋りになっている。

「~~ちゃんはどんな風に過ごしたの?」

「私は××で~~」

 話しが一段落し、聞き手は変わらず話し手が別の子に。こちらも楽しく話した。完全に聞き手の……、鳴子の影響と言っていい。

「~~舟渡さんは、夏休みは何をしてらしたの?」

 そして鳴子にも話が振られる。自分達の話だけで終わらないところは、互いを探り合うクラスメイトの美点と言えなくもないかもしれない。値踏みされている気がしてワタシは嫌だけど。

 鳴子は物怖じせずに、いつもの朗らかさで話した。

「わたしは田舎の田舎のおじいちゃんで、お米作りの手伝いをしたよ! 草刈りとか、溝切りとか!!」

「田舎の、田舎?」

「実家がある地方の、さらに田舎だから!」

「ふふ、変わった表現をなさるのね」

 独特の言い回しで小さな笑いを起こして、鳴子は楽しく田舎の夏を語った。事実だけを抜き出すと大変な農作業なのだが、鳴子が言うと面白そうに聞こえる。……と、ワタシはここまでただのお喋りと思っていて、それが準備を兼ねていたと気づいていなかった。

 机を固める二人との会話の切れ間。鳴子はごく自然に隣の島へと体を向け、一番近い子、小野里さんに声をかけた。

「実ちゃんは夏休み、どんな感じだった?」

「え? 私?」

 驚いたのか、小野里さんは黒縁丸眼鏡のつるに片手を触れ、上げ下げ。

 鳴子は柔らかく笑う。

「うん! びっくりさせてごめんね。せっかく二学期だから、一学期あんまり話せなかった人ともお話ししたくて!」

 話しかけたのはいきなりだが、タイミングは無理やりではない。小野里さんのいる四人組グループは、鳴子が話しかけるよりいくらか前から黙っていた。理由は一目でわかるもの。グループリーダーの真理華が会話に飽きて、携帯電話をいじり始めたから。

「そ、そうなんだ……。私は……」

 小野里さんは三つ編みお下げ髪をぎゅっと握り、真理華をチラリと見る。

 瞬間、小野里さんは言葉を飲み込み、真理華が口を開いた。


「貧乏人が絡んでくんなよ。輪から外れないよう無理してんのが透けてイタイわ」


 派手な茶色巻き髪をベージュ色ネイルの指で回し、吐き捨てるように真理華は言う。携帯電話を机に伏せ置き、見るからに不機嫌で威嚇を感じる目つきを向けて。

 鳴子は一切引かず、穏やかな表情のままあっさり返した。

「わたしはみんなと仲良くしたいだけだよ」

「する気がないって言ってんの。さっさと消えてくんね?」

 真理華がすごむ。

 それでも鳴子の態度は変わらなかった。

「真理華さんがそう言うなら、真理華さんには近づかないようにするね。だけど、今わたしが話してるのは、実ちゃんだから」

「ッ!? てめぇ!!」

 ガシャリと音を立て椅子から立ち上がる真理華。ずいぶんな煽りようだが、たぶん鳴子に怒らせる意図はない。天然。悪意のカケラもない朗らか顔がその証拠。しかしかえってそれが、真理華を苛立たせている。

 急に怒りだした(と思っている)真理華に首を傾げながら、鳴子は小野里さんに話した。

「いつか改めて聞くね。仲良くできなくても、話くらいはしたいから」

「う、うん」

 どうやら、これ以上は踏み込まないらしい。行動力に感心しつつ、買ってきたパンをそっと鳴子の机に置いて、薄情ながらワタシはさっさと昼食をとった。

 そして、残りの昼休みを自習に充てるため席を立っ──。

「──櫂凪。貴女といい鳴子といい、真理華を怒らせるのが本当に上手ね」

 前で席を固める沙耶が、振り返って言う。

 何のことかさっぱりわからない。

「言いがかりはやめて。ワタシ、真理華に何もしたことないから」

「はぁ……。頭はいいのに感覚は鈍いわね。猛進するしかないから周りに目が向かないのかしら。特に、後ろには」

 大きなため息と、分かりやすい呆れ顔。

 少し腹が立つ。

「それがどうしたっての。もう行くから」

「はいはい、どうぞご勝手に」

 沙耶が話しかけてきたのが気にならないではなかったが、さっさと教室を出た。出がけに、真理華と小野里さんをチラ見。

 真理華は机に高級化粧品の容器を並べ『秋の新作で~~』とか、『夏の日焼けが残る肌にはこの色が~~』とか言って試し、小野里さんはよくわからない顔で言われるまま相槌を打っていた。


 結局その後、何もできず放課後になって、鳴子と二人で寄宿舎に帰った。鳴子曰く、真理華の目が厳しくて、小野里さんとはまともに話せなかったらしい。

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