四日目

その日、サブが目覚めてくることはなかった。

初日から、食事の箱は毎日減っていた。


この施設に残ったのは、ぼくと、マリアと、キティだけになった。

短い日数だったが、様々なことが起こり、それは遠い昔のことのように思えた。


ここで出会ったぼく以外の六人。彼らと長い付き合いをしてきたのだと、そう錯覚するほどの感覚。


ぼくはここにきて、初めてマリアに頼まれて三人で遊ぶことを承諾した。

ぼくが絵本を読み聞かせる。すでにマリアが何度も読み聞かせたであろう絵本だ。

どんな本も、読み手によって何かが変わるのだろう。


『七匹の蛍』

“七匹の蛍 空を飛ぶ 光を放ち 空を飛ぶ”


“彼らの光は キレイだな 賑やか故に キレイだな”


“六匹の蛍 天を飛ぶ 光を照らし 天を飛ぶ”


“彼らの光は キレイだな 鮮やか故に キレイだな”


“五匹の蛍 宙を飛ぶ 光を咲かせ 宙を飛ぶ”


“彼らの光は キレイだな 秩序が故に キレイだな”


“四匹の蛍 故郷を飛ぶ 光を奏で 故郷を飛ぶ”


“彼らの光は キレイだな 静けさ故に キレイだな”


“三匹の蛍 果てを飛ぶ 光を標に 果てを飛ぶ”


“彼らの光は キレイだな 儚さ故に キレイだな”


“二匹の蛍 闇を飛ぶ 光を助け 闇を飛ぶ”


“彼らの光は キレイだな 無辜たる故に キレイだな”


“一匹の蛍 白を飛ぶ ぼくらを胸に 白を飛ぶ”


“彼の光は キレイだな 遺志たる故に キレイだな”


“蛍がゼロ匹 暗の中 しかし光は紡がれる”


“七匹の蛍 空を飛ぶ 次は私と 空を飛ぶ”


絵・作:国際教育政策研究所


ソフトなタッチで描かれているデフォルメされた蛍たち。

その蛍たちは使命感をもったような強い顔で、それでいてニコニコとした笑顔で様々な場所を飛びながら、一匹、また一匹が仲間たちから離れていく。


蛍が向かった先で光が灯っていく。パステルカラーの世界。幻想的な光、灯。


やはり悪趣味な絵本だ。出来損ないのマザーグース。誰もが知っている結末。

初めからそこにあり、終わりに開示される。無意味なネタバラシ。


そういうことだ。


この施設のすべてだ。


穏やかな一日だった。この施設に入って初めて、そんな望んだ日が訪れた。


その夜。キティは息を引き取った。

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