一日目(2)

扉の先に広がっているのも白い壁、白い床、白い光。


入口は後ろで静かに、静かに閉ざされた。


白で構成されているその施設を、ぼくたちは一緒に見て回ることにした。


「ね、ねぇジヤンくん。キティちゃん。ふたりはい、いくつ…?」

先に進むとき、前にいたヘイが、近くの幼い姉弟に声がけをしている。


キティはジヤンを隠すように下をむいて、怯えている様子だ。


「ね、ねぇ」

それでもしつこく聞いているようだ。


「ヘイさん、彼女は怯えてますよ」

そう後ろから彼に声をかけたが、そんなぼくの声より大きな声が前方から飛んできた。


「やめて!」

マリアだ。


「嫌がっているのがわからないの?」

マリアは、振り返ってさっとキティとジヤンの姉弟の前にでる。


「ご、ごめんなさい。で、でもボク……」

ヘイはマリアの大きな声に怯えて強く動揺している。


「そういうつもりじゃ」

ヘイが手をマリアのほうに手を伸ばすような動作をとっている。

「さわらないで」


「あ、あ……」

トラブルが大きくなっていき、先に進んでいるサブやサイクがこちらになんだ?と声をかけてくる。


「落ち着いてください。ヘイさん。それにマリアさんも」

ぼくはヘイの肩に手をのせ、柔らかな声色をつかって声をかけた。


「ほら二人も怖がってますよ」


マリアがこんな大きな声をだすタイプだとは思わなかった。

このシチュエーションだからだろうか。幼い子供に対する思いが強いのか。責任感か、それともほかに何か理由があるのか。


トラブルは収まり、二人は落ち着いたようだが、このような不和はまた起きるかもしれない。


そう考えたのはぼくだけじゃなかったようで、マリアが二人の姉弟を連れてぼくの横に来て、小さい声でぼくにそっと話かけてきた。

「すみません。取り乱してしまって。ありがとうございます」


「いえ」


「あのヘイという人。少し危なそうというか、この子たちが」


「わかりますよ。怯えてましたからね」


「ここにいる間だけでも、この子たちのために彼には注意したほうが良いと思うんです。彼が召されるまでの間は」


マリアはがネックレスの十字架を握りしめながら言った。


不気味な沈黙が広がる。


一拍置いて。

「確かにそうですね。じゃあ、二人で子どものお世話をしましょうか。お守りもかねて」


「ありがとうございます。エドさん。」

嬉しそうにマリアはこちらを見てくる。彼女はこの施設で子どもを見守る母親の役割を担うことにしたらしい。


さて、この施設は、見事に円形にカタチ造られているようだ。


先ほどいた玄関の広場から扉を抜けて、左右に廊下がカーブを描いて伸びていおり、最終的に繋がっている。廊下の道中にメンバーの部屋がある。ネームプレートの代わりに、番号が振られていた。左側の部屋から時計周りに、1、2、3.4.5.6.7。


「やってきた順番と同じ番号の部屋をつかったらどうでしょうか?」

マリアがそう提案し、ぼくたちは同意した。


だからぼくの部屋は7番。施設に入ってきてから右側の廊下を進んで初めの部屋だ。

円をえがく廊下。中心には大きなリビングがある。


柔らかそうな大きなソファが置いてあり、その前に低いローテーブル。


部屋の隅には積み木が入ったボックス。本棚とそのなかに絵本がまばらに入っていた。

家具もすべて白く、清潔感がある。


リビングに続くのはダイニングで、こちらは背の高い丸いテーブルが真ん中に固定されている。囲むように、七つの丸い椅子も。


おそらくここで全員が食事をとる想定なのだろう。共同の大きな鏡のある手洗い場とトイレもダイニングの横についていた。トイレットペーパーや生理用品が棚の中に整然と並んでいた。


目につくのは、食事搬入口と書いてある窪みだ。施設にキッチンがないのはこれが理由だ。全員分の食事はここに用意されるのだろう。


扉がついているのはそれぞれの個室だけで、それ以外の部屋は広い入口でつながっている。


「それじゃあ、これからは自由に過ごさせてもらう」一通り見て回った後、サブがそう言い、ぼくたちはなんとなく解散していった。


とりあえずぼくは7の番号が振られた自室に静かに入った。扉は内側からは鍵がかけられる。非常にシンプルで中心にベット。奥にトイレとシャワールーム。それだけだった。


ベットの上には数着の下着、柔らかな素材のパジャマのような服が畳まれて置いてあった。


腰かけて休憩し、この施設のこと、メンバーの面々のことを少し考えるが、それも意味がないことはわかっていた。


(さて、どうしようか…)

この七日間を、ずっと自室で過ごしたって構わないわけだが。他の人々はどうだろう。幼い二人の面倒を見ると言ったマリアとの約束を思い出す。


(ジヤンとキティ。あの姉弟は何をしているのだろう)


ぼくは、リビングルームにあった積み木や絵本の存在を思いだし、自室の扉を開けて外に出た。


「な、なんなんだよ!お前は!」

すると、ヘイの大きな声が聞こえた。


(なにをしているんだ…)


すこし呆れた。最後の数日ですら、こんなにもトラブルが絶えないとは。


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