第18話 恋の終わり

 私達は白尾様を中心に三角形状で囲い、籠目かごめの唄を歌いながら周りを回る。


「「『籠目、籠目、籠に囲まれた小さな鳥居は、何時何時いついつ出会う、夜明けの番人、鶴と亀につっぱいた、後ろの正面は誰そ』」」


 ※籠目=囲め 籠に囲まれた鳥居=神社や神 夜明けの番人=太陽光=神の光 鶴=天 亀=地 つっぱいた=引っ張り出す 後ろの正面=鬼 誰そ=誰だ? (注意:作者の創作です)


 何度も同じ唄を歌いながらぐるぐる回っていると、六芒星ろくぼうせいの光が浮かび上がり白尾様を取り囲む。


『猿田の爺さん… 最後じゃ。何か言う事は?』


「し、白尾よ。辛かったのう…」


 ウッキー様はうっすら涙を浮かべて白尾様を見つめている。


「さ サるたヒコさまァ m ムねんで あrマす」


「あぁ、あぁ… 白尾、すまんなぁ」


 そして、三人で視線を合わせ頷く。一斉に最後の言葉を発した。


「「『白尾』」」


「ウがぁぁァァァ!!!」


 ド~ン!


 どんよりした結界内に空から光の柱が立つ。光が命中した白尾様は足元から徐々に灰になって崩れていく。その様子を私達は無言で見送った。


 最後、白尾様の顔が消える瞬間、私の希望がそう見えさせたのか… 一瞬ほほえんでいる様に感じた。この後、白尾様は邪道の世界へ行くのだろうか? 決していい世界ではないのだろうけど…



 しばらくして、イッチー姫がいつものテンションで話し始める。


「さぁって、ウッキー、さらわれたって言う娘さんはどこかしらねぇ?」


「おぉ、そうじゃった、そうじゃった」


 ウッキー様も我に帰り、祠の周辺などを探し出す。


「居たわ!」


 拐われた女性は祠の中で眠っていた。ちょっと衰弱しているけど大丈夫との事。


「あぁ、よかったわ。怪我もない様だし… 白尾の神力に当てられてずっと気絶していたのね。神力をまともに受けてたんじゃ、普通の人間には苦しいでしょうから」


「そうじゃな… しかし何事も無かったのが幸いじゃ。白尾は邪気で覆われた自身を分かっていたのか、愛ゆえに娘自身に触れなかったか… はぁ、まぁこれで一件落着じゃ」


『猿田の爺さん… まぁ、何じゃ、今度酒でも飲もうか』


「そうじゃな… 今日の礼もせんといかんしな。今度うちに遊びに来い。姫もな」


「えぇ、私も? じゃぁ、綾ちゃん達も呼ぼうよ。留守護達の顔合わせなんてどう? ねぇタミちゃん」


「え? でも、私は代理ですので…」


「え~、もうタミちゃんがやればいいのに~。こんなにも同化が完璧なのに?」


『そうじゃ、建美、いい機会じゃこの際、建造と交代せい。今回も良くやった』


「いやいや、今回はタケル様がやったんでしょう? 私何もしてませんし」


「ふぉっふぉっふぉ、建美ちゃんは謙虚じゃな~」


 いやいや、だからね! 違うってば!


『まぁ、良い。その話はまた今度じゃ。それより、この娘どうするんじゃ?』


「そうじゃな… いつもの様に神隠しとでもしとこうかの? 娘の家の玄関先に置いてくるわ」


 神隠しって… 今時誰も信じないでしょ。誘拐? または徘徊? 数日だけどちょっとした事件だよね。


「この女性、記憶って残ってるんでしょうか?」


「ちゃんとその辺りはチャチャッとやっておくから心配ない」


 ウッキー様は少しだけ苦笑いをしてその女性を見ている。


 その後、ウッキー様は結界内を浄化し、後始末があるからと女性を連れて早々に帰って行った。


「じゃぁ、私達も帰ろっか。綾ちゃんが心配してるわきっと」


『そうじゃ! 綾人にはもう修行は終わりだと伝えてくれ。明日か明後日には、我らの本体が出雲から帰って来るじゃろうし。後は、お前がきちんと稽古をつけてやれ』


「そうね。じゃぁね、ターくん、建美ちゃん。綾ちゃんの事、ありがとね。今度お礼するわ」


『あぁ』「さよならです、イッチー姫」


 タケル様モードでお昼前に家に着いた私は、案の定、同化を解くと同時に全身筋肉痛でそのまま眠りについた。



 ふと私は目が覚めると、目覚まし時計は四時過ぎを指している。ボ~ッとする頭をぽりぽりしながらベットから降りる。


「ん? あれ?」


 筋肉痛で動けないと思っていたが、スッと立つ事が出来た。てか、全然痛くない。あれ? どうしてだ?


 不思議に思いながら茶の間へ行くと、お腹がグ~っと盛大に鳴った。


「お~、タミ、ご苦労さん。って、すごい腹の音だな。ぷぷぷ」


「うるさいよ。次郎、来てたんだ。おはよう」


「お前おはようって… 今日はタケル様の本体が帰って来るそうだから、一応挨拶しようと思って」


「ん? あれ? 今日って何日?」


「あ? 八日、日曜だ」


「え~!!! 私、丸二日も寝てたの?」


「あぁ。すごい御勤めだったんだってな? あんまりにも起きないから建造さんがイッチー姫に神実をもらいに行って砕いて食べさせていたぞ」


「え? 記憶にないな…」


「何でも、寝ながら食べたらしい… どんだけ食い意地張ってんだよ。ははは」


 そっかそっか、それで体が軽いんだ。でも良かった~。起きて動けないとかマジで地獄だし。


「まぁ、タケル様が戻るまでまだもうちょっとかかるだろうから、風呂に入って何かつまめよ。夜は寿司なんだってよ!」


「お寿司! やったね。じゃぁ、軽く食べるだけにしよう~っと」


 鼻歌交じりにお風呂へ向かう。次郎は相変わらず自分家みたいに茶の間で寛いでいる。


 私はシャワーをしながら白尾様の事を思い出した。


 恋に破れた悲しい狐。もし、誰かが仲に入って止めていれば… ちょっとは結末が違ったのかもしれない。あの父親も、自分で判断せず… でも神様の存在って知らないもんね。私もちょっと前までは視えさえしなかった訳だし。でも、あの時… な~んて、恋にはなんて無いか。


 ガシャガシャと頭を洗ってさっぱりした私は脱衣所に出る。


「なっ?」

「おっ!」


 めっちゃ美形の見知らぬ男性が洗面台で手を洗っていた。私は一瞬ほおけたが、裸なのを思い出して、再びお風呂に戻って急いでドアを閉める。


 誰? 誰? え? 何? 何が起こった?


 パニック状態の私はとにかく裸を見られたのが恥ずかしくて、ドアを開けられずにジタバタしている。


 強盗?

 いや、強盗は人の家で手を洗わない。

 てか、次郎は気付かなかった? 本当に誰?


 ちょっとドキドキが落ち着いたので、そろ~っとドアを開けるとさっきの男性はもう居なかった。


「ふ~。てか幻覚? 寝過ぎ? お腹減り過ぎなのかな?」


 うんうん、ちょっと白尾様の事を思い出していたし、心が恋愛モードだったのかもね。んで、イケメンの幻覚を見てしまったと。うん、そう言う事にしとこう。裸見られたって、幻覚なら問題ない、うん。そうだ。


 私は気を取り直して身なりを整えて、再び茶の間の方へ。でもお腹が空いていたので、台所へ直行した。


「次郎~。あんたも何かつまむ? ピザトーストでもしよっかな~」


 ふんふんふ~んとご機嫌に台所から次郎へ呼びかける。トマトソースを塗って、チーズを乗せて~。


 …


 あれ? 返事がないな。


「ねぇ、次郎? 食べないの?」


 …


 ん? どこかへ行ったの? 私はあまり気にせず、即席ピザトーストを焼いていたら茶の間からお爺ちゃんの声がした。


「タケル様、ご苦労様でした。今、お茶を用意いたしますので」


 と、お爺ちゃんが台所へやって来る。


「おぉ! 建美、起きたのか。ん? パンを食べるのか?」


「うん、お腹空いちゃって。って、お爺ちゃん寝てる間に神実を食べさせてくれたんでしょ? ありがとう。おかげで身体が楽なんだ」


「あぁ、それは良かったな。それより建美、茶の用意を頼む。タケル様が出雲よりお戻りになられた。お前もそれを食べたら茶の間へ来いよ」


「は~い」


 お爺ちゃんはそう言うと茶の間へ戻って行った。


 あ! タケル様! 大人モードじゃない? え~、見たい見たい!


 私は急いでトーストをかっ込む。


 って、まさか…


 さっきの…


 洗面所のイケメンって…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る