第15話 小さなお爺ちゃん
次の日の夕方、タケル様と綾人さん、私で御勤めをした。案の定、トドメはタケル様が刺す感じで鬼退治は終わった。
「う~ん、綾人はまだ弓を構える時間が遅い。あと、二秒がんばれ。建美はこの週末にでも言の葉をもう少し習得しよう。『盾』だけではやはり心許ないのぉ」
タケル様はやる気スイッチが入っているのか、綾人さんが来てからと言うもの生き生きとしている。
「う~ん、でも、タケル様。水を差して申し訳ないのですが、私って代理ですよね? それにもう直ぐ神無月も終わりますし、そんなにがんばらなくても良くないですか?」
「ばか! せっかくの機会だ、技が増えるに越した事はない。それに、来年も建美がやればいいんじゃないのか? そろそろ建造も歳だしなぁ」
いやいやいや。今回だけで十分です。
「あはははは。嫌ですよ。スティックとこの正装。今回限りだから我慢出来てるようなもんだし」
「ん? では、来年はきちんと儀式をすれば良いではないか。それなら余計、技も磨く必要があるし、鍛錬も必要じゃ」
いやいや、だからね。誰も留守護になるって言ってないよね? 人の話聞いてます?
「もう! だから… もういいです。来年の事は来年考えます」
「ははは。まぁ、そうじゃの~。我も本来の姿に戻ればきちんと
「あっ! 私、タケル様の本来の姿って知らない! ぜひ、見てみたいです!」
「え? 本来の姿を知らないのか?」
いきなり綾人さんが会話に入って来る。
「はい。留守護代理は先週なったばかりですし。ちびっ子タケル様しか見た事がないです。楽しみだな~」
「そうか… 機会があればうちの姫も会わせてやりたいな。それはもう天女の
ミジンコって。どんだけ姫の事好きなんだ?
「綾人さんってイッチー姫の事好きなんですか?」
「な、な、何バカな事を!!! す、好きとか、恐れ多いわ! お前はアホなのか?」
綾人さんは首から上が一気に真っ赤になってプンスカ怒っている。
てか、図星なの? でもいいじゃんね~。好きなのは自由じゃない? って、好きって言うより
「はいはい、すみませんね」
「はいが多いわ! 二度と好きとか低レベルな事を言うんじゃないぞ!」
「へ~へ~」
こんな感じで毎日が過ぎて行く。タケル様と綾人さんは三日に一度イッチー姫を訪ねて、あちらの神社の穢れを祓っているらしい。
そして、うちで鬼が出た夕方は私も混じえて御勤めと言う名の修行だ。
そんな、あと二日で神無月が明けようとしていたある日、新しいお客さんがうちの神社を訪れた。
「こんにちは」
私と次郎は茶の間のTVでゲームに夢中になっていて、声に全く気が付かない。
「次郎、ここ手伝って。そこ、それ」
「あぁ、タミ、ちょっと左に避けてろ。行くぞ」
「おい、お主ら。儂が視えておらんのか?」
「次郎、違う違う、こっちだって」
「ん? あ~、これか~」
バン!!!
木が割れる様な大きな音がしたので、慌てて音がした方へ振り向く。
そこには、手のひらサイズの
「じ、次郎。あれ視える?」
「ん… 爺さんだな」
視えるのか。って事は、サイズ的にどこかの神様?
「何を
と、台所からエプロン姿の綾人さんも顔を出した。
「ぬぁ!
「おうおう、久しいのう。市姫の所の
終始ニコニコとお
「え? 綾人さん、猿田彦尊って… 本物!? え~? え~?」
次郎は私の横で口を開けて固まってしまった。ハッと我に帰った私は居住まいを正して、小さなお爺ちゃんに話しかける。
「気が付かなくてすみません… あのぅ、猿田彦様、私は建美です。初めまして。ここの神社の孫娘です。タケル様は鬼を回収に出ていまして今留守なんです。あっ、今、座布団を用意しますね」
「ほっほっ、よいよい娘よ。そうか、ヤマトのタケルは今居らんのか」
「は、はい。もうすぐ帰ると思いますのでこのままお待ちになりますか?」
「そうじゃのぅ。待たせてもらおうかの」
私は急いで押し入れを開け、座卓用のミニ座布団を引っ張り出す。
「すみません。こんな物しかありませんが、どうぞ座って下さい」
申し訳ないが、小さな猿田彦様に合いそうな座布団がこれしか思いつかなかった。でも、猿田彦様は嫌な顔をせず喜んで座ってくれる。
「すまんな。ちと、急用でな。あと数日で神無月が明けようとしていたんじゃが、どうしてもな」
ん? 急用? 聞きたいけど、タケル様を待つべきだよね。うずうず。
「して、市姫の坊がなぜここに居るんじゃ?」
「はい、私は今、タケル様に修行をつけて頂いておりまして」
「ほぉ? 修行とな? タケルはそんなにも世話好きだったかの?」
「いえ、私が不甲斐ないばかりに… はい」
「ふぉっふぉっふぉ。そんなに縮こまんでもええ。そうか、ちっとは精進出来たかの?」
「はい。まだまだですが、少しは見れる様には、何とか…」
あの、偉そうな綾人さんが恐縮しまくっている。ニコニコと優しそうなお爺ちゃんぽいけどね。
「して、建美ちゃんや。横のでっかい小僧は何者じゃ? … お~、ふむふむ、天狗か?」
上から下まで見定められた次郎は、ビック~ンと背筋を伸ばして
「ははは。ほ、ほら、次郎、あいさつ」
私はツンツンと次郎をひじで突つく。
「は、はい! 私は阿之神社の息子で次郎と申します。天狗の生まれ変わりで、現在はタケル様の
「太郎坊の所か。ほぅほぅ、そうかそうか」
「はい!」
次郎はまだピ~ンとマッチ棒の様に直立不動だ。
「建美ちゃんも儂が視えると言う事は、ここの留守護はいつの間に代替わりしたのかの?」
「あ~、いえ。ちょっと事情がございまして、私は今年だけの代理です。お爺ちゃん、本来の留守護である祖父が足を怪我してしまいまして… 一時的に留守護代理として努めさせて頂いてます」
「そう言う事か。建造も大分歳じゃしな、建美ちゃんは儂の事は知っておるかの?」
「すみません、勉強不足で。イッチー姫に少し聞いたぐらいで…」
「よいよい、そうか。姫が何ぞ言っておったか?」
「あ~、はい。言い辛いですが『ウッキーは優しいお爺ちゃん』って言ってました」
「あ、あいつ…」
ボソッと綾人さんが
「ま~、そうじゃな~。ふぉっふぉっふぉ。付け加えるとすれば、儂は近江国の西部の守護神で、白神社の神である。主に延命長寿や交通安全なんかにも御利益がある。あとはそうじゃな~、鳥居が琵琶湖の水面に建っていてのぉ、それは美しいもんなんじゃ」
「へ~。勉強になります」
「おぉ、そうじゃ! 建美ちゃんや、市姫の様にウッキーと呼んでくれて構わんよ。ふぉっふぉっふぉ」
ほ、本当に呼んでいいの? ちらっと綾人さんを見ると額に青筋が立っている。イッチー姫のアダ名にキレてるのかな?
「いいんですか? では、御言葉に甘えてウッキー様と呼ばせて頂きます」
「うんうん。では、そこの次郎や、建造を呼んで参れ」
「はい!」
と、次郎はなぜか敬礼して本殿に居るお爺ちゃんを駆け足で呼びに行った。
「おっ! タケルが帰って来たな。ちょうど良かった」
うんうん、とウッキー様はニコニコ笑顔を絶やさない。てか、帰って来たのがわかるんだ。すごい!
「ただいま~」
と、本当に三秒後にタケル様が玄関から帰って来た。
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