第11話 神実

「あの~、どう言う状況なの?」


 みんなそろって朝食? てか、何故にイッチー姫まで?


「ん? 建美か。ははははは、死んだカエルみたいだぞ?」


 んもぅ! タケル様! 好きで這いつくばってる訳じゃない!


 お爺ちゃんは朝からご機嫌だ。そっと、ちゃぶ台に目をやると私が作るご飯より豪華だった。朝から色々なおかずが並んでいる。何か悔しい…。


「全身痛くて、痛くて… 今日、学校行けないかもぉ。てか、私も食べたい! そのご飯!」


 私はその場でうつ伏せになってジタバタする。


「なぁに~、建美ちゃん、朝からカエルごっこなの?」


「はぁ? 違いますよ。全身筋肉痛で動けないんです!」


 う~ん、と考えたイッチー姫が懐から小さな巾着を取り出し、中から飴? みたいな小さな丸い物をくれた。


「これ食べて見て。多分治るわよ」


 え~、怪しいな。人が食べても大丈夫なやつ?


「これ、何ですか?」


「いや~ね、心配ないわよ。『コクの実』と言ってね、って、お料理するなら見た事あるでしょう? これはねちょっと神力が混じってるだけ~。私達にはおやつみたいな物だけど、建美ちゃんには効くと思うわ」


 おやつって、ますます怪しい。


 私がためらっていると綾ちゃんがギロッと睨んでくる。


「建美とやら、小市こいちがせっかく、ありがた~い神実かみのみをくれると言うのに… 価値が分からない者に与えては無駄なだけだ。小市、放って置きなさい」


 小市? イッチー姫の事? てか、何でこの人はこんなに偉そうなんだ?


「… いえ。神力って人間が食べても大丈夫なのかな~と」


「あはは、大丈夫。危険な物は出さないわよ。それより昨日の事で身体がしんどいのでしょう? これは私からのお礼よ。気にしないで。えいっ」


 イッチー姫はニコッとすると、私の口にポイっと神実を放り込んだ。


「ん!!!」


 いきなりでびっくりしたけど、口にした途端お腹の中心から温かくなってジワ~っと、温泉で『あ”~』と言いたくなるように、痛みや疲れが一気に吹き飛んだ。


「すごっ。甘っ」


 立ち上がり全身を伸ばしてみる。全然痛くない。神パワーすごっ! ポーションじゃん!


「イッチー姫、ありがとうございます」


「いいのよ。さっ、食べましょう。綾ちゃんはこう見えて料理男子だから」


 イッチー姫、食べましょうって、何故にあなたは居るんだ?


「お、おはよう、お爺ちゃん。てか、人口密度増え過ぎてない?」


 私はお爺ちゃんの横に座りこそっと話しかける。


「あぁ~、綾人はうちにしばらく居候だろう? 次郎は、お前があんなだったから昨日から手伝いで泊まり込んでもらってな。市姫様は… 朝起きたら御出おいでであった。ま~、深く考えるな、食べろ。綾人が作ってくれたんじゃ。美味いぞ」


「綾ちゃん、朝ご飯すみません。お客様にこんなにしてもらって」


「おい! お前にと呼ばれる筋合いはない。仮にも年上だぞ? 綾人様と呼べ。小市のやつ、変な名前を浸透させやがって…」


 綾ちゃんはぶつくさ文句を言いながら私のご飯の用意をしてくれる。


 てか、様とか。無いし。インテリメガネのくせに! エプロンのくせに! 益々偉そうに見える。くっ。


「では、綾人さん。いただきま~す」


 と、その場はさらっと流して朝ご飯を頂く。


「そうじゃ、建美。今日の御勤めは綾人に手伝ってもらうからな。放課後は早く帰って来るんじゃぞ。信楽と土山で一体づつ出たそうじゃ」


 二体か。あの実を飲んでなきゃ死んでたな私。改めてイッチー姫に感謝だね。


「次郎は? 今晩はもう帰るんでしょう? 昨日はありがとね」


「え? うん… でも、綾人さんが一緒に住むとか… 俺もしばらく泊まろうかな~なんて」


「は? いいよ。もう私復活したし。てか、ごちそうさまでした。お風呂入らなきゃ」


 私は昨日そのまま寝てしまったので急いでシャワーに走る。


「でも… タミぃ」


「ドンマイ。ジローちゃん」


 ニマニマのイッチー姫が話半分に無視された次郎を慰めている。



「「行ってきま~す」」


「おい! これ!」


 と、不機嫌な綾人さんに弁当箱を突きつけられた。それも二つ。


「え?」

「は?」


「弁当だ。持って行け。余り物だがな」


 何、このツンデレ! 普通に言えばいいのに。


「あ、ありがとうございます。ちょっと意外でフリーズしてしまいました」


「ふん、どうせ普段からロクな食事をしていないだろう。これを食って精進しろ」


 …


 台無しだよ。綾人さん。一瞬、ツンデレ料理男子萌えとか思ったのに。最後のセリフ… リアルなツンデレ男子はちょっとイラっとするなぁ。


「はぁ、それはどうも。行こ、次郎」


「え? おう。綾人さん俺にまであざっす」


「あぁ」


 最後までいってらっしゃいも無いまま、私達は学校へ出かける。


「次郎、あの人いつまでいるのかな?」


「う~ん。修行? が終わるまでじゃないか?」


「やっぱそうだよね~」


 自転車を漕ぎながら早く綾人さんが出て行かないか考える。


 そもそも、修行って何するんだろう? 私が土曜日やったような言の葉とか? でもちょっと使えてたよね。う~ん。


「綾人さん、強うそうなのにな~」


「本当そうだよ。いや、強うそうと言うより偉そうなんだよ」


「ははは、次郎も第一印象最悪だった?」


「そうでも無いけど… 良くは無かったかな」


「留守護仲間だろ? 仲良くしろよ。あっ、でもあんまり仲良くし過ぎてもダメだからな」


「はぁ? あり得ない。そこは大丈夫な気がする」


 信号の対面で自転車を止めて手を振っているのは、親友の亀やんだ。


「お~い! 朝からラブラブだね~」


「もう! 声がデカイ! 違うし!」


 私はキョロキョロ周りを見ながら急いで立ち漕ぎする。


「俺、先行くわ~」


 と、次郎はヒラヒラと手を振りながら通り過ぎて行く。


「何々? 朝からどうしたぁ~?」


「何でも無いよ。そこで会っただけ」


「ふ~ん。今日から文化祭の準備だよ。楽しみ~」


「あっ、そうだった。今年のテーマ何かな。クラ展、メイドとかならマジ勘弁なんだけど」


「え~、ど定番でいいじゃん。楽だし」


「無い無い。それなら裏方希望だな」


「え~、先輩も来てくれるかもよ~。メイドとか好きそうじゃ無い?」


「メイドが好きって… どんな性格だよ~ははは」


「いやいや、男子はほぼ九割メイドが好きなはず」


「何統計だよ」


 亀やんは小学校からの幼馴染だ。もちろん次郎の事も知っている。次郎は小学校は違っても中学が同じだったからね。で、さっき言っていた先輩は、みんなのアイドル『岬先輩』だ。好きって訳では無いんだけど、みんなが好きだし、私はそれに便乗している。そう、ただのファン? う~ん。『岬先輩いいよね~』な感じだ。


「まっ、適当に決まりそうだけど。私はクラTクラスティーシャツのデザイン担当したいな~」


「あぁ、亀やん、絵上手だもんね」


「うん。大学か専門の受験で書けるじゃん? 『デザインしました』って」


「あぁ。そうだね~」


 亀やんは一年なのにもう進路を決めている。昔からグラフィックデザイナーを目指している。みんな何となくは決めているんだろうけど、私はまだだったりするんだよね。


「はぁ、夢があるっていいな~。私は何になろうかな~」


「何になろうかな~じゃないよ。何になりたいかだろ? まだまだ高校生活はあるんだしじっくり考えたら?」


「うん」


 学校に着くと、やっぱりみんなちょっと浮き足立っていた。文化祭が始まるもんね。恋のそわそわと、青春のわくわくと。


「よし、文化祭をまずは楽しもう!」


「そうこなくっちゃ」


 チャリ置き場で自転車を置くのにガチャガチャしていた私は、遠くから岬先輩が見ていた事に気が付かなかった。

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