02 何も知らないのに
帰宅後、
また眠れなかった。
いつもみたいに寝ずに学校に行くことにした。
本当は、学校なんて行きたくない。
教室に入りにくいし、英語のグループワークやペアワークが嫌だった。
みんなが大人数でご飯を食べる中、
一人でご飯を食べている自分が惨めだった。
ただ、行ってもしんどいだけだった。
そして、家にいても苦しいだけだ。
お母さんとお父さんはいつも喧嘩している。
きっと、私のせいだ。私の学費、教育費とか。
だから、家にいるのも学校にいるのも苦しい。
私にはどこにも居場所なんてない。
だけど、昨日の夜、
私はやっと居場所を見つけれてた気がした。
あのお姉さんが私の全てを理解してくれているような、そんな感じがした。
何も知らない、初対面の人間なのに、
誰よりも理解してくれてたんだ
あのお姉さんも、私と一緒で、
異常なんだ。
私は、今日も眠れない。
だから、また外に出た。
今日は、気分転換ではなく、あのお姉さんと会うために外に出て、公園にきた。
わたしが公園についたころには、
お姉さんはベンチに座り、スマホを触っていた。
「やっほ〜
一日ぶりだけど、元気にしてた?」
「こんにちは、今日も元気ですね」
「うーん、その様子だと何かあったみたいだね
お姉さんが君の人生相談を聞いてあげようか?」
「人生相談ってなんですか」
「悩みとか聞くだけだ」
「人に悩みを言うと、ストレスが減るとかなんとか言いますもんね。」
「そう!そう言うことだ。
言いたい範囲まで遠慮なく言ってくれ。
どうせ、君の周りの大人たちは理解したフリばっかだろう?」
お姉さんがニヤニヤした顔で言う。
まるで、私の全部を知ってるみたいだ。
この人にはなんでもお見通しなんだ。
「なんで、そんなことわかるんですか?」
「私もそうだったから、といえば
納得してくれるか?」
「はい」
「おっと、いけないいけない。
私の人生を語るみたいになっちゃいそうだ。
君の全て、教えてよ」
お姉さんは優しく微笑む。
「私、中学の頃は学校行ってなかったんです。
周りと合わせることに疲れてしまって、全てが嫌になったんです。
不登校になって一ヶ月後、お母さんに言われたことがあるんです。」
「それは、なんと?」
「普通じゃなくなったねって。」
「お母さんの普通は君の普通と違ったんだな。」
「まぁ、確かにそうです。
私は普通じゃない、異常なんです。
何者にもなれなくて、全てを諦めて生きてる」
「私はこんな歳になっても、
何者にもなれてないよ。
てか、君ぐらいの歳で私はそんなに大人びてなかったよ」
お姉さんは私をじっと見つめる。
「だって、こんなところにいる時点で
精神年齢子供じゃないですか」
「きみ、失礼な事言ってない?」
「言ってます」
「素直に答えるなよ」
「じゃあ、言ってません。」
「今更、否定しても遅いだろ」
お姉さんは、口を大きく開いて笑った。
こんな姿は初めてみた。
いつも、引き攣っている笑い方をしているのに
さっきの笑い方は偽りじゃない。
「あの、お姉さん」
「え、何?
突然、真面目な顔されても困るんだけど」
「お姉さんの名前、教えてくれませんか。」
「名前?忘れちゃった〜」
「じゃあ、私がつけます」
「きみ、ネーミングセンスあるの?」
「失礼ですね、それぐらいはあります」
私が怒った顔で言うと、
お姉さんはまた笑った。
どれだけ笑うのだろう、この人は。
私もこんなに笑ってみたい。
「じゃあ、名前、つけてよ」
「"白"でいかがですか」
「うーん、どっかの犬の名前みたい〜
でも、君がつけた名前ならなんでもいいよ」
「失礼じゃないですか、犬に」
「私に失礼だろ」
「犬の方が社会的地位は高いです」
「まぁ、確かに…」
お姉さんは納得した顔をする。
本当に納得してるのだろうか?
てか、なんでこれで納得するの?
「さぁ、そろそろ家に帰ろうか、きみ」
「その呼び方やめませんか」
「いや〜人の名前とか呼んだことないからさ〜
恥ずかしいというか、照れちゃって」
「その気持ち、わからなくもないですけど。
呼んでくれるまで帰りませんよ」
「てんりはめんどくさいなー」
「…家に帰ります」
「あはは、またね〜」
お姉さんは笑顔でいった。いつも笑顔だ。
なんで、あんなに、笑えるのだろうか。
いや、そもそも、笑ってない…?
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