ハナミズキ

01 痛いの飛んでいけ

小さい頃から、お母さんによく怒られていた。

『普通に生きなさい』

『あんたなんか産みたくなかった』

『なんでこんなに何もできないの』


こんな言葉が頭にずっと残っている。

忘れたくて、何回も忘れたいと思った。

でも、これが正しいことだと言うなら

忘れない方がいいのだろうか。

お母さんが言っていることが正しいのか、

私が思っていることが正しいのか、

正解なんて、誰にも分からない。


けど、あのお姉さんに出逢って、正解を知った。

お母さんが言っていたことが

間違いだということを。


高校3年生の冬、

あのお姉さんに出逢った。

雪が沢山降っていて、とても寒かった日。


あの日、私は眠れなかった。


寒くて、不安で押しつぶされそうで、死に近づいている感覚がして、このまま消えたくなくて。

そんな思いを消すために、

家を出て、近くの公園に向かい、

ブランコに乗った。

ブランコみたいに、自由に、

生きていていたかった。

普通ってなんだろう。いつか分かるのかな?


「学生は外に出ちゃいけない時間だよ〜」


夜の雰囲気に似合わない声で話しかけられた。

前髪がぱっつんで、後ろ髪がロング、肌がスノードロップの花みたいに白くて、可憐だ。


「あのさ〜聞いてる?

こっちばっか見て、何も喋らないのやめてくれない〜?」

「貴方の名前はなんなんですか」

「人の名前を聞く前に、自分から名乗りなよ〜」

「私の名前は、宮川てんりです。高校三年生。」

「高校3年生か〜

今の時刻、分かってる?」

「知らないです」

「3時だよ?

青少年保護育成条例にひっかかってるけど。」

「通報するなら好きにしてください」

「しないよ、私は常識人じゃない」

「じゃあなんなんですか。」


「きみと一緒だよ」


お姉さんは引き攣った笑いをした。

私と一緒だなんて、あり得ない。


「あはは、あり得ないって思ってるでしょ?」

「なんでわかるんですか」

「だからずっと言ってるじゃん、

きみと私は一緒なんだよ。」

「名前しかわからないくせに?」

「感覚で分かるもんなんだよ」

「本当に?」


「ああ、本当に。

君は全てから逃げて、嫌なことを忘れようとして、忘れれなくて苦しんでる。」

心にちくちくとしていた痛みが治る。


「あなたもそんな気持ちなんですか」

「さぁ?私にはわからない。」

「じゃあ、なんで、そんなこと…」


「あ、人来てるよ。みられちゃうよ〜」

お姉さんは私の話を遮った。

「じゃあ、今日はこれで失礼します」

「また来るの?

じゃあ、待っててあげるよ」


お姉さんはクスッと笑い、手を振った。

私は人に見つからないように、

隠れながら歩きながら家に帰った。


そういえば、あのお姉さんに

名前を聞くのを忘れていた。

というか、無視されたのか。


また、あのお姉さんに会った時に

名前を聞こう。

どうせ、教えてくれなさそうだけれど。








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