第2話「屁っちゃん」

「ふぅん? オナラーマンねぇ?」

「おならでヒーロー気取りなんて、調子にのってるわ!」

「なら、屁っちゃん。君が懲らしめてくれるかい?」

「任せてください、屁祖様!」


 ある日人助けをしていた時だった。近くのテーマパークの方で唐突に爆発音が鳴り響いた。俺は現場にすぐに向かった。

「皆さん慌てないで! パニックにならずに避難してください!」

 スタッフの方々が、必死に声をあげているが、パニック状態だった。爆弾魔だろうか、それならば犯人を見つけるのは困難だ。そう思い飛んでいた時だ。

「屁ボム!」

 俺のすぐ側で爆発が起きた。俺は声のした方を見る。そこには目元までを、青い垂れ耳のバニーマスクのような物で隠した、正体不明の女の子が立っていた。

「あなたが、オナラーマンね?」

「そうだ。君は?」

「私は屁っちゃん」

「君は、おならの国の力を貰った者だな?」

「ふふふ、やっぱりあなたもなのね?」

「そうだ! 君は何故こんなことをするんだ!」

「あなたは何故おならを正義のために?」

「この力は悪いことに使うものじゃない。誰かを守るためにあると思ったからだ」

「素敵な理想論ね。それならあなたにはわからないわ」


「どういうことだ?」

 ドォンという音と、共に爆発が起きる。

「やめろ! やめるんだ!」

「私と戦いなさい! オナラーマン!」

「女の子は殴れない!」

 いくらグローブがついてるとはいえ、女の子を殴りたくはなかった。

「ふーん。紳士なのね、でもいいのかしら? それじゃあ爆発は止められないわよ?」

「くっ!」

 何か突破口はないか、そう考えていた時、彼女は話し始めた。

「私が何故こんなことをするか聞いたわね? これは私の怒りなの」

「怒り?」

「私は昔からおならがよく出る体質だった。そのせいでよくからかわれたわ。友達もできなかった。

 そして、中学生の頃イジメにあっていたの。高校にあがっても同じだった。

 からかわれ笑われる日々。わかる? あなたにこの気持ちが!」

 話を聞いていて、俺は自分の事のように感じていた。俺も響斗がいなければ、こうなっていたかもしれない。


「そんな時、屁祖様に出会ったの! ああ、運命だ。そう思ったわ」

 屁祖……恐らく、おならの妖精か。

「よくわかった。だが、やはり君のやっている事は間違っている!」

「それなら」

「だが君を殴りたくはない。話を聞いて余計にね」

「そう。なら私の攻撃を一方的にくらえばいい!」

 屁っちゃんが投げるポーズをする。少しの間があり、俺の立つ場所で爆発が起きた。

 このままではいけない。彼女を改心させる方法を考える。その時、上手くいくかどうかはわからないが、一つの案が思い浮かんだ。

 彼女はレオタード姿だが、マントを着けていない。俺は勢いよくおならを噴射し、彼女に近づいた。

「やっとやる気になったようね! でもこれを躱せるかしら?」

 爆発がどんどん当たる。だがお構いなしに突っ込んだ。そして……。


「きゃあ!」

俺は彼女の背に回り、腰を掴んで空を飛ぶ。

「何するの! 離して!」

 どうやっているのか、小さな爆発が顔にぶつかり続ける。俺はそれでも上空へ上がり続けた。そして言った。

「見てみろ」

「え?」

 時間は夕刻。空には夕日が沈みかけていた。

「おならで空を飛んでここまできた。おならの国の力はこんな使い方もできるんだ」

「それがなんだって言うの!?」

「こんなとこから夕日を見るのは初めてだろ? 君にこの景色を見て欲しかった」

「え?」

「俺はこの力で皆を笑顔にしたい。君にも笑って欲しいんだ」

「なっ! 何を……」

 俺は無言で彼女を見つめた。

「降ろして」

 俺は……。

「降ろして! って言ってるの!」

 俺は彼女を地上に降ろした。

「今回は、私の負けでいいわ。でもそんな甘い考えで私たちに勝てると思わないでね」

 屁っちゃんは去っていく。爆発もなくなり、俺は駆けつけたスタッフに礼を言われ、その場を去った。

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