第1話「オナラーマン!」
ある県のある市にある、平尾奈良坂高等学校。少し丘にある坂を上った先に建つ高校である。
そこの生徒は良くも悪くも普通である。成績も並、運動部も文化部も成績は並。目立つところがないのが売りではないだろうが、突出した何かがあるわけではない。
そもそも町自体が普通というか、のんびりした町である。とはいえ、一駅先は都会という便利が隣り合わせの町でもあり、静かな田舎町というわけではない。
そんな町のとある場所にある
道なりに自転車をこぐ。高校に入ってから新しい自転車を買ってもらい、快適な高校通学のはずだった。最後が坂じゃあなければね。まぁこれも運動になると思えば辛くもないか、と、ああ、やっぱり……
「くっ」
坂道を上ってる時、力むせいか、おならが出る。それも連続で。あー、嫌になるな、この体質。
漕ぐたびに、プップップッーと出てくるおならに嫌気がさしながら、坂を上りきった。
俺は昔からおならをよくする体質だった。誰だっておならくらいするだろう。だが、俺は異常な程おならが出るのだ。よく食べた時は特にひどい。
高校での授業中でもそうだった。
「この問題を解ける人ー?」
(あ、やばい……)
プゥーーーーーーーーーー! という長いおならがでた。音も大きい。
「ふむ、じゃあ尾道君、答えて」
「なんでですか! 手を挙げてませんよ!」
「応えただろう? おならで」
教室はドっと笑い声に包まれた。こんな日々が続くのだ。
「よぉー、今日もでかいおならだったな!」
仲のいい友達がからかってくる。
「したくてしてるわけじゃないんだよ!」
「まぁまぁ、いいじゃん。キャラ立てできて!」
「はぁーーー。治んないかなぁ? もう恥ずかしくて嫌になる」
「女の子にもモテなさそうだしな、その特技だと」
「特技ではねぇよ!」
からかい笑いかけてくる。だが、むしろ彼が救いだった。昔はクスクス笑われるだけで、友達なんて出来なかった。
俺と友達になろうとした奴はもれなく、一緒に笑われるからだ。だが、唯一、
名前が平仮名だと同じという縁もあるが、俺がおならをしやすいのを個性だと言って、仲良くしてくれた。
最初はすぐに離れていくんだろうと考えていたが、彼は今でも一番の理解者でいてくれる。
「今日の弁当何?」
お弁当は、母さんが毎日手作りしてくれる。量も多い。
「こんな感じだな」
「さつま芋入ってるじゃん! 食ってやろうか?」
「いやいいよ」
「出やすくなったらどうすんだよ」
「まぁ、今更だよ」
ネタにされるのは最初は慣れなかったが、忍田なりに心配してくれるのがわかってからは慣れてきた。
放課後、忍田と別れて坂を下る。力む必要がない、そんな状況でも、
プゥーーーーー、と音が鳴る。
「はぁ、本当に嫌になるなぁ」
そう思った時である。
『見つけたぞい! 逸材じゃ!』
「ん?」
なにか声がした気がした。だが自転車を止めて、周りを見渡しても人の姿はない。気のせいかと思い、再びペダルを漕ごうとする。
『待て待て! ここじゃここじゃ!』
自転車のベルの方から声がした。
『なるほど、姿が見えないのじゃな? ちょっと待っておれ』
しばらくすると、小さなお爺さんがベルの傍に飛んでいるのが見えてきた。
「な、何だ!? あんたは!」
『落ち着かんか、少年よ。儂は、おならの妖精じゃ』
「おならの妖精?」
『そうじゃ、おならの国からやってきた、おならの精じゃ』
「何が何だか分からないんだけど」
『お主ら人間から出るおならには2種類あってな。普通のおならと、おならの精になるおならがあるんじゃ。おならの国の技術で、おならの精はおならの国へ転送され、日々幸せに暮らしとるのじゃよ』
「そ、そうか、それじゃあ俺は急いでるから」
『こらこら、年寄りの話は最後まで聞かんか。最近おならの国の王女様が国を飛び出してな。国の科学力で、悪さを働いとるのじゃ。それを止める逸材を探しておったのじゃが』
「ま、待ってくれ! まさか」
『そのまさかじゃよ、お主ほどの逸材はおらん』
「いや、なんでだよ! その悪事がどんなものか知らないけど、俺に頼らずあんたらで処理したらいいだろ?」
『そうもいかん理由があるのじゃよ……儂らはただの妖精じゃからな。じゃが、おならの国の科学力でお主をサポートできる。百聞は一見にしかず、じゃ。あそこを見てみなさい』
「ん?」
言われて目を向けた方向では、3人の男に1人の男子生徒が囲まれていた。人通りは少なく助けれるのは俺だけのようだ。
「カツアゲか? 警察に電話して……」
『まぁまぁ、待たんか。お主の力で助けようとは思わんか?』
「無理だよ。俺は腕力には自信が無い」
『腕力は関係ないぞい。このおならバッチを腕に巻くんじゃ』
「はぁ?」
いいからいいからと手渡された、まるでおならマークのバッチを身につける。
『着けた腕を胸の前に構えて、屁ん身! と叫ぶのじゃ』
「やだよ! 馬鹿なのか!?」
『とにかくやってみるんじゃ』
はぁ、とため息をつき、俺はヤケクソになって構えをとって叫んだ。
「屁ん身!」
すると、ボワッと煙に包まれ、いつの間にか、俺は少し頭の側頭部あたりに当たる部分が尖った
仮面を付けていて、よく見ると制服から変わって、ヒーローのような服、マント、ベルト、グローブを身につけていた。
『その格好には、おならの国の科学の力が詰まっておる』
「こ、これが俺!? いや、ていうか声も変わってる」
『仮面には正体を隠すために変声機能もつけておる』
「なるほど」
『色々機能は付いとるが説明してると長くなるぞい。お主はとにかくあの悪童どもを懲らしめる事を考えて行動すれば良いのじゃ』
俺は、半信半疑というか、今の状態でも混乱状態だったけど、物は試しだと思い、カツアゲ現場に向かった。
「おい、早く金を出せよ。人が来るかもしれないだろ」
「む、無理です……勘弁してください」
「ボコボコにされてぇのか?」
「待て!」
俺は3人の男と学生の前に立った。
「ん? な、なんだぁ? ヘンテコな格好しやがって!」
俺の格好を笑う3人。学生も戸惑ってる。
「そんな格好してヒーロー気取りか? 頭のネジ飛んでんなぁ!」
からかいつつ、3人は俺を囲んだ。
「お前の財布の中身も貰っちゃおうかなぁ?」
「やれるものなら、やってみろ!」
格好つけたものの、本当は怖かった、逃げ出したかった。だが勇気を出して、3人のうちの1人の顔面を殴りに行く。力んだせいか、おならが出た。バキッ! という音がして吹っ飛ぶ男。俺は何が起きたかわからなかった。
「な、なんだ!?」
「こ、こいつ! コノヤロウ!」
殴りかかってくるもう1人の男。俺は躱せるかわからなかった。だが拳を躱していた。屁が逆噴射したような感覚で股を抜けて、その勢いで避けれたのだ。
俺はそのまま男の腹にパンチを入れる。その時にもおならが出て、勢いがついたのかドスッという音のあと、男は崩れ落ちた。
「ち、ちくしょう! 死んじまえ!」
ナイフを取りだした最後の男は、切りつけてきた。俺は咄嗟に腕でガードした。するとナイフは折れて飛んでいき、男はへたりこんでしまった。
「う、う、うわあああ!」
男達はよろけながら逃げていく。男子生徒は頭を下げて、礼を言ってくれた。
「あ、ありがとうございました! あの、あなたは一体……?」
「俺か? 俺は……」
正体を隠すのだから本名を言うわけにはいかない。
「俺は、オナラーマン!」
「説明してくれよ、一体どうなってるんだ?」
俺は家に帰って、おならの精と話していた。
『簡単な事じゃ、お主の中のおならエネルギー、屁ネルギーを利用して、パンチの威力をあげたり、屁による自動回避能力、自動の屁の薄型防壁などを生み出しておるのじゃ』
俺は口をポカンと開けて聞いていた。そして思わず叫んだ。
「いや、おならの国の科学力凄すぎるだろ!」
『それが、今、悪用されようとしておるのじゃ』
「なるほど、それはちょっとやばそうだな」
『協力してくれる気になったか?』
「なんで俺なんだ?」
『お主の屁ネルギーは、とてつもない。常人では考えられんほどにな』
俺は、少し考えてみた。俺はずっと、おならが出まくるこの体質が治ればいいのに、と思っていた。
だがこの体質が役に立つかもしれないのだ。
「わかった。俺に出来ることでいいなら、やるよ」
『そうかそうか。勿論、普通に人助けでどんどん使って良いぞ。明日は学校かい?』
「いや、休みだ」
『なら色々機能を教えるから、ヒーロー活動と行かんかの?』
次の日、不良に絡まれてる人、変態に襲われてる女子高生、川で溺れてる子供などを助けたりしていた。
機能として、グローブは人を傷つけすぎないよう、自動調整されるようになっている。マントは背中側の危機を察知するのと、屁ネルギーを使って飛行も可能ということだ。
ベルトが一番重要で、より強力なおならパワーを引き出したり、ベルトの中に屁ネルギーを溜め込む機能がついていて、自分の屁ネルギーが尽きても、予備電力の様に補充する事ができるらしい。
「改めて、凄いな」
『凄いのはお主もじゃよ』
「え?」
『まさかこの短時間にここまで使いこなすとは、見込み通りじゃわい』
「でもこの科学力が本当に悪用されてるのか? そんな話聞いたことがないけど」
『まだしっかり表に出てきておらんのじゃろう。儂がお主に渡す前に人間の国に持ち出されたのは確かじゃからな』
それから1ヶ月間ほど正義活動を俺は続けた。いつしか人々の間に、正義のヒーロー「オナラーマン」は、有名になっていった。
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