第74話:絶望の始まり
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
俺の対応、後手に回りすぎでは…?
恐らくは政変があったという前提で、人里離れた場所に転移し、物陰に隠れながらまず俺たちはフィンブルを目指した。
真っ先に確保したい、カイトの姉メイコがいる場所だ。
カイトの姉だからというのが理由だが、そうでなくとも、政変のどさくさに紛れてこちらに亡命させればゴーレム用の武装を作ってもらえるかもしれないという打算もあった。
夜を待ち、夜闇に紛れて圧倒的なレベルに起因するフィジカルにものを言わせて城壁を飛び越え、名工メイコの家まで忍び込む。
「やあ。そろそろ来ると思っていたよ」
そして、速攻でバレた。
「ね、姉さん!?」
あっさり自分の正体を白状してしまうカイトに動じることなく、名工メイコは俺たち全員を見回し、ふふッと小さく笑った。
「カイトがさらいに来てくれると信じていたが、案外大所帯だったな。ラグナロク帝国にとっても、今回の政変は重大なのかな」
どうやら、名工メイコはその聡明さによって、状況の大半を理解するに至っているらしい。
「そんなところだな。ついでに、知っている範囲のことを教えてくれるとありがたいが」
俺が口をはさむと、名工メイコは少し考え込む仕草を見せた。
「知っていることはたいしたことじゃあない。数日前に、貴族の大半が反旗を翻して陛下と、陛下の信頼の厚い数人の貴族を処断したことと、フィンブル領主様も処断され、今は奥方が領主の代わりをやっているということくらいさ。もっとも、奥方の統治は、統治される側からすれば暴政、圧政と表現するしかないものだがね」
名工メイコの答えに、俺は行動が遅すぎたことを理解した。
もう、陛下も父上もいない。
反逆者どもに殺された。
その筋書きはだいたいわかる。
ドレイクロードのフィンブル侵攻を発端とする一連の紛争について、王家は金銭と、犠牲者の領土でしか褒美を出せなかった。
自分の封土が何より大事な、この世界の一般的な封建領主が不満をためる理由としては十分だ。
セレスとの婚儀を踏み絵に使うなど、懐刀めいた扱いを受けて真っ先に褒美を受けた俺が、罰ゲーム土地のローク領で苦労して悶絶していれば貴族たちの溜飲も下がったろうが、あろうことか俺はロークを大変に気に入り、イキイキと開墾を始めてしまった。
そして俺たちはていのいい国外追放を兼ねてラグナロク帝国を興したが、闘技大会で差し向けられた暗殺者の一人がドラゴンだったせいで超巨大要塞まで手に入れ、一気にラインジャ王国の脅威と化した。
散々たまった不満、不信、そこに、ラグナロク帝国が国家の脅威足りうるという大義名分が追加され、反逆者たちのロビー活動が実を結んでしまった。
…つまり、俺がやりすぎたのだ。蛮族を手引きしての侵攻を布石とした反逆者の国家転覆を阻止するための俺の行動がうまくいきすぎ、その結果、敵に回さなくて済んだはずの者達まで大量に敵に回したわけだ。
「…ラグナくん…」
心配そうなカイトに、俺は首を振って見せる。
「気にするな。陛下も父上も、覚悟を決めておられた。それより今は、暴政の内容を確認しておきたい」
俺の問いに、名工メイコは即答した。
恐らく俺の問いを予想していたのだろう。
「一番わかりやすいところで言うと、肥料を作っていた魔術師は、今は領主屋敷に集められている。その上、税として納める作物の量は大幅に引き上げられた。数年のうちにこのあたりの村は餓死者を大量に出して全滅するだろう。私も、武具を作ることの価値を認められず、今は無職だよ。ラグナロクに仕事があるならぜひ亡命させてもらいたいね。私は今となっては、武具を作ることだけが生きがいの女だ」
俺は名工メイコの頼みを了承した。
「いいだろう。あと、もう一つ聞きたい」
名工メイコは首をかしげる。
「なにかな?」
「ジン・アウリオン・ガーゼットと、イザーク・アウリオン・グレンダーは、処断されたのか、それとも、反逆者についたのか」
二人の兄がどうなったのか、という実に個人的な質問だ。
「…ヴェート・アウリオン・フィンブルを処断したのはその二人だ。嬉々としてやったのか、生き残るために踏み絵として泣く泣くやったのかまでは分からないがね」
名工メイコの答えは残酷だった。
その悲しい現実をどう飲み込めばいいのか、まだ分からないが。
「ありがとう。それが分かれば十分だ」
少なくとも、兄上は生きている。
今はそれで満足するとしよう。
「で、これからどうするよ。ひと暴れしてから帰るか?」
話を黙って聞いてくれていたブランドルは、思っていた数倍殺意マシマシだった。
「いや、一度ラグナロクに行く。現状では名工メイコの安全確保が最優先だ。持ち出したい仕事道具を俺に預けてくれ。俺は収納魔術が使えるから、取捨選択はしなくていい」
俺は名工メイコに告げ、大急ぎで引っ越しの準備を進めた。
転移で国境の岩山まで名工メイコを送り届けた俺は、景色の違いに唖然とした。
「夜遅くまでご苦労様であります!」
俺に気づいたゴーレムが敬礼してくるが。
「ありがとう。この、万里の長城みたいなのは、なんだい?」
俺は礼を返すとか以前に、もう完全に要塞化が完了している岩山が気になってしょうがなかった。
「せっかくご命令いただいたんで、全力でやらしていただきました!」
…そう言えば、ラインジャからの侵攻があるかもしれないから要塞を作ってくれと言ったのは俺だったか。
「そうだったな。ありがとう。すまない、予想以上の出来栄えだったもので少し驚いた」
「お褒めにあずかり光栄です!」
ゴーレムたちの再度の敬礼を受け、俺たちは村がある方向に山を下り始める。
「少し歩きます。最悪の場合にラインジャ国内で戦闘する可能性を考慮して俺たちはラグナロク国籍を一時放棄しているので、まずは現皇帝に滞在の許可を得なければ」
「国交というのも大変だな」
名工メイコは肩をすくめ、俺たちに続いて山を下りた。
「ラグナ!良かった、すぐ戻ってきてくれて…」
屋敷に着くとすぐ、セレスが飛び出してきた。
横にシルヴィアも控えている。
夜中まで起きて、戻ってくるかどうかも分からない俺を待たなければならないような緊急事態があったのだろうか。
「ラインジャから宣戦布告文が…!」
敵の動きは、俺の数倍速かった。
「分かりました、皇帝陛下、して、我が国の対応はいかに」
現皇帝であるセレスにとりあえず対応を確認しようとするが。
「もう、ラグナの意地悪。形だけの帝位の継承なんて、問い詰められたときのいいわけでしょう?誰も聞いていないんですからしれっと皇帝に戻ってください」
セレスは頬を膨らませた。
「アッハイ、すみません…ってことは、対応決めるの俺か」
だからセレスは俺を待っていたのだろう。
「敵はワシエ陛下や父上を弑したラインジャの反逆者。容赦する理由はない。迎撃し、鏖殺する」
そして、俺の決定は。
「そんな…お父様が…」
まだ父の死を知らなかったセレスを泣き崩れさせた。
やべ、セレスにはまだ話してなかったわ。
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