第72話:中二病は黒竜好き
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
ついに要塞ゲットだぜ。
ついに塔の頂上への転移許可を得て、しかしどこに行けば塔の頂上に転移できる設備があるのかが分からないまま帰った翌朝、塔の入り口でいつものように待っていたクロセルにダメもとで転移設備の場所を聞いてみる。
「光の扉の中で何度か戦って転移の認証だけはできたんだが、転移の設備ってどこにあるんだ?…ああ、もちろん、見つけ出すまでに塔のギミックを解くのも試練の一つだってことなら答えなくて構わない」
クロセルは目を丸くした。
「え、先に仮想エネミー室から攻略したの?」
どうやら想定された攻略の順序ではなかったらしい。
「もしかして、本来は転移室に行き着いて、頂上への転移許可を得なければならず、かつ他に何もないと分かってからあの部屋で戦うような順序を想定してた?」
「ええ、その通りよ」
クロセルが神妙に頷いた姿を見て、俺は少しだけ申し訳ない気持ちになった。
俺はゲームでもストーリーを進めるよりレベル上げの方を楽しむスタンスなのだ。
「じゃあ、適当に歩き回っていれば転移室には行ける構造なんだな」
「ええ。ちょっとお父様に聞いてみるわ。マスターを案内していいかどうか」
「頼む」
念話の魔術を使って黄金竜と話し始めるクロセルを待つことしばし。
「案内していいそうよ」
数分もしないうちに、クロセルはそう言って、俺たちを先導して塔の中に入った。
そして、ホログラフィックな内装の塔を登る方向ではなく、降る方向に少しの迷路を抜けて、転移陣が空間に直接描かれたような部屋の前で、クロセルは足を止めた。
「ここよ。あとはお父様本人の試練だけ。頑張ってね、マスター」
「妖艶な金髪巨乳美女にそんなことを言われては頑張らないわけにはいかないな」
言ってから、やべ、と嫌な汗が頬を伝う。
「ラーグーナー?」
セレスの声が怖い。
「まあ、私たちみんなおっぱい大きくないからなあ…」
そう言う事にある程度寛容らしいリエルのフォローも、今はなんだか嫌味に聞こえてしまう。
「ラグナくんのえっち…」
エレナからそういうことを言われると割とマジでへこむ。
「すみません…」
「あらあら。この調子なら、正式に従属した後は、なるべく竜の姿のままでいたほうがよさそうね」
クロセル本人があまり気にしていないようなのでそこだけはまあよかったが。
いや、3人の妻が現在進行形で激おこなのであんまよくない。
「ラグナ、気をつけな。俺はそれでカーラになんどビンタされたか覚えてねえ」
ブランドルがげっそりとした顔で言う。
ごもっともである。
「だが、ラグナ殿も枯れているわけではないようで少し安心した。枯れ切った君主は国を大きくする気概も失うと聞くものでな」
カーティスのフォローは、今この場においていいんだか悪いんだか分からない。
「でも確かにクロセルさんって綺麗だよね」
…カイト、お前勇者だよ。
「と、とにかく行こう」
俺は転移陣に飛び込んだ。
「…もう。惚れた弱みで許してあげるのも無限じゃないんですからねっ」
追いかけてくるセレスの抗議を、俺は心に深く刻み込んだ。
「うぉっ!?」
転移直後、目の前にいきなり黄金竜の顔があったことに若干驚いてしまう。
「思ったより早かったな。クロセルから聞いたぞ。先に仮想エネミー室で何度も戦ったようだな」
呆れたような声で俺を出迎える黄金竜に、俺は肩をすくめた。
「ああ。昔から、俺は効率のいいレベリングスポットを見つけたらストーリーそっちのけでそこを反復横跳びするタイプのゲーマーだった」
急に異世界語を交えて話し出す早口オタクの俺に、黄金竜はいよいよ呆れた様子で鼻を鳴らした。
「ふん、よくわからんが、まあいい」
さて、戦闘前会話はこんなもんか。ウルト〇マンとかが戦うべきこの巨大怪獣と戦う試練というのは、どうにも突破の糸口が見えないが。
「どうした。来ないのか」
考え込んでいると、黄金竜が煽るように言ってくる。
このまま考えこんでいても勝てるとは思えない。
なら、駄目でもともとか。
この黄金竜に挑めるだけの力を、呼び出せればいいんだがな…。
祈るような気持ちで仮面をつけ、腰のベルトに意識を向けて魔神化を発動する。
いつものように、姿も変わらない半魔神化。
「魔人キック!」
何のフェイントもなく、ただ真正面から蹴り上げた一撃は確かに黄金竜の顎をとらえた。
「ほう、随分鍛えたな」
感心したように起き上がった黄金竜は大きく口を開け。
「おめでとう!この塔は君のものだ!」
でっかい声で塔の譲渡を宣言した。
「いやたたかわんのかい!?」
死ぬ覚悟を決めて損した俺は、ついでかい声でツッコミを入れてしまう。
「うむ。十分な実力だと認めたからな」
なんかノリが軽くなった黄金竜につい、続けてツッコミを入れてしまう俺。
「例の仮想エネミー室とかで転移許可得るだけの強さになったらそれでOKみたいなもんじゃねえか!」
「そだよ?」
そだよ、とかめちゃくちゃ脱力した感じで言わんでくれマジで命懸けの覚悟だったんだぞこっちは。
「なんでそんな面倒なことしたんだよぉ!?」
つい頭を抱えて嘆く俺だが。
「いずれうんと強くなる娘の主が、その時の娘よりクソ弱いとか恥でしかないから恥ずかしくないようにお前を鍛えただけだが?」
黄金竜は実に身勝手だった。
恐らくドラゴン社会での世間体のためだけにやったのだろう。
「そんな理由かよ!」
世間体なんぞを気にするような生活は、俺のような社会不適合者には全くなじまないのだ。
そのくびきから、ドラゴンの、しかもトップクラスに有名な存在ですら逃れることができていないという事実は俺を絶望させるに十分すぎた。
「まあそういうわけだ。この塔の床面積はすごいからな、要塞化の作業も大変だと思うが、頑張ってくれ」
黄金竜は朗らかに笑って飛び去って行った。
「待ちやがれ!まさかこの塔の大半は構造体だけなのか!?」
さらなる絶望だけを残して。
「なんか、凄い残尿感がある終わり方だね…」
カイトが俺たちすべての気持ちを代弁してくれた。
「まあ、死なずに済んでよかったともいえるんじゃねえか」
ブランドルがそう言って、踵を返した。
確かにここでの用は済んだ。帰るのもアリだろう。
だが、やっておくことがあった。
「クロセル、来てくれ」
念話でクロセルを呼ぶ。
「マスター、何か御用?」
すぐに転移陣を通ってきたクロセルに、俺は背後の、さっきまで黄金竜が寝ていた場所を示す。
「これだけ広い場所なら、君もドラゴンの姿でくつろげるんじゃないかと思ってな」
本来の姿より小さい姿では、クロセルも思う存分くつろげないだろうと思ったのだ。
「そんな気を遣わせてしまって、従魔失格ね」
苦笑するクロセルに、俺は努めて優しく返す。
「そんなことは気にせずくつろいでくれ、人間は引っ越すにしても荷物を運ばなければならない不便な生物でな。しばらくここは君の自由にしていい」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
クロセルは漆黒の、ファンタジーの王道ど真ん中のドラゴンの姿に変貌し、そしてその広い空間におずおずと寝そべった。
「うん、黒いドラゴンってやっぱかっこいいな。男のロマンだぜ」
ぐっと拳を握る俺を、なぜか全員が珍妙なものを見るような目で見た。
そんなに黒って不人気な色なんだろうか。
「マスターのセンスって独特よね。まあ、この姿をマスターが好きでいてくれるならうれしいけど」
ただ一人、クロセルだけは少しだけ嬉しそうに笑った。
ドラゴンでも表情ってわかるもんなんだな。
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