第71話:最強嫁軍団
どうも皆さんこんにちは。
異世界転生者です。
もう全部嫁だけでいいんじゃないかな。
また黄金竜の塔の光の扉まで向かった俺は、一つ試してみることにした。
「ブランドル、ちょっと扉を斬ってみてくれ」
俺がそう言うと、ブランドルは首を傾げた。
「いいけどよ、なんでだ?」
もちろん、試したいことは一つだ。
「俺より君がやった方が強い敵が出るんじゃないかと思ってな」
どうやら扉に対する攻撃の威力で敵の強さが変わるらしいので、どうせならブランドルにやってもらった方が効率がいいような気がするのだ。
なにしろ雲の上まで続く無限闘争の塔だ。少しでも効率をあげなければ、ブランドルやカイトの寿命が来てしまう。
…さすがにカーティスの寿命までかかるとは考えたくない。
「殴るよりは大剣の方が重い一撃が出せるってことか」
納得した様子のブランドルは大剣を抜き、全力で振りかぶった。
「おらぁっ!」
光の扉はその一撃を受け止め、しかし、普段とは異なる音声を流した。
「魔力構造非認証。正しいユーザーがアクセスしてください」
俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「殴って起動する機能自体が俺専用かよ…」
その肩に、ブランドルは優しく手を置いた。
「まあ、この塔が本当にお前さん専用だってのがはっきりしただけ、無駄じゃねえさ」
慰めてくれているのはわかる。
だが、落ち込んでばかりもいられない。
「こうなったら…!カーティス、少し手伝ってくれ。以前のドレイクロード戦で割れた天魔の仮面を修復する。名工メイコ謹製の強化ベルトと併せて、俺の戦闘力を今可能な限界まで引き上げる」
半ばヤケクソになる俺に、しかし仲間たちは特に文句を言う事もなく、休憩の準備を始めてくれた。
これから今呼べる限界の強さの敵を呼ぶことになるのだから、コンディションを整えておくというのは確かに必要だ。
こちらから頼まなくても最適な行動を考え、選択し、実行してくれる仲間がいるというのは、皇帝という立場の難易度を大幅に下げてくれている。
心から感謝しなければ。
「承知した。仮面の残骸は」
当然、俺の無茶ぶりに二つ返事で応えてくれるカーティスも、感謝すべき相手だ。
「ここにある」
俺は割れた仮面の残骸をカーティスに差し出した。
「ふむ。これなら、私一人でも30分程度で修復可能だな。ラグナ殿は魔神化の感覚を少しでも研ぎ澄ましておいてくれ」
「ありがとう。そうさせてもらう」
俺は仮面をカーティスに託し、休憩しているみんなからも少し離れて座禅を組んだ。
魔神化の感覚となると、やはり自分の内側の魔力に意識を向けなければならないのだ。
カーティスは宣言通り、30分程度で俺の前に修復が済んだ天魔の仮面を差し出してきた。
「できたぞ。私も少しお茶をもらってくる。適当に切り上げて合流してくれ」
「ありがとう」
俺は天魔の仮面を身に着け、ベルトと仮面の効果に意識を向けながら、魔神化してみる。
やはり、俺の姿は変わらない。
半魔神化どまりだ。
魔神の姿になることができない。
「…お茶貰ってくるか」
一度切り上げ、俺もみんなに合流することにした。
「どうだった?」
近寄ってきた俺にお茶の入ったコップを差し出しながら、カイトが聞いてくる。
「…魔神化には至らなかった。…何が足りないんだろうな」
俺はついそんな愚痴をこぼし、貰ったお茶を一気に飲み干した。
「まあ、それでも魔神化の強化が2重にかかってるんだろ?」
ふさぎこむ俺をなだめるようにブランドルが言ってくる。
「それもそうだな」
セレスやリエル、エレナがただ黙って見守ってくれているのが、妙にありがたかった。
数分後、俺たちは戦闘準備を整え、光の扉の前に並んだ。
「さて、どこまでやれるか…」
俺は深呼吸を一つして、今実現できる最高の集中力で魔神化を発動した。
「必ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ殺ッ!魔人ナックル!」
無駄に叫びながら光の扉を殴る。
この叫びに呼応して俺の腕が鋼の腕になってくれたりしないかな、などという儚い希望を抱きながら。
残念ながらそういうことはなく、いつもの無機質な音声が流れただけだった。
「戦闘力レベルを確認。頂上への転移、不許可。最適なエネミーを生成します。中へお進みください」
「…じゃあ、行くか」
俺たちはもうそろそろ見飽きてきた訓練部屋に踏み込んだが。
「おいおいおい…」
そこにいた敵に、ブランドルが引いた。
「ドレイクロードとオーガキングとラミアクイーンが、ざっと各100か、魔神化強化の効果自体はきちんと機能しているようで安心した」
カーティスがそんなことを言うが。
「安心できるのかなぁ」
リエルが不安そうに言いながら、俺と同じく、目元に血涙のような紋様が浮かび上がる半魔神化を発動して弓を構えた。
「的が大きいオーガは私が何とかするよ。ドレイクとラミアの足止めお願い」
言いながらリエルが撃ち出した弓は、オーガキングの胴体に風穴を、いや、オーガキングの胴体を爆散させた。
なんで魔神化の出力を必死に上げている俺を差し置いてそんな攻撃力を手に入れているんだうちの嫁は。
…魔神化なしでもあんだけ強いリエルが魔神化したからだな、うん。
「大丈夫ですラグナ。あなたは私が守ります」
そしてセレスも、目元に血涙のような紋様を浮かべて、とんでもない範囲に飛ぶ斬撃をぶちかました。
…俺いらないじゃん。
嫁が強すぎてもう乾いた笑いしか出ない。
まさか、エレナも…。
「ヴァニッシュ!」
目元に血涙のような紋様を浮かべたエレナが放った蛮族浄化の魔術が、着弾地点周辺の蛮族をまとめて消し飛ばした。
…エレナも、どころかエレナが一番やべえわ。神聖魔術師に無限の魔力を与えたらもう誰も止められねえよ。
俺は両手両膝を地面についた。
魔神化のアドバンテージを剥奪された俺がこんなにも無力だったとは。
「…気持ちはわかるよ、ラグナくん」
「…まあ、ラグナも鍛えればああなれるんじゃね?」
「…そうだな。魔術の稽古なら付き合うぞ」
男衆の優しさで視界がにじんで前が見えない。
もう全部嫁だけでいいんじゃないかなと思うような虐殺で、おこぼれの経験値を手に入れた俺がドアを殴り…というループで転移の許可を得ようと試みることしばし。
「魔人ナックル!」
ついに、その時が来た。
「戦闘力レベル、一定値超過を確認。頂上への転移を承認します。頂上直通の転移室までお越しください。なお、以降も同様の手順で扉へアクセス頂ければ、また最適なエネミーを生成します」
が、それは俺が予想していたような、ここから頂上に転移してもらえるというものではなかった。
「つまり、転移室を探せってことかよ」
俺と同じように、音声の意味を理解したブランドルが頭を抱えた。
専用の転移室なんてものがありそうな場所と言えば、まだ探索していない道の先、外周を登り続ける凄く緩やかな螺旋の道か、今なら地下に続いていると分かる、入口から外周を反対咆哮に進む道のどちらかだが。
どっちだろう。
「クロセルに聞いたら教えてくれないかな」
俺はそんな弱音を吐くが。
「まあ、駄目なら駄目で、諦めて探索すればいいし、悪くないんじゃないかな」
長時間の連続戦闘で疲れていたせいか、楽な方法があるならそうしたいというのはカイトたちも同じだったようだ。
「じゃあ、一度出入り口に戻って…今日はこれで切り上げるか。
その提案に、誰も反対しなかった。
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