第68話:竜の巣レベル99
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
とんでもないダンジョンに挑むことになりました。
なんか押し掛けて従魔の契約をしてきたドラゴンのクロセルとともに、とりあえず彼女の巣である迷宮に向かうと、それはそれは立派な塔が立っていた。
町ひとつ分くらいの広さを占有したその塔は、あまりの高さで先端が雲の上に隠れている。
森と岩山に遮られていたとはいえ、こんなデカブツを見逃していたとは失態だ。
人手不足をいいわけにはできない。
同じところに蛮族が要塞を作っていたらどうするんだという話である。
「どうかしら。マスターに恥じないだけのダンジョンを作れたと思っているのだけど」
澄ました顔で聞いてくる金髪美女(中身はドラゴン)のクロセルに、どう答えればいいのか俺はかなり迷った。
「すごい建造物だが、なんのためのものなんだ?」
クロセルはなんの躊躇もなく、即答してきた。
「マスターが君臨する玉座として、そして、御身を守るための要塞として、そして、お父様からの、あなたが私のマスターにふさわしいか試す、試練の場として。作ったのはほとんどお父様よ」
オイオイオイ、ラグナロク帝都のスケールがでかすぎるわ。
確か黄金竜の娘とか名乗ってただろこいつ。
黄金竜というのは、竜王と呼ばれる高い神格を持つドラゴンの中でもかなり有名な個体だ。
その娘が、父の手を借りてというか、ほぼ父に頼んで用意した城とか明らかに分不相応だ。
「その目的なら確かにこういうのもありなんだが、やりすぎじゃないか?人が住むには広すぎるというか」
こんなでかい家に住んでも、家の中で遭難するだけである。
「ご心配無く。認証さえ済ませれば、中を自由に転移できるようにしてあるわ」
そこの心配は不要と。
豪華すぎる贈り物だが、不便はないようだ。
「そうなのか」
得意気に説明を始めたクロセルに生返事を返すと、クロセルはとんでもないことを言い出した。
「そしてそれは、あなたが私の主となることをお父様に認めていただくための試練でもある。今この塔の頂上にいるお父様にうちかてば、あなたがここの主よ」
「よし、帰ろう」
俺は回れ右をした。
「なんで!?」
焦った様子で涙目になるクロセルだが、そんなもんに応じるわけにはいかない。
俺は仲間の命を危険にさらすと分かっていて豪邸を欲しがるような強欲野郎ではないのだ。
「ラグナくん、行くだけ行ってあげてもいいんじゃないかな」
そして心優しいカイトが俺を制止した。
「黄金竜と戦うのは危険すぎる。豪邸を得るより仲間を失わない方が重要だ」
俺がそう言った直後、空が暗くなった。
いや違う。巨大な存在が転移してきて日陰になったのだ。
巨大な存在の正体は、言うに及ばず。
「ではこうしよう。お前たちが1ヶ月以上塔の攻略を試みなかったら、お前の国をまるごと焼く。勝てばお前に塔と娘をやろう」
どのような地獄耳でこれまでの会話を聞いていたのか、黄金竜は巨大な顔面を俺の前に差し出してそう告げると。
「では、頂上にて待つ」
それだけ言い捨てて飛び去っていった。
「…すまん、どうやらみんなの命を危険にさらす選択肢しか残らなかったらしい」
俺は仲間に向かって頭を下げるが。
「冒険者はそういうもんさ。それより、ラグナくんとダンジョンに潜るのは初めてだね。楽しみだよ」
カイトがそう言うと、それに同調するように後ろの仲間は俺に向かって頷いて見せた。
「そうか。そうだったな」
「じゃあ、塔の前まで転移するわね」
俺が納得したのを見て、クロセルはそう言った。
クロセルの転移で俺たちが飛んだのは、塔の前のちょっとしたキャンプ地のようなスペース。
そこに、王城やフィンブルの屋敷にもある転移室と同じ、転移封じを無効化する魔法陣があって、俺たちはそこに転移した。
「転移封じと転移陣までちゃんとあるのか。人が使うのを想定してここまで…」
至れり尽くせりにもほどかある親切設計に、実は黄金竜はここを俺に渡す気満々なのではないかと期待しそうになるが。
手加減してもらえると思うべきではないだろう。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
クロセルは手出しを禁じられているのか、塔の前で俺たちを送り出すように手を振った。
塔の中は、現実離れした風景だった。
異世界人的な感覚で言うならサイバー空間っぽいというか、壁や床はどこかホログラムのように見える、現実離れした空間だ。
「さすがは黄金竜謹製のダンジョンか。一筋縄じゃあ行かなさそうだな」
サイバー空間などというものに馴染みがないブランドルでもその異常さは十分に理解したのか、そんなことを口に上らせる。
そして、それには同感だ。
「そうだな。かなり面倒なことになりそうだ」
俺はゲームでもダンジョンのなぞ解きを楽しむことはあまりしてこなかったので、こういう方面の経験値はゼロだったりする。
とゆーか面倒になって攻略サイトを見るのが日常化していたくらいには謎解きは嫌いだった。
「確かに手強そうですけど、でも、ラグナとダンジョンに入る日が来るなんて思ってもいませんでした」
もともと冒険者志望だったセレスがとてもとても楽しそうで、俺も幸せである。
「まあ、面倒ごとは僕に任せて。こういうところでくらい、先輩面させてよ」
冒険者として先輩であるカイトがそんなことを言いながら、張り切ってマッピングを始めた。やはり、本職は手馴れている。
「すまん。あてにしている」
せっかくなのでカイトに
しばらく意気揚々と進み、足元や壁を調べたりと、普段の3割増しでイキイキしているカイトの後ろについて歩いていると、カイトが急に足を止めた。
「困った、何も分からない」
ブランドルたちはずっこけた。
「まあ、こんな異空間では、普通の罠や仕掛けの常識は通用しないよな」
唯一ずっこけなかった俺は肩をすくめてカイトの地図を見た。
かなり精密に書き込まれた地図は、精度を信頼してよいのなら、俺たちが概ね円状に、街ひとつ分の外周を歩いたような状態である事を示していた。
「で、そこが出入り口だと思うんだけど、たぶんここを出ると外だよね」
「確かに、ほぼ一周してきて外に出る扉、か。ここまで、中に向かうような曲道はあったか」
尋ねると、カイトは首肯を返した。
「ちょうど反対側に、どんな鍵なのか全く分からないけどとにかく施錠された光の扉が一つあっただけ」
だが、その扉を開けるための仕掛けが結局見つからない状態という訳か。
「とりあえず、一度外に出てみよう。入口自体がハズレ、ということかもしれない」
わざわざクロセルが案内してくれた出入り口がハズレということもあまり考えたくないが、そういう欺瞞を見抜けるかということが試練の一部なら、あり得ない話ではない
「でも、外周を全部歩いたよ?」
別の入り口があっても、同じ道に入るだけだと言いたげな様子のカイトだが。
「地下に潜る階段とか、なんかの仕掛けとかあるかもしれないだろ。ここで頭抱えてるよりは、一度外を回ってみよう。それで何もなければ、それこそ壁を片っ端から殴って調べながらもう一周するのもありだ」
とにかく、ここで立ち往生していてもしょうがない。
俺は出入口に手をかけたが。
「開かない…幽閉する気か、黄金竜め…」
俺は動かない扉に少し苛立ち、全力でドアを殴りつけた。
「戦闘力レベル、一定値超過を確認。外壁へのアクセスを承認します」
なんか妙に機械的な音声が流れ、ドアが開いた。
「認証って戦闘力の認証かよぉ!」
開くドアに憤懣やるかたない思いをぶつける俺。
きっとカイトも同じ気持ちだろう。
そして、目の前に広がっていた光景は最初の出入り口ではなく、だいたい建物3階分くらいの高さからの景色。
下を覗き込めば、クロセルがにこにこと微笑んでこちらに手を振ってくる。
「…ごくわずかな上り坂だったんだね…ごめん、気づかなかった」
その景色を見て、カイトは肩を落とした。
張り切って先導して、出入口を正しく認識できていなかったことに少し責任を感じているのだろう。
「いや、いい。戻って中の扉を殴ってみるか、このまま進むか、どうする」
そう訊ねた俺だが、しかし、それは望ましい選択ではないことは分かっている。
かなりの距離を歩いたせいで、もう日が傾いている。
疲労した状態で敵襲を受けるのは避けたい。
「なあ、ここに縄梯子をかけて今日は帰るってのはどうだ。ショートカットが作れたんだから悪くはないだろ」
ブランドルの提案は、俺が求めていたものだった。
問題は、クロセルと黄金竜がそれを容認するかどうかだが。
「クロセル、帰って休み、明日またここに来てもかまわないか」
「大丈夫よ。家まで送り届けてあげる」
まさか問答無用で転移魔術を使われるとは思っていなかったが、ともあれ、俺たちはクロセルの手で屋敷に戻された。
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