第67話:おしかけドラゴン

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


なんか、知らんうちに人外とフラグ経ってたみたいで乾いた笑いしか出ません。




ラグナロク帝国というなんだか仰々しい国家の元首として、畑仕事や森の魔獣狩りのほかに、たまにくる他国の使節に応対するという退屈な仕事が増えて数か月。


「平和なのはいいことだが、たまに、これでいいのか心配になるよな」


庭でお茶を飲みながらそんなことを呟くと、同席していた仲間は一様に首を縦に振った。


「ああ。いいことなんだろうが、鉄火場が自分の居場所だと思っちまうと、なんか体がなまっちまう感じがするっていうか、落ち着かねえよな」


生粋の戦士であるらしいブランドルはそう言って苦笑する。


「あー、ちょっとわかるかも。危機感っていうか、こうしている間に弱くなって、みんなを守れなくなったらって思うとちょっと怖いよね」


カイトが共感を示そうと努力してくれているが、少しずれているような気がしてならない。

そこまで他人を思いやった感覚ではなく、どちらかと言えば退屈という感覚に近い。


ズレていても、共感しようという努力をしてくれたこと自体が大変ありがたいのだが。


「ふむ、戦士特有の感覚かもしれないな。私のような魔術師は、知識が力となるため体がなまることはさほど問題視しない。…いや、感覚が鈍るのは問題か」


カーティスは同意できないような顔をしつつ、ブランドルの指摘した問題については完全に同意している様子。


「で、そんな退屈を持て余している皇帝陛下に聞きたいんだが、竜の巣って知ってるか?」


ブランドルがこちらに水を向けてくる。

竜の巣。

言葉通り、ドラゴンの住処だ。

だがそれは野生動物の巣とは訳が違う。

人より魔力も知恵も上回る神獣の一種であるドラゴンが自らの住処とするのは、自らが魔力を用いて作り出した迷宮。


「本で読んだ程度の知識はある。まさか、近くにあるのか」


訊ねると、ブランドルは頷いた。


「ああ。それもかなり大規模だった。森の湖のさらに向こうだ。取り逃がした魔獣を追って見失った時に偶然見つけてな。どうするよ?」


問い返すブランドルの言葉は、しかし質問をする者の声ではなかった。

ブランドルは俺がどう答えるのか、もう知っているのだ。


「行こう。必ずしも敵対的ではないかもしれないが、何もしないうちにここまで迷宮の中にに飲み込まれるような結末だけはごめんだ」


俺の答えに、ブランドルは知っていたとばかりに笑いながら席を立った。


「そうこなくっちゃな。奥様がたはどうするよ」


ブランドルの問いに、俺はにやりと笑って見せた。


「もちろん連れて行くさ」


エレナもリエルも元々は冒険者が本職だし、セレスだって剣技の冴えなどを見れば、屋敷に引きこもって着飾るようなタイプでないことは明白だ。


「じゃあ、集合次第出発でいいか」


ブランドルに一も二もなくうなずくと、俺はセレスたちを呼ぶために席を立った。



森を抜けた先にある湖を目指すため、俺たちはまず森に入ったわけだが。


「魔人さんだー」

「こんにちはー」

「魔人さんは王様になったんでしょー」

「皇帝だってさー」

「皇帝ってカイザー?」

「魔人カイザーだー」

「ふぁいやーぶらすたー!」


なんかかなり愉快なことを言いながら妖精さんが集まってきた。


「ねーねー魔人さん」


そのうち一人(?)が、俺の前までふよふよと飛んできて尋ねてくる。


「王冠はしないの?」


なるほど、王と言えば王冠か。

言われてみれば確かにそうだが。


「まあ、そこまでちゃんとした国でもないので」


苦笑する俺に、妖精さんは首を傾げた。


「そうなの?」


「そうなんですよ。まあ、国内にいると不都合があるけど、いろいろと功績があって追放ということにできないので国を作ったことにした、って感じです」


俺とラグナロク帝国が置かれている状況をかいつまんで話すと、妖精さんは納得したように頷き、次の質問を投げてきた。


「そうなんだー。じゃあ、いつか魔人さんはここからいなくなってしまうの?」


俺がここを去る時か。

それが来るとしたら、例えば。


「もし、ここが国からまたラインジャの領土に戻り、領主を変えるということになれば、ですが、そうなりますね」


俺が思い当たる可能性を告げると、妖精さんは寂しそうに俺の袖を引いた。


「そっかぁ。他の領主はすぐ森を荒らすから、魔人さんにずっといてもらえると嬉しい」


寂しいどころではなくけっこう切羽詰まった事情だった。


「努力はしてみます。今はそれしか言えません」


「うん。ところで、今日は何の御用事?」


話の区切りがついたところで、妖精さんは俺が森に来た理由を尋ねてくる。


「湖の向こうに、竜の巣があると聞きまして」


場合によっては討伐しなければならないのでやむなく、と続けようとしたところで、妖精さんはぽんと手を打った。


「あー、こないだ引っ越してきたクロセルちゃんか」


まさかの妖精さんの知り合いだった。

これでは討伐は諦めなければならないだろう。


「この間というのは、いつ頃でしょうか」


とりあえず、目の前の妖精さんから情報収集を試みる。


「ん-とね、闘技大会とかで魔人さんが留守にしてたときのすぐあとくらい」


案外最近だった。


「人に化けて魔人部門?とかに出たらすごく強い人間にぼこぼこにされて、自分の背に乗せるならああいう強い人間がいいって言ってたな。その人間は近くに住んでるはずなんだって」


そのまま続けられた妖精さんの言葉に、俺は全身から嫌な汗が噴き出すのを感じた。


「それって明らかにラグナのことですよね」

「ラグナくんですね」

「ラグナだね」


何故か、妖精語が分からないはずのセレス、エレナ、リエルが話に入ってくる。


「いつの間に妖精語の勉強を?」


「してないです…もしかしてこれもラグナの魔力の影響でしょうか」


俺の問いに戸惑いをもって返したのはセレス。

なるほどその線が濃厚か。

3人は、確かに俺の魔力をその身に受け入れている。


「よくわからないけど、もしかしたらクロセルちゃんの目当ては魔人さんかもしれないってこと?」


「ええ、たぶん…」


妖精さんの質問に答えると、妖精さんは瞬時にどこかと思念か何かのやり取りを始める。

ちょっと電話をかけているようにも見える数分ののち、妖精さんは俺を見上げて言った。


「今クロセルちゃんに聞いたら魔人さんの見た目がドンピシャだから見に来たいって」


「アッハイ」


俺は白目をむいて妖精さんになんとか返事をし、ドラゴンが飛んでくると思うが相手に敵対の意思はないらしいのでまずは対話を試みる旨を人間語に翻訳して仲間に伝えておく。


さて、どんなでっかいドラゴンが出てくるのやら…




しばらくして現れたのは、頭の左右からややねじれた角が伸び、悪魔めいた翼と尻尾がある事をのぞけば、非常に美しい金髪の女性。

ドラゴンの使者だろうか。


しかし、何処かで見たような気はするのだが。


「この姿でお会いするのは2度めかしら。といっても、腕をひねり上げられて、腕をもいだら反則負けなのか質問されることを会ったと言っていいのかは少し疑問だけれど」


あのときのあの女かぁ…。


俺は、途方もなく嫌な予感に耐えながら、質問してみる。


「引っ越してきた理由って、その時の何かが関係してる?」


恐る恐るの俺の質問に、最悪なことに女性は真っ向から堂々と答える。


「そうよ。私と、従魔の契約をしてほしくて、あなたを探していたの」


主人であるドラゴン、ではなく、自分と従魔の契約をしろ、という女性。

その意味を理解するのにはさほど時間を要さなかった。

彼女自身が、人に化けて行動しているドラゴンなのだ。

人に化けるくらい、レッサーオーガですらやってくることだ。ドラゴンにできない道理はない。


理解できないことがあるとすれば、決して嬉しい出会いではなかったはずなのに俺に従属したいと主張していることのほうだ。


「なんでまた」


一応聞いておくと、女性はその大きな胸を張った。


「私は誇り高き黄金竜の娘なの。従うなら、自分を倒せるくらいの猛者でなくちゃ」


そういうことらしい。

少々性格には難がありそうだとは思うが、貴重な航空戦力である事には違いない。


「まあ、いつの間にかこっちの住居まで竜の巣の迷宮空間に作り替えられる心配がなくなるなら、構わない。空を飛べる戦力があって困ることもないからな」


「じゃあ、契約成立ね」


そういうことになった。


しかし、ドラゴンを従えて、魔のつく種族で皇帝を名乗るとか、もう完全に魔王である。

そのうち勇者が襲撃してきそうで怖い。

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