第65話:魔王、はじめました

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


ついに俺も魔王デビューです(やけくそ)



戦士部門までのプログラムを消化し、闘技大会を締め括る表彰式が行われる時間となったため、出場者である俺たちは他の参加者と共に武舞台に整列した。

正面は陛下がいらっしゃる貴賓席。


そこから、魔術拡声器で陛下からのお言葉を賜る。


「諸君、奮戦見事であった。今年は蛮族との大規模な戦が勃発し、その中で経験を積んだ者達が此度の闘技大会で圧倒的な実力を見せつける結果となったが、余はこれをあらゆる者にとっての福音であると考えておる。人は経験を積めば、ここまで強くなれるのだ。想像してみよ。この場の戦士全てが彼らと同じだけの力を得たとしたら。我が国は蛮族、魔獣、ドラゴン、あらゆる脅威をものともしない強国となれるだろう」


なぜだろう。頂いているのはお褒めの言葉なのに責められている気がする。


「先の蛮族との戦で我が国が失ったものは大きい。ムダジーニ・スグシニマスやスグシーヌ・イヌジニスをはじめとする勇猛な者たち、将来有望な若者たちを含む、多くの命が失われた。どれだけ冷徹になろうと努力しても、彼らが将来どれほどの貢献を国にしてくれたかを考えずにはいられない」


陛下は一度悲しみをこらえるかのように目を伏せ、拳を握って顔を上げる。


「しかし、どれだけ悲しんでも死んだ者達は帰ってこないのだ。だからこそ、今は感謝をのべたい。諸君のような精強な者達がまだこれほど残っているという事実に、余は深く感謝するぞ」


少しだけ優しい声で、全ての参加者への感謝をのべた陛下は、いよいよ褒美の話に入るらしく、控えていた衛兵に、金貨を積み上げたお盆のようなものを掲げさせた。


例年の優勝賞金からするとかなり少なく見えるが、まあ、ロークが半ば総なめする賞金なんて多ければ多いほど反感を買うからそれでいいという考えにしかならない。


俺の仕事は魔人部門に出場して殺し屋を雇った貴族をあぶり出す手伝いをするところまでなのだ。


「しかるに、今年は余の感謝の表明として、全ての参加者に、ここに掲げたものと同じだけの金貨を贈る」


陛下の言葉に、参加者たちからどよめきが走った。

優勝者の総取りであることを前提に、だからこそ死に物狂いで勝つために今日まで鍛えぬいてきた者達からすれば、それは努力への冒涜に等しい。


だが、それは杞憂に終わった。


「そして最も多くの優勝者を輩出したローク領主ラグナに、蛮族どもを引き込んだ反逆者、スディニ・ヴラギティール及びヴァイコック・ドナノの処刑を執行する名誉を与えよう」


優勝者への特賞は別途用意したアピールを欠かさない陛下。


…きったねえ!もともと俺にやらす気だった処刑執行人をどさくさに紛れて褒美ってことにしてノーコストで回りを丸め込むダシにしやがった!


「ラグナよ、この二名の処刑をこの場で行うか?」


そして、前に進み出た俺に訊ねてくる陛下。


この意図は明白だ。

闘技大会ではからずも国内最強の戦士たちを保有することをアピールした俺が、まだ隠れている反逆者に雇われた暗殺者(ただし魔人部門で俺にボコられて半死半生)も並んで見守っているこの場で、反逆者の旗頭を処刑する。

反逆者への恐怖の象徴としてこの上ない姿だ。


だから、俺はそこにひとつだけ、トッピングをのせることにした。


「今ここで。しかし、執行そのものは、我が配下に行わせたく存じます」


俺の意図を汲み、陛下は悪い笑顔で頷いた。


「良かろう。その者を呼ぶがよい」


「カイト、ブランドル」


既に俺の意図を読んで、列から外れて待っていた二人が、わざとらしく俺の前で片膝をつく。


なんとも演技派である。


そして、戦士部門を蹂躙した国内ツートップの圧倒的な実力を持つ剣士が二人とも、魔人部門で暴虐の限りを尽くした俺の配下であるとアピールするという俺の目的は、その演技力のお陰でこの上なくうまく行った。


あとは、仕上げだ。


「くだんの二名は、お前たちにとっても恨む相手だろう。好きになぶり殺せと言ってやりたいところだが、苦痛無く、慈悲深く、速やかに殺せ」


魔人領主の無慈悲アピールはこんなもんでいいだろう。


「「ははぁ!」」


悪ふざけかと思うくらい大袈裟に低頭した二人は、やがて縛られ、猿轡をかまされて抵抗も慈悲を乞うこともできない状態で出てきた二人の死刑囚を、闘技場にかけられっぱなしだった保護魔術ごと斬り裂く威力の一撃で首をはねて、慈悲深く一瞬で殺してのけた。


かくして蛮族を手引きして国家転覆を図ったスディニ・ヴラギティール・モロヴァレイとヴァイコック・ドナノ・ヴァレテルンは、その裏切りに満ちた生涯を終えた。


残党か、あるいはまだみぬ黒幕がいる可能性は残るが、これでこの事件は社会的にひとつの区切りはついたといえるだろう。


なお、一連の様子を見ていた観客や出場者は、まるで野良の魔王にエンカウントしたレベル1の勇者のような恐怖に満ちた視線を俺に向けていた気がするが、きっと気のせいだろう。




闘技大会の閉会後、俺たちは王城の応接室に呼び出された。


「ラグナよ、よくぞ、即興でやってのけてくれたな。見事だったぞ」


どうやら、俺をねぎらってくれる意図だったらしい。やりすぎだボケとか関節技を食らうことも覚悟していたのだが。


「ありがとうございます。しかし、俺はなにもしていません。カイトとブランドルが乗ってくれたお陰です」


ひとまず、盛大に悪ノリしてくれたカイトとブランドルの手柄だと主張しておく。


「そうじゃな。二人とも、よくやってくれた」


陛下の言葉に、カイトとブランドルは無言で低頭した。

やはり、平民生まれだと陛下と非公式な場で話すとなると、うっかり不敬罪をやらかす可能性を警戒するのだろうか。


「しかし、やりすぎでもある。反逆者に対してあまりにも残虐な最強戦力を抱える貴族の存在は、反逆者に息を潜めさせ、反乱分子がより細かく分かれて国中に散ってあちこちで根を張る結果をもたらすだろう」


「返す言葉もございません」


陛下がため息をつくのも頷ける。

この状況で次の反逆者を調べあげて処断するのは、ちょっと暴君ムーブが極まりすぎている。

それくらいには、俺は二人の死刑囚に無慈悲な仕打ちをしたし、功績やセレスのことがあるとは言ってもそこそこ陛下に贔屓されている。

なんとも、面倒な行間だ。


「そこでじゃ、ロークを割譲してやるから国を興せ。当然、国内の政争に他国を呼び込むのは此度のヴァイコックと同じ所業ゆえ、お前の出番はなくなるが、お前を殺すために闘技大会に魔人を送った者を粛清するには、むしろお前がいない方が都合がよいのだ」


だからってそういう方向に論理が飛躍するなんて俺聞いてないぞ。

だが、一国の王となること以上の名誉はない。

面倒なんで嫌ですとか言ったらたぶん全身の関節を逆さに曲げられる。


「ありがたき幸せ」


こう言うしかないじゃん…。

内心泣きながら受け入れる俺に、セレスが飛び付いてくる。


「ラグナが王になる日が来るなんて…!夢のようです…!」


セレスが幸せならいっか。

なぜか凪いだ心で、俺はそんなことを思った。

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