第59話:殺人に躊躇なさすぎる転生者
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
俺は、かなり非人道的だったようです。
賞金首の盗賊にちょっと映画っぽい皮肉台詞を言ったら白目をむいて気絶され、取り巻き連中も完全に戦意を喪失してしまった。
せっかく賞金首を相手取るなら闘技大会に向けて対人戦にある程度慣れておき、また殺害による経験値も欲しかったところだが、少しばかり残念だ。
とりあえず妖精さんに頼んで、盗賊全員を植物のつるで縛って逆さ吊りにしておく。
賞金首率いる何十人もの盗賊がミノムシのように吊り下げられている光景はなかなか愉快だ。
魔術という高度文明があっても、蛮族や魔獣という脅威にもさらされているこの世界は決して安全安心で隅々まで豊かな楽園などと言える場所ではない。
厳しい世界を、誰もが必死に働き、支え合って、助け合って、ときに誰かのために自らを犠牲にして必死に生きているのだ。
そんな中で、自分だけが豊かであればいいと他者から食料や財を奪う盗賊のような連中がのうのうと生きていることを容認できるほど、俺は寛容にはなれない。
賞金首という形で、それを殺してよいと法的にもお墨付きが出ているのなら、俺は嬉々としてそれを殺す。
無抵抗の者を殺すのはよくないとカイトやブランドルに制止されていなかったら、俺はこの場にいる盗賊全ての首を刎ねていただろう。
「…僕はフィンブルに行って人を呼んでくるよ。この人数じゃあ救出…もとい、連行にも人手がいるだろうし」
そして心優しいカイトは、逆さ吊りにされている連中の身を案じて人手を集めに行った。
俺とは違い、カイトは盗賊に対してさえ寛容であるらしい。
「俺はここで見張りをしておく。財宝の回収は任せたぜ、ラグナ」
そういう役割分担になったらしい。
逆さ吊りになっている盗賊どもに大剣を見せびらかし、逃げようと試みたら叩き斬ると脅しをかけるブランドルにその場を任せ、俺は坑道の奥に入った。
探し物は、得意ではないのだが、まあやるだけやってみるしかない。
「宝物庫ならこっちだぜ、魔人の兄貴」
なんかワルに憧れた小学生みたいなノリでグラサンかけてる妖精さんが出てきた。
10センチくらいの2頭身というマスコットキャラクターサイズでそれをやられても可愛いだけだが…。
こういう場合、どう応対するのがいいのだろうか。
やっぱり、ノリに合わせたほうがいいよな、たぶん。
「くくく…おぬしも
悪代官ごっこをしながらそちらに歩き出すと、妖精さんは楽しそうに俺を先導してくれた。
しばらく歩くと、妖精さんが灯してくれた明かりを反射してキラキラと光るものが見え始めた。
恐らくこの奥に、盗賊が盗んだ財宝なんかはため込まれているのだろう。
「お納めくださいお代官様。お代官様のために用意させました、山吹色のお菓子でございます」
いつの間にかチンピラコスプレグラサンスタイルから悪徳商人風味の和服スタイルにコスプレチェンジしていた妖精さんが、宝物庫を示してお辞儀してくる。
俺が悪代官ネタ振ったからってそこまでのってくれるのか。
この妖精さん連れて帰りたいな。
「おお、重いのうガッハッハ」
とりあえず王道のノリを返しながら、俺は金貨が詰まったトロッコを持ち上げ、中身を全部収納魔術に流し込んだ。
「魔人さんはやっぱり楽しい人だな」
悪人ごっこは終わったのか、俺にとっても見慣れた姿に戻った妖精さんがニコニコと話しかけてくる。
「ありがとうございます」
俺は収納魔術の容量限界ギリギリまで金貨を詰め込み、運びきれないことを悟って方針を切り替えた。
ここはフィンブルから十分遠く、転移封じの効果範囲の外にある。
そのことを確認して、俺は一度ロークに飛んだ。
「シルヴィア、いる?」
家に飛んで、そう声をかける。
「ここに」
しゅたっと俺の後ろに現れるシルヴィア。
このくのいちムーブにもすっかり慣れたものだ。
まあ、この世界に放り出されてまだ赤ん坊だった頃からずっとそうだからな。
「この屋敷に倉庫みたいな使い方ができそうな部屋っていくつある?」
特にシルヴィアの身体能力は気にせず、俺はとっとと本題に入る。
「地下にかなり大きな倉庫スペースがあるのを見つけまして、ちょうどお掃除が済んだところです。使えそうなものは全て地上に運び出していますので、今は空です」
ちょっとタイミング良すぎないだろうか。
実は俺が今頼んだこの瞬間に土遁の術とかで倉庫スペース作ったりしてないだろうか。
シルヴィアならそういうことができてもおかしくないからなあ…。
「ちょうどよかった。ちょっと訳ありでね。そこに金貨なんかを転移させたいから、一度俺を入らせてほしいんだ」
そう頼むと、シルヴィアは笑って頷いてくれた。
シルヴィアに案内され、台所の床にあった隠し扉から地下へと続く階段を下りること数分。
「ここです」
案内されたそこは、数分下っただけの階段にふさわしい天井の高さを持つ、いっそロボットアニメの格納庫のようにすら見える広さの空間。
「うん、十分すぎる広さだ。じゃあ俺は金貨を転移させるから、シルヴィアもすぐここから退避して」
「はい!行ってらっしゃいませ!」
俺はこの場所を転移魔術の行き先の一つに登録し、シルヴィアに送り出される形で坑道に転移で戻った。
もちろん、転移で戻った俺がやることは一つ。
全ての財宝を、地下倉庫に転移させる。
「ふぅ、結構魔力使ったな…」
一日中強化魔術垂れ流し修行を今も欠かさず行っているというのに、それでもそんな感覚になるような量の財宝があったとは驚きだ。
まあ、これでロークの財政は当面安泰だろう。
そんな量を略奪してため込んでたらそりゃ賞金首にもなる。
「…人間の賞金首系の依頼って、忌避されてるよな…これ、ひと儲けできるんじゃね?」
俺はいったん坑道から出て、そのアイデアをブランドルに話してみることにした。
「…うん、とりあえずお前さんが本当に賞金首を人間扱いしてねえことだけはわかった」
俺のアイデアを聞いたブランドルは、顔をしかめながらそう言った。
実際、法の上でも賞金首はその時点で人権を剥奪され、それゆえに人権のうち最も大切な生命に関する権利の侵害である殺人の罪に問われることなく、殺害しその首を献上することで賞金が得られる。
まあ、そういう法を作り布令とすることができる、べらぼうに先進的な王がいるから王政下で人権という概念が存在するわけで、大半の、文化的に想像される中世的な多くの貴族や平民にはそういう概念は理解できないというのは、仕方ないことではあるのだが。
…現代人知識が知識チートとして機能することすらないこの世界マジで何なんだよ転生者に厳しすぎだろ。
「だがまあ、実際、人と戦う経験は積めるし、金も手に入るか。甘ちゃんのカイトを連れだす口実にはちょうどいい。カイトのやつは俺が説得しとくから、ロークに戻って受付の姉ちゃんに賞金首の依頼かき集めてもらってきな」
俺の意見を非人道的だと顔をしかめたにもかかわらず、ブランドルはその実利面を認め、これから実施することについては賛同してくれた。
まあ、カイトをローク、というかカーティスの娘ミリアから遠ざける意味でも、合理的な外出の理由は必要だ。
「ありがとう、ブランドル」
俺はロークに飛び、エステルに人間の賞金首の情報を集めてもらうよう頼むことにした。
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