第58話:賞金首に人権などない

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


盗賊狩りも楽しいですね。



フィンブル近郊に転移して城門をくぐった俺たちは、冒険者協会に直行して依頼を探したのだが。


「うーん…」


依頼の争奪戦がとうに終わる少し遅めの時間に、そこそこの規模の都市であるフィンブルの冒険者協会の依頼を見ればこうもなろう、というような、割に合わない依頼や忌避されるタイプの依頼が少数残っているだけの掲示板を見て、俺たちは頭を抱えた。


安い仕事を受けるか、忌避される仕事を受けるかの二択で、結局俺が手に取ったのは。


「賞金首の捕縛または討伐、これにするか」


基本的に忌避される対人戦闘の依頼。


「お、おう…躊躇ねえなお前」


ブランドルすら引いていた。

ベテランでも躊躇くらいはするものらしい。


対人戦闘は俺が思っているよりずっと忌避されているようだ。


「知恵があって罠を張ってくる敵というのはそんなに嫌か?」


確かにその脅威度は決して低くないが、蛮族だって当たり前にやってくることだ。

それを嫌がるなら、獣だけを狩り続けるしかない。


「ラグナくん、殺人に忌避感は?」


尋ねてくるカイトに、俺は首を傾げた。


「賞金首に人権などないが?」


まさか、殺人への忌避感などという的外れな理由で賞金首の討伐が忌避されているとでも言いたいのだろうか。

賞金首は指名手配の時点で人権を剥奪され、既に人ではないという扱いを受けている。


「そーゆーことじゃねぇだろぉぉぉぉ!」


何故か、俺の頭を地面に沈めるほどの威力でブランドルの鉄拳が炸裂した。


どうやら、俺は何かを間違えたらしい。


「そりゃ、法や律令ではそうだけどさ、割り切れないよ」


苦笑するカイトに、地面から首を引っこ抜いた俺は確認する。


「そういうもんか」


「そーゆーもんだ」


ブランドルが呆れたように肩をすくめた。


「じゃあ、犬の散歩の仕事に変えるか?」


俺はもう一枚の依頼書に目をやるが。


「いや、こっちでいい」


賞金首討伐の依頼自体は、受けてくれるようだ。

実際、それはありがたい。

ロークでの生活費を考えると、この依頼だけで2か月は食いつなげるくらいの賞金額があるのだ。

それに見合った悪辣な奴が対象の賞金首だということを差し引いても、ロークの財政を考えるとこの条件は魅力的だ。


「じゃあ、受けよう」


俺は依頼書を受付窓口に持って行った。




「さて、この辺がアジトだったか」


賞金首討伐のため、フィンブルの都市から出て山道を進むことしばし。

地図の通りならそろそろ小さな洞窟が見えてくるはずなのだが。


「あれだね」


さすがにこういうのは経験がものをいう。

俺より先に洞窟を見つけたカイトが指さした先には、確かに洞窟が一つ。


洞窟というより、廃坑道と言ったほうがいいように思える構造物がちらほら見えるが、まあ、洞窟と言ってもそんなに激しい間違いではないだろう。


「見張りは3人、坑道の奥から見張りが見えてるやつがいるかどうかはバクチだな」


剣を抜いたブランドルに合わせ、俺も、拳を握る。


「じゃあ、行くか」


俺が踏み込んだのに合わせて、双剣を抜いたカイト、後詰で大剣を構えたブランドルが突っ込む。


「喧嘩両成敗クラッシュ!」


俺は2人の賊の顔面を掴み、そのままシンバルでも鳴らすように2人の後頭部を全力で激突させる。

まるで手元で二つのスイカを握りつぶしたような赤い飛沫が飛び、2人の賊は一瞬で絶命した。


「おまえー!?」

「少しは殺人に躊躇してよ!?」


困惑しながらも剣の腹で賊の頭をぶっ叩いて気絶させ、てきぱきと縄で縛って逆さ吊りにしていたカイトとブランドルが猛抗議してくるが。


「賞金首に人権などないが?」


生かしておくべきではない存在に容赦できるほど、俺は甘くないのだ。


「そーゆー問題じゃねぇだろぉぉぉぉ!」


再度、ブランドルの鉄拳が炸裂した。


「騒がしいぞ、何事だ……え?」


俺たちの騒ぐ声を聞きつけて奥から出てきた何人かの男が、凄まじい返り血にぬれている俺を見て凍り付く。


「ら、ラグナ・アウリオン・ローク!?なんでこんなところに!?」


どうやら俺を知っているらしいが、何故来たと言われれば答えるしかあるまい。


「冒険者の仕事ですが何か?」


あえて煽るように言ってやると、狼狽したそいつは俺に指を突き付けて焦った口調でまくし立てた。


「新聞で読んだぞ!複数の領土を蛮族の侵攻から救って、たいそうな褒美をもらったそうじゃないか!なんで冒険者なんて続けてる!貴族らしく屋敷の椅子でふんぞり返ってりゃいいご身分のはずだろ!?」


新聞。

新聞である。

魔術がある世界なので、魔術を応用した印刷技術も発展している。

そうなると、日刊はさすがに無理でも新聞というものが生まれたりもするのだ。


この世界マジパねえ。


「文字が読めるのか。教養があるな。じゃあ、これも読めるな?」


それはそれとして、どうやらこの賞金首は文字が読めるらしいので、生前に何かの映画で見た皮肉たっぷりのセリフを言いながら、手配書を懐から取り出す。


「お、男前の肖像だな…」


冷や汗をかきながらすっとぼける賞金首。


「その下だ。この男前を捕まえるか殺すかすると2か月分の飯代をあげますよと書いてある」


嬉しいとぼけ方をしてくれた賞金首に内心でスタンディングオベーションしながら、俺はにやけるのを必死にこらえつつ皮肉を重ねる。


「子爵様の飯代にしちゃ安すぎる!どんな貧乏貴族だよ!」


若干発狂し始める賞金首に、俺はもう、満面の笑みを隠し切れない。


「こんな貧乏貴族さ」


返り血を浴びまくっていることを考えると、それはホラー映像でしかないのだろうが。


「み、見逃してくれよ、その5倍、いや10倍の金をやるからさぁ!」


ド直球の命乞いをしてくる賞金首だが、その命乞いには意味がない。


「聞いた?カイト、ブランドル、コイツ賞金の10倍くらいは財宝隠し持ってるんだって。ところで、賞金首討伐の時にそいつの財産見つけた場合の冒険者協会の規約ってどんな感じだっけ」


「蛮族のアジトや迷宮で見つけたものと同じく、冒険者が個人の収入にしていいはずだ」


「僕もそんな風だったと思うよ」


そう。冒険者協会は当然、賞金首がこういう交渉をする場合のことを考慮し、冒険者が買収されない規約としているのだ。

まあ、その場にない財産で買収するとかそういう交渉の余地はあるが、そこまで賞金首を信用するような奴なら冒険者としても使い物にならないので冒険者協会としてもとっとと除名するだけだ。


「じゃあ、殺そう。大丈夫、心臓を引っこ抜いて一瞬で殺してやるから苦痛はほとんどないさ」


満面の笑顔でにじり寄る俺。


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


全力で洞窟内に逃げようとした賞金首だが、しかし。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?足が、足がぁああ!?」


地面から生えてきた無数の泥の手によって足の動きを止められる。

土の妖精さんのいたずらだ。

俺がホラー映画みたいなことをしたせいで、そっち方向に興が乗ったらしい。


「ああああああああああああああああああああああああああああ!?」


最後に裏返った悲鳴を上げ、賞金首は白目をむいて泡噴いて気絶した。


「さて、君らのボスは戦闘不能だけど、どうする?戦って君らのボスを抱えて逃げてみる?」


一応他の賊に尋ねてみたが、そいつらは首をプルプルと横に振った。


…つまんねーの。


「なんでちょっと残念そうなんだい」


カイト、シャラップ。

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