第54話:つかの間の平和

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


一応の平和を謳歌する、やはり、そんな日々が幸せです。



オーガキングを倒して数日が経過し、荒地のぺブルゴーレムが200体を越え、森から持ち出していい種や苗が徐々に少なくなり、蛮族の残党狩りも本当に数体のゴブリンの群れを殺す程度の簡単な依頼しかなくなったころ、陛下から褒美を受け取りに来るようにという手紙が届いた。


結局、今回ヴァレテルンやモロヴァレイに潜入した蛮族の頭目クラスであるドレイクロード、ラミアクイーン、オーガキングの三体を、全て俺たちが討ち取っているのだ。

褒美の一つも出さねばメンツが立たないというのはそうだが、正直、俺は憂鬱だった。


爵位を上げてもらうということはまず無いだろう。

今でさえ、15の若造が子爵をやっているというかなりのえこひいき状態なのだ。


では、領土か。ロークより豊かで、いわゆるまっとうな領民がいる領土。

確かにそれは一般的には褒美たりうる。

だが、それは嫌だ。俺はロークを気に入っている。

ロークの東の荒地を開墾し、広大な森林に作り替えるのが俺の夢なのだ。


選べるのなら、キマイラが襲ってこなくなったことで収入源の一つが断たれたうちの領土を当面問題なく運営できるような資金を願いたいところだが。


それよりも、一気に荒地を開墾できるように大量の魔力回復薬を貰うのがいいな。

エレナを働かせすぎだとセレスに怒られてしまうだろうが、まあそこは何とか別の埋め合わせを考えるしかないだろう。

好感度を稼ぎすぎて問題にならない程度で。


「考え事ですか、ラグナくん」


ゴーレムを呼び出し、また一枚分の畑を作ったエレナが、のぞき込むようにして尋ねてくる。


「ああ。陛下に何の褒美をお願いするかをな…」


慌てて水と肥料を魔術で生み出しながら応える。


「魔力回復薬で私にゴーレムをいっぱい作らせたいって顔に書いてありましたよ」


だが、エレナは俺の葛藤を全部お見通しだった。


「本音ではあるが、それではエレナが不憫でな」


躊躇した理由を答えると、エレナはリエルがするように俺の頬をつついた。


「もう、何を今更。頑張っちゃいますよ、ラグナくんのためなら」


エレナはすっかり、側室としての覚悟を決めきっていた。

リエルもそうだろう。

この期に及んで半端者なのは、俺一人か。


「すまん。とりあえず、みんなと合流して王城に行こう」


俺はエレナの手を取って、屋敷に転移した。




貴族が整列している人垣の中央、玉座に続く赤い絨毯の前を、いつもの7人で進む。


玉座の前で跪いたところで、陛下が咳払いを一つした。


「ラグナ・アウリオン・ローク子爵、此度の働き見事である。お前の働きにより、蛮族の残党を束ねていたオーガキングが討ち取られ、蛮族の侵攻は完全に阻止された。望む褒美を言うがよい」


陛下は、今回の俺の功績を読み上げ、褒美の希望を聞いてくれた。

きっと、俺がロークにとどまることを望む姿を他の貴族に見せるのが目的だろう。


「望むことを許されるなら、頂ける限りの魔力回復薬を拝領したく存じます」


だから俺は、エレナに内心で謝り倒しながら魔力回復薬を望んだ。


「魔力回復薬か。何に使うのじゃ?」


その質問は確かに必要だ。

これで、王城に魔術爆撃をするのが目的だったりすると魔力回復薬を出すわけにはいかない。


「こちらのエレナは、地面の中の小石でゴーレムを作り労働力とすることができます。それを利用し、ローク東部の荒地を一気に開墾するつもりです」


「ふむ、ならば種や苗も用意しよう。森から手に入る種だけでは、全ての畑を使い切れまい」


俺の答えに陛下は少し考え込んだ後、作物の種や苗をも用意してくれると請け負ってくれた。


「褒美はすぐにロークに転移させよう。下がってよいぞ」


陛下の許しを得て下がる俺たちを、怪訝な様子で貴族連中が指さしながらひそひそといぶかしがるように囁き合っていた。

まあ、それはそうだろう。

せっかく褒美をもらえるというのに罰ゲーム領地であるロークからの脱出を願わないようなやつは、一般的な感覚では単なるキチガイだ。


だからこそ、俺はロークを終の棲家としたいと思っている。

きっと俺だけが、あの場所の価値を理解し引き出せるただ一人の貴族だから。



ロークに戻り、昼食をとる間には、大量の魔力回復薬が転移で送られてきた。

森から採集するのも難しくなってきた種や苗も様々なものが積み上げられている。


これなら、一気に畑を拡大できるだろう。

無論、作物を植えることに関しては、作業をしてくれるムラオーサ達の労働力の限界はあるが、少なくとも畑を広げることだけはできる。


「じゃあ、行くか、エレナ」


収納魔術に魔力回復薬を全て詰め込み、俺は転移の準備を始めた。


「はい。今日だけでゴーレムさんの数がすごいことになりそうですね」


既に200を超えるゴーレムを保有するロークは、兵力だけならまあ頑張れば王都を更地にできる程度の戦力を有している。

無論、ゴーレムを全て王都に転移させるだけで俺の魔力が底をつくので現実的には実施できないが。


「そうだな」


少なくとも、現実的な戦力でロークを攻め落とすことはまず不可能と言えるだけの防衛戦力になるゴーレムの大群が手に入ることは間違いない。


そのまま転移で飛ぼうとしたとき、ブランドルがそでをまくって見せてきた。


「種や苗は俺たちが荷車をひいて運ぶ。ゆっくり耕してこい」


その申し出は、俺の目論見とは違っていたがありがたい話だった。

種や苗は毎日少しずつムラオーサ達に渡すつもりだったが、確かに畑に持って行っておいた方が都合はいい。


なんなら、俺たち自身も作業に参加して一気に植えるという手もある。


「じゃあ、待っている」


俺はエレナとともに畑に飛んだ。



畑での作業は、なんとも単調だった。

やったことと言えば、結局はエレナが全魔力でゴーレムを生んで畑を作り、俺が水と肥料をまいては魔力回復薬を大量にエレナに渡してエレナがそれをがぶ飲みする事の繰り返し。

なお、ムラオーサたちの魔力は一瞬で尽きた。痩せた土地に十分な肥料を与えるには、膨大な魔力が必要なのだ。


だが、同時に、数時間で一気にゴーレムの数が1000に達し、畑5倍に広がる様と、広げていくそばから、その後方でカイトたちが運んできた種や苗をてきぱきと植えていくムラオーサ達の作業の様子を見るのは、なんとも壮観で爽快な体験だった。


明日以降、水やりをしなければならない畑の広さも急に5倍になるので、ムラオーサ達の魔力が持つかという問題はあるが、まあそれもぜいたくな悩みという奴だ。


そして何より、反対に首を巡らせれば、無限に広がると錯覚できるだけの荒野フロンティアが広がっている。


こうして開墾、開拓に費やす人生というのも、案外悪くないのかもしれない。


「そうだなー。そんな平和な日々が続くといいな」


足元から、妖精さんも同意を示してくれている。

俺は、開拓地の領主という奴が性に合っているのだろう。


こんな穏やかな日が、ずっと続けばいいな。


その夜、その淡い希望が打ち砕かれる手紙を受け取り、打ちひしがれることになるとも知らず、俺はそんな穏やかな心地で自らの領土をもう一度眺めた。

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