第53話:侵略者との決着

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


援護は、必要なかったかもしれません。



リエルの大火力に助けられてオーガキングを撃破した俺とセレスは、オーガキングの群れと交戦しているカイトたちのもとに向かったのだが。


「ぶるぅらぁぁぁぁぁぁ!」


この短期間でどうやってそこまで筋力を高めたのか、ブランドルの一撃は、オーガどもをまとめて粉砕しているし。


「姉さんの作ってくれた剣だ、やって見せるさ!」


カイトも次から次にオーガの首をスパスパはねている。


「行くぞセレス!」


とりあえず、俺も近くのオーガの頭を蹴り砕いておく。

いつの間にか、俺もだいぶ筋力が付いたらしい。


前は投げ倒すのが精いっぱいだったというのに。


「はい、ラグナ!」


セレスが飛ぶ斬撃でオーガをまとめて叩き切る。

やっぱりセレスだけ戦闘力がおかしい。


いや。


何処かの高台から俯角をつけて撃っているのだろうが、弓矢の分際で着弾地点にクレーター作ってるリエルの射撃も、セレス並みに異常だ。


この場にいないエレナもそこらに転がっている小石から無限に兵力を生み出せるし、ちょっとうちのパーティの女性陣は全員戦闘力が高すぎる。


俺はオーガを蹴り飛ばしながら、なんでうちの嫁さんたちはこんなに強いのだろうと天を仰いだ。



2時間もしないうちに、オーガの群れは全て地面の染みに変わった。


「ふぅ、みんな、お疲れ様」


俺が額の汗をぬぐいながらカイトたちをねぎらうと、ブランドルがまだ殺し足りないと言わんばかりに剣を素振りしながらがははと磊落に笑った。


「やっぱり戦うと元気になるなぁ!今日はうまい飯が食えそうだぜ!」


戦うと元気になるとか、もう蛮族なんだよなぁ。

そんな奴だから、こんなに強くなるまで戦い続けていられるという事なのだろうが。


「うん、姉さんの剣に、だいぶ手がなじんできた」


かつては一人で立ち向かうこと自体ができなかった敵の首をスパスパと刎ねていながら、それを剣に手がなじんだで済ますカイトもだいぶいかれている。


女性陣はチート戦闘力、男性陣は精神がイカレ、まともなのは俺だけか。


「あ、なにか今失礼なこと考えましたね、ラグナ」


心を読まないでくれないかな、セレス。


俺は無言でセレスを抱きしめた。


「あ、あのあのあの、いつだって私は大歓迎というかラグナのとりこというかとにかくとてもうれしいんですけどやっぱり人目があるのだけは…」


よし、ごまかせた。

セレスがとんでもないことを口走っていたのは聞かなかったことにする。




あらためて洞窟内部の調査を行う父上の軍に続いて洞窟に入ると、中にはもう、何の戦力も残っていなかった。

オーガキングとオーガの群れが、王と近衛のような正真正銘の最後の戦力だったのだろう。


戦力はなかったが、食料や財宝は凄まじい量が蓄えられていた。

食料の方は人間かもしれない肉が混じっているのでちょっと埋めるしかない。

財宝の中にはドナノ家やヴラギティール家の家紋が彫られた宝箱などもあり、恐らくオーガキングがヴァイコック・ドナノ・ヴァレテルン伯爵やスディニ・ヴラギティール・モロヴァレイ伯爵を脅迫し、ラインジャ王国に水面下で進行していた蛮族の頭領であったのだろうということを俺に理解させた。


「どうやら、蛮族の侵攻は終わったようだな」


俺と同じ結論に至ったのであろう父上は、肩の荷が下りたと言いたげに息を吐いた。


「陛下への報告は私からしておく。自領に戻り、仲間をねぎらってやるとよい」


「はっ!」


俺は父上に一礼し、陣地の後方に向かった。

セレスとカーティスは射撃位置から動いていないのだ。




「お疲れ様、リエル、カーティス」


陣地後方まで歩き、そこで何故かぼうっと立ち尽くしていたリエルに声をかけると、リエルはふらふらと抱きついてきた。


「疲れたよぉ…腕が痛いよぉ…」


普段の元気いっぱいな姿からは想像できない、半べそをかいているようなリエルの声で、あの凄まじい威力の射撃はリエルに相当の負担を強いていたのだと言うことに俺はようやく気付いた。


「腕が持たんと何度も止めたのだがな、だったら治癒魔法を使えと怒鳴ってまで、リエルは矢を撃ち続けた。愛されているな、ラグナ」


カーティスがリエルの必死さを教えてくれる。

そんな無茶までして、勝つために、いや、俺のために必死になって矢を撃ち続けてくれたリエルに、俺は感謝しなければならない。

リエルのおかげで、俺たちはオーガキングとその近衛を、犠牲を出すことなく殲滅することができたのだ。


「そんなに頑張ってくれたのなら、歩いて帰るのもつらいよな。担いで帰ろうか?」


言いながら、セレスをちらと見やるが、嫌がっているようなそぶりは見えない。むしろ、笑顔で親指を立てている。

なんでセレスはエレナやリエルと俺が接触するとき、嫉妬ではなくむしろもっとやれ的な反応を見せるのだろうか。

実は愛されていない、と疑えるほど、俺はいい加減にセレスの夫をやっているつもりもない。

セレスは間違いなく、俺を愛してくれている。

にも拘らず、俺がエレナやリエルと親密になるようなことを、心から嬉しそうに応援してくる。

きっと、セレスの愛の形を理解するのには、もっと長い時間が必要なのだろう。


「おんぶがいい」


甘えてくるリエルに、背中を向けてしゃがみ込む。


「今日の立役者の願いだ。是非もない」


「んぅ~♡」


おんぶするのは構わないが、頬ずりするのはさすがにやめてほしい。

人前で俺に抱きつかれたセレスもこんな感じで気まずかったのだろうか。


「じゃあ、帰るか」


俺は転移で仲間とともにロークへ帰還した。




「お帰りなさい、ラグナくん。今日のお仕事はどうでした?」


帰宅してすぐ、出迎えてくれたのはシルヴィアではなくエレナ。

エレナに妻らしいことをさせようというシルヴィアの配慮だろうか。


「ただいま、エレナ。…たぶん、決着がついたよ」


少しの疲れが声ににじみ出るのを止められなかった俺に、エレナはことん、と首をかしげた。


「決着?」


まあ確かに、決着とだけ言われても分からないか。

疲労は頭の巡りも悪くする。

今日はこれから、ゆっくり休むとしよう。


「ああ。ヴァレテルンやモロヴァレイを侵略していた蛮族の、頭領だと思われる者を討伐した」


エレナは、ぱあっと周りまで明るくなるような笑顔を浮かべた。


「そうですか!それなら、夕食はお祝いに、ちょっとだけ豪勢にしちゃいますね!お風呂に入って待っていてください!」


どうやら、エレナは風呂まで沸かしてくれていたようだ。

毎朝ゴーレムを全魔力で作らされるという、悪く言えばゴーレム作成機扱いされ、大手柄になる戦いの場に参加すらさせてもらえなかったという事実を不満に思ってもいいはずなのに、エレナはそんなことを思っている様子がない。

むしろ、ただ俺が成し遂げたことを純粋に喜んでくれているように見える。


俺はきっと、もっとエレナに感謝すべきだ。


「ありがとう、エレナ」


俺が衝動的につぶやいたその言葉を耳ざとく聞きつけ、エレナは笑った。


「急にどうしたんですかラグナくん」


「急に言いたくなったんだ」


俺が目をそらすと、エレナはよくシルヴィアがするように、俺を覗き込んで人差し指をたて、めっ、と叱りつけて来た。


「もう、セレス様との間に後継ぎが生まれる前に私の好感度を荒稼ぎするのはリスクですよ?ちゃんとそういうリスクも管理してくださいね?」


どうやら、今のはエレナ的に好感度が上がる何かだったらしい。

そして、わざわざそういう注意の仕方をしてくるということは、エレナは今でも結構そういう衝動をこらえているのだろう。


「肝に銘じるよ」


リスクの管理もそうだが、今でも我慢してくれているエレナをこれ以上苦しめないためにも、俺は迂闊にそういうことをしないように気を付けなければならない。

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