第52話:3体目の蛮王

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


巨大生物と戦うのは光の巨人の仕事。そう思っていた時期が俺にもありました。



突入部隊を見送り、何事もなければこちらの勝利だと考えた俺だが、まあ常識的に考えて、そんな状況で何事もないなんてことがあるはずもなく。


30分もしないうちに、突入部隊はほうほうのていで洞窟から脱出してきた。

怪我をしている者もいるし、数もずいぶんと減っている。


中で、強敵かトラップにやられて敗走する羽目になったと考えるのが妥当だ。


「何があった!報告しろ!」


突入部隊の生き残りに父上が檄を飛ばすと、恐らく生き残りの中でもっとも地位が高い兵士が父上の前に進み出た。


「きょ、強大な蛮族が中に…!」


トラップではなく強敵がいたらしい。

敵なら、倒せばいい。

引っ掛からないように気を付けなければならないうえにいくつあるかもわからないトラップよりはましだ。


「数は」


「1体です」


大量にいるわけではないのは救いだ。

無数の強敵を相手にするとなったら、いくらもとフィンブル最強のパーティ”紅剣”を前身とする俺たちでもきつい。

妖精さんの力を借りる必要があるだろうが、妖精さんは気まぐれだ。

あまり頼りすぎるのはよくない。


「種族はわかるか」


「恐らくオーガ系統かと…」


俺は頭を抱えた。


オーガは種族的にもかなり危険な蛮族だ。


下位種族のレッサーオーガの時点で、人間に化けて人類の都市に紛れ込むことができる。

このせいで、基本的に人類の都市では、衛兵が目を皿のようにして出入りする人々に蛮族が紛れていないか見張らなければならないし、転移室の警備も厳重にしなければならない。


害悪蛮族系統ワーストワンをあげろと言われればたぶん俺は人間の社会にすさまじいセキュリティコストを強いているオーガ系統をあげる。


そして、戦闘力を見ても、人間の2倍を優に越える体格というアドバンテージを雑に擦ってくるうえ人並みに魔術まで使ってくるという隙のなさ。


かつて、レッサーがつかないオーガ3体で”紅剣”を壊滅の危機に追いやったと言えば、あらゆる冒険者はオーガの恐ろしさに震え上がるだろう。


そして、兵士なら、レッサーオーガや普通のオーガは衛兵の当番になったとき見分けられるよう訓練されているはず。

それがオーガ系統としかわからないやつなら、目撃例が少ないオーガナイトとかグレーターオーガとかそういうやつである可能性が高い。


嫌な可能性による腹痛から俺が脂汗をかいていると、ズシン、ズシンという地響きめいた音をたてて洞窟の壁を削りながら、人間の6倍以上の身長がありそうな巨大生物が窮屈そうに這い出てきた。

通常のオーガと比べてだいたい3倍のサイズのそれは、しかし形状的には確かにオーガによく似ていた。

こんなのが中に住んでいたとは、この洞窟の中はさぞ広いようだ。そして、こんなのとエンカウントして多少でも生き延びた者がいる突入部隊の優秀さもまた推して知るべし。


「げぇっ!オーガキング!」


その巨大人形存在を見て、カイトが顔面蒼白になった。

どうやらこの小型モビルスーツみてえなサイズのバケモノはオーガキングだったようだ。

こんなにでかいとは知らなかった。


「怯むな!矢を射かけろ!」


父上が檄を飛ばすが、今回ばかりはそれどころではない。

あの巨大生物が矢を撃ち込まれても、サイズ比的には人間がつまようじで刺されるようなものだ。

つまようじで刺されれば痛いが、それで致命傷になるとしたらよほどの急所に直撃した場合のみ。

そして、こちらは下から仰角をつけて矢を放つしかない以上、威力そのものにも激烈な制約が生まれる。


でかいやつは強いのだ。

でかいから強いのだ。


そうなると、戦術は限られてくる。


「とうあ!」


俺は全力でオーガキングの顔の前まで飛び、その左目に全力で飛び蹴りを叩き込んだ。

魔神化した魔人のフィジカルなら、10メートル以上の垂直飛びもお茶の子さいさいだ。


これで、しばらくは左方向への反応は鈍くなるはず。


「カイト!ブランドル!周囲の蛮族は任せた!」


着地しながらカイトとブランドルに叫ぶ。

これだけのサイズ差があると、戦士が接近戦をやるのはそれだけでも自殺行為だ。


よって、オーガキングの周りを固める、通常サイズのオーガの対処を任せる。


「この数だ、長くは持たねえぞ!」


オーガとて、3体で”紅剣”を全滅させかけたバケモノだ。ブランドルとカイトだけでなんとかできる相手ではない。


それでも。


「持たせて見せるさ、僕とブランドルなら!」


それでもカイトは決然と吼えた。

全く、要所要所できっちり主人公やってやがる。


「へっ、そういわれちゃあやるしかないな、ついて来れるか、坊主」


「もちろんさ!」


蛮族の群れの足止めに向かう2人を見送り、俺は後ろのセレスに尋ねる。


「飛翔魔術で飛び回りながら、動きを止めずに飛ぶ斬撃を出せるか」


セレスが飛翔魔術を使えることは、一度見て知っている。

飛ぶ斬撃はさっき見た。


だが、その二つを高度に組み合わせられるかは別の問題だ。


「はい」


幸い、セレスはできると言ってくれた。

だから、その二つを組み合わせた戦術を提案する。


「優先は回避行動、そのうえで、飛ぶ斬撃での攻撃を頼む」


要するに、機動力でかき乱しながらちくちくやる、という、気の長い戦術だ。

これでオーガキングを仕留められるとしても、きっと数日かかるしその間にカイトとブランドルが死ぬ。


「ラグナは?」


心配そうに見つめてくるセレス。

大丈夫だ、と言おうと思ったが、やめた。

セレスに嘘はつけない。


「俺にはもっと劣った手段しかない。まっすぐ行ってぶっ飛ばす。ただそれだけだ」


「ご武運を」


俺の強がりを、しかし受け入れて、セレスはそれだけ言って魔術で体を浮かせた。


「ありがとう。君もな」


そして俺も、オーガキングに向かって助走をつけた。

次に狙うのは向こう脛だ。


助走をつけて全力で、思い切り、低空軌道の飛び蹴りをオーガキングの向こう脛に叩き込む。


弁慶の泣き所はオーガキングにとっても痛みを感じやすい部分だったのか、オーガキングは悶絶したように震えて少しの間動きを止めた。


その隙に、上を取ったセレスの飛ぶ斬撃が一気にオーガキングの顔に殺到する。

あれなら、視界はそろそろ奪えたか。


そう思った直後、オーガキングの左ひじから先がいきなり吹っ飛んだ。

肘関節が急に爆裂したように見えたが、そのような現象を引き起こすものを、俺は一つしか知らない。

対戦車ライフル並みの威力を生む、リエルの弓だ。


「リエル…いい仕事をする…!」


おそらく、カーティスもかなりの魔力でリエルの筋力を強化しているのだろう。


「セレス、!」


その意図を、セレスはきっと誤解しなかっただろう。


決して、セレスはリエルの射線を邪魔してはならない。

そして、俺自身も。


地を這う俺は下から、宙を舞うセレスは上から、オーガキングの意識をそらし、リエルの狙撃を邪魔するという発想をオーガキングに与えない。


そして、リエルの狙撃が、オーガキングを射抜き。


わずか数分で、あたり一面にさっきまでオーガキングだったものが散らばった。


さあ、ブランドルとカイトの援護に行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る