第51話:残党狩り、または

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


蛮族の残党も、かなり組織的な作戦行動をとってきています。



畑から転移で帰宅した俺は、ゴーレムを量産して魔力を使い切ったエレナをシルヴィアに預け、戦闘準備を整えていたカイトたちとともにフィンブルに転移した。


フィンブル領内の蛮族の残党狩りは、既に兵士がかなりの巣を破壊しており、一部の抵抗が激しい地域の攻撃を支援してもらいたいというもの。


既にフィンブルを攻撃していた蛮族の首魁であるドレイクロードは死んでいるにもかかわらず、フィンブル、ガーゼット、グレンダーの三領土ぶんの兵が集められている状況でなお抵抗を続けていられるというのはいささか奇妙に感じられるが。


「来たな。早速現地に転移するぞ」


「はい」


完全武装し、庭で待っていた父上に続き、既に展開されている転移魔術に入ると、少し離れたところから剣戟の音が聞こえてくる野営地に出た。


周囲の山の見え方からいって、モロヴァレイとの境界付近と思われる。


絶え間なく剣戟の音が響く方向に歩を進めながら、父上は戦況について説明してくれる。


「蛮族どもは大量の魔獣を召喚して戦線を維持していてな…倒しても倒してもきりがないのだ。よほどあの洞窟を守りたいらしい」


父上が指さした方向に見えるのはかなりの大きさの洞窟と、そのすぐ前に陣取って様々な種類の魔獣を召喚し続ける複数の蛮族。

長弓隊が敵の多い位置に矢を射かけ、矢の雨を抜けてきた魔獣を重戦士隊が止めつつ撃破する理想的な戦術がほぼ完璧に実行できて、魔獣の屍を積み上げているにもかかわらず、人類側は前進できていない。

やられる以上のペースで敵が魔獣を召喚し続けているという、脳筋極まる敵の戦術によって。


「召喚師を複数有する敵勢ですか…厄介ですね。魔獣の中にキマイラもいるようですが」


俺が魔獣の群れを眺めながら聞くと、父上は頷いた。


「うむ。数日前に数体確認されてから、徐々にキマイラの数は増えている。それがどうしたというのだ」


父上の問い返しは、俺に一つの予想を抱かせる。


「うちの領土を襲っているキマイラが減りはじめた時期と合致します。順当に考えれば、こっちに呼ばれたから減ったという事かと」


この予想が正しいとすると、敵はロークを攻撃していた者をいくらかこちらに呼んでまでそうするくらいには、召喚によるこの場所の防衛に全力になっている。

実際、防衛を目的とするならその目論見は今日まで成功しているといっていい。


「そうか。そして、ロークへの攻撃より、こちらの方が優先度が高い…」


父上は俺が言わんとすることを理解してくれた。


だが、不明なことは多い。


そうまでしてここを必死に守る理由がどこにある?

通常、これだけの兵力に包囲されているのならば、撤退すべきなのだ。


しかし敵はそうしていない。

ここを守ることが、そんなにも重要なのだろうか。


だとすると、一刻も早く制圧しないとまずい。

背景の事情はどうあれ、絶望的な状況で守り続ける理由など一つしかないのだ。


すなわち、時間稼ぎ。


この場所を制圧されないまま、敵の何らかの目的が果たされるまでの時間が経過すれば、こちらの負けというわけだ。


「制圧を急ぐしかないが、術師を射抜ける射程まで近付くのにも手間取りそうだ」


舌打ちする父上。


だが、不思議そうな顔をしたリエルが前に進み出たことで、空気が変わった。


「ええと、お義父さま?たぶん私、射抜けるよ。弓の人たちくらいの位置まで行ければ」


なるほど、リエルは投擲だけでライフルのような威力が出せる凄腕というレベルを超越した射手だ。

そんな彼女が自分で投げるより優れていると認めて持っている弓は、きっと常人には扱いこなせない剛弓に違いない。


だが、それほどの射程距離(目測で父上の軍勢の3倍ほど)があったとは知らなかった。


「…頼めるか」


期待を込めた声で問うてくる父上。


「もちろんです。お義父さまの頼みなら。ね、ラグナ?」


笑顔で俺を振り返るリエルに頷きを返し、俺は父上に目を向ける。


「無論です。父上」


父上の目をまっすぐに見て、父上の頼みを受諾する。


「リエル以外はどう行動したらいい?」


カイトの質問に、俺は即興の戦術を父上の前で披露する。

俺より経験豊かな父上に添削してもらえる機会だ。


「カーティス以外はすぐに前線に出る。カーティスはリエルに筋力強化などの魔術をかけ、リエルが召喚術師を仕留めたらリエルと共に前に来てくれ。洞窟前を制圧したらそのまま突入…」


途中で、父上に肩に手を置かれて俺は言葉を止めた。


「少数精鋭で最初に突入はやめておけ。お前は好まないだろうが、真っ先に死ぬことこそを役割とする兵士もいるのだ」


どうやら、洞窟前の制圧まではともかく、そのあとの突入はダメな作戦だったようだ。




リエルとカーティスを後方に置き、4人で前衛に参加して数分。


「うおおおおおおおお!」


カイトが流れるような二刀の剣舞で次々に魔獣の首を落とす。

姉からのプレゼントを使いこなすために相当訓練を重ねて来たのが分かる。


「おうらぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」


ブランドルの一撃が地面ごと巨大な魔獣を粉砕する。

彼の怪力はもはやとどまるところを知らない。そのうち山丸ごと粉砕しかねない。


「やぁぁっ!」


セレスが振り抜いた剣閃がそのまま空気を切り裂き、軌道上の魔獣をまとめて裁断する。

飛ぶ斬撃なんてもんを使いこなせる人類を俺は王族以外知らない。


やっぱり、王族は種族:王族なんじゃないだろうか。


彼らの獅子奮迅の働きに引きかえ、俺はといえば近付いてくる魔獣の首を引っこ抜いて別の魔獣に叩きつける程度のことしかしていないので大人しいものだ。

処理ペースならカイトの半分程度だし、破壊規模はブランドルに突き放されているし、攻撃範囲はセレスの足元にも及ばない。


仲間のあまりの頼もしさに、帰って昼寝でもしようか、などという考えさえ頭をよぎる。

カイト、ブランドル、セレスの奮迅の直後、常人には扱えない剛弓を用いてリエルが放つ、槍のような矢が次々に蛮族の召喚師を粉砕していく様を見て、俺は本気で帰りたくなった。


矢が刺さって出血ではなく、矢に貫かれてその衝撃波ではじけ飛ぶという、もうそれは弓矢じゃなくて対戦車ライフルか何かだろという激烈な威力を目にすると、自分の存在意義を見失うのだ。


「リエル、なんか腕上げてない?」


魔獣を数体まとめて斬首しながら、ブランドルに尋ねるカイト。


「カーティスの補助魔術も冴えを増してるな」


ブランドルの答えは、俺には感じ取れないものだった。

長年の付き合いがあるとそういうことも分かるらしい。


「誇らしいですね、私達の仲間は」


周囲の魔獣がいなくなったところで、セレスが微笑みかけてくる。


「劣等感すら覚えるな」


俺はつい、ため息をついた。


「もう、胸を張ってください。ラグナは領主なんですよ」


セレスにわき腹をつねられた俺の横を駆け抜けて、父上の号令を受けた突入部隊が洞窟に入っていった。


あとは、何事もなければこちらの勝利だ。

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