第48話:追放系主人公はバカップル

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


恋は盲目って、本当ですね。




間抜けにも父上の屋敷にアポなしで転移した俺は、顔見知りの兵士にふん縛られ、父上のもとに引っ立てられた。

何回同じミスを繰り返すのかと、自分でも呆れ果てる。


「で、何の用で来たんだ」


「水を作る魔術と肥料を作る魔術の教材をお借りしたく」


俺自身以上に呆れた様子の父上に頭を下げると、父上は苦笑した。


「なんだ、そんなことか。送れと手紙だけ飛ばしてくれれば転移で送ったものを」


父上にとっては、わざわざ対面で頼むほどのことではなかったらしい。

そうなると、俺の行動はただ兵士の手を煩わせただけだ。

本当に申し訳なく感じる。


「すみません」


「構わん。それより、それが必要になるということは、領民は思ったより協力的なのだな」


口をついて出た俺の謝罪を軽く流し、父上はその教材が必要になった状況に話を移した。

父上の言う通り、領民が当初の想定より協力的だったからこそ教材が必要になったのは間違いなく事実だ。


「はい。ゴーレム作成のついでに小石を除いておけば、あとは全てやってくれると」


妖精さんの火力とゴーレムの防御力があれば、いかなキマイラの群れとはいえ領民を害することはできない。

その前提あってのことだとは思うが、それでも、ムラオーサは当初の予定よりもはるかに多くを請け負ってくれた。

俺は彼に感謝しなければならない。


「慕われているのだな。お前の人徳だろう。誇れ」


父上はそれを、俺の人徳と言った。


「はっ」


俺に人徳などあるものかとつい言い返しそうになってしまうが、きっと、それは俺が自覚していないナニカを呼ぶなら人徳と呼ぶべき、ということなのだろう、と納得しておく。


それよりも、重要な話がある。

それは父上も承知しているだろう。


「そうなると、蛮族の残党狩りに出せる戦力は増やせるか?」


予想通り、父上は、もともと農作業に従事するつもりだった数人を戦力として追加できるか確認してきた。


「はい、俺自身と、セレス、そしてリエルを追加できます」


そして追加できるメンバーは、数はともかく個々人の戦力で言えば最低でも俺。

魔人の俺が一番弱いというのはちょっといろいろおかしい気がするが、まあそれだけセレスもリエルも別ベクトルに超強い。


「そうか。では、その戦力を前提に冒険者協会に依頼を出しておこう。魔術の教材を受け取って、領土に戻るがよい」


父上の許しを得て、俺は数冊の魔導書などを受け取ってロークに戻った。




「カイト、少しいいか」


魔導書を屋敷に置き、森にいたムラオーサに教材の準備ができたことを伝えた後、俺は畑に転移して土いじりを楽しんでいるカイトに声をかけた。


「ラグナくん、ちょうどよかった。畑のことはだいたい終わったところだよ」


「そうか」


カイトはにこにこと笑って立ち上がった。

土いじりが本当に好きらしい。

妖精さんも楽しそうにラジオ体操みたいなことをやっているので、土の調子もどんどん良くなってきているようだ。


「それで、何の用だい?」


訊ねてくるカイトに少し悩んだ俺は結局、単刀直入に尋ねることにした。

どうせ俺が言葉を選んだところで、気の利いた言い回しなど思いつくわけもない。


「カイトは農夫と冒険者と、どっちが性に合っているのか確認しておきたくてな」


「そうだなぁ」


俺の質問に、カイトは少し考え込み、数分悶絶したうえで、答えた。


「どっちかをやめなきゃいけないとしたら、僕は冒険者を続けたい」


俺が急にこんな質問をした意図を、どちらかに専念させるという意味で取ったらしい。

その考えは、大幅に間違えているわけでもない。


「そうか」


「農夫の暮らしも悪くないけど、僕は、僕が顔を知っている人の暮らしを守りたい」


なんとも優等生な決意を語るカイト。

相も変わらず、主人公適性は俺の7倍くらいある男だ。

いや、7倍で済むだろうか。


「そうか」


「それに、冒険者をやっていなかったら、ラグナくんやブランドルにも出会えなかっただろうし、そうでなければきっと姉さんと再会することも出来なかった。それなりに、冒険者って生き方に愛着はあるつもりだよ」


77倍くらいはありそうだな、主人公適性。

まあ、それなら、畑を領民に任せて冒険者として再出発するというのは、さほど問題にはならないだろう。

根っからの冒険者であるブランドルやカーティスの意志は確認するまでもないし、リエルやセレスは最近では俺を支える意志を事あるごとにアピールしてくるのでなおのこと意思確認は不要だ。

強いて説得が必要だとすると、若干仲間外れ気味な扱いになるエレナくらいか。


「そうか」


カイトの言葉を咀嚼しながら考え込んでいると、カイトは俺の肩を掴んで、ひそひそ声で忠告してきた。


「ラグナくん、相槌のバリエーションは増やしておこう。僕も昨日ミミーとエステルに怒られたんだけど、女の子ってそういうので聞き流されてるって思って嫌な気持になるらしいんだ。大切な奥さんからそんなことを思われるのは嫌だろう?」


そういう面倒があるから嫁さん増えるの嫌だったんだよなあ…まあ、覆水盆に返らずというやつだが。


「覚えておこう」


俺はカイトの忠告を聞き流した。




その夜、ムラオーサが集めた数人の領民に魔術を教えた後、エステルのところに行くと案の定、もう父上からの依頼書が届いていた。

なお、俺が入ってきた瞬間エステルはビクッと体を震わせ、すぐ隣にいたカイトとミミーも何か慌てた様子だったが、それについては見なかったことにする。


相棒の恋路が順調のようで何よりである。

文化的に一夫多妻がそんなに珍しくないせいか、カイトはものの見事に二股をかけているようだし、2人もその気らしい。

形式だけ婚姻しながら、エレナとリエルの二人とはいまだに距離感が遠い俺とは大違いだ。


こういうところでも主人公適性の差を思い知らされる。

俺もこの世界にもう少しなじめればいいのだろうが、難義なものだ。


「邪魔したな」


俺は依頼書を持ってすぐに部屋を出た。


「ラグナくん、依頼について話を詰めるつもりなんじゃないかい?」


カイトが俺を追って部屋を出て尋ねて来るが。


「そうだが、2人の恋人を放っておいていいのか」


それよりもカイトには恋人を大事にしてほしい。

なにしろ冒険者として生きる意思については確認済なのだ。

あとで作戦だけ共有できれば十分だと思ったのだが。


カイトは、一気に青ざめた。


「え、なんで知ってるの。僕が二人と…」


俺は両手両膝を床についた。


「あのいちゃつきっぷりで何故バレないと思った…」


カイトたちは最近食事の際に肩を寄せ合って三人で食べさせあいっことかしているので、俺とそういういちゃつき方ができないセレスやエレナ、リエルが血涙を流しているのだ。

特に、臥所を共にすることもないエレナやリエルは、カイトたちの姿にあてられてか、たまに抱きついたり俺の服の裾をつまんできたりするようになっているのだ。


それで交際を知られていないと思っているとしたら、ちょっと恋に脳を焼かれすぎている。


「え、そ、そんなに…?」


「無自覚かよ…末永く爆発しろ」


うちひしがれるカイトを置いて、俺はブランドルたちが待っている食堂に向かった。

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