第42話:追放系主人公は農兵
どうも皆さんこんにちは。
異世界転生者です
農業もできて戦士もやれる。戦士としても万能型の神官戦士で、女の子にもモテる。追放系主人公は万能型極めてます。
「ラグナくん、種まきは任せてもらってもいいかな。僕はもともと農民の出だから…うわっ!」
妖精さんの許可を得て森で採取した大量の種と苗木を担いで畑に戻った俺たちは、転移するなり、即座に種と苗木を地面に置いて戦闘態勢に入った。
転移した俺たちの目の前に広がる光景は、畑に群がるキマイラとかマンティコアとか呼ばれてそうな魔獣の群れと、それを追い払おうとするもスピードの差で追い付けないゴーレムたち。
「なんでなにも植えてない畑を荒らしに来るんだよこの魔獣どもは!」
こちらに気づいて突っ込んできた魔獣の顔面を真っ向から叩き斬りながらブランドルが疑問を叫ぶ。
そんなの俺だって知りたい。
あと、哺乳類を真正面から兜割り&大名おろしにする剣の切れ味はもうなんかおかしい。
「いいえ、あの魔獣たちは畑に興味はないみたいです!」
エレナが何か、畑を荒らす獣とは様子が違うことに気づいたらしいが、それがどういうことなのかがわからない。
「もしかしてこいつら、人肉の味を覚えたのかも!」
二刀流に切り替えて片手で1体ずつ首をはねて仕留めて回るカイトの答えは、可能性としてはありうるといえるものだった。
食うものがなければどんな偏食家も、そこにあるものを食う。
消化器官が受け付けるなら、本来草食でも肉を食うように食性が変わっても不思議ではない。
そして、そうやって食ってみたものが存外に美味ければ、以降それを好んで食うようになることもありうる話だ。
それはそれとして、こっちもこっちで強化系魔術もなしに片手で獣の首を飛ばせる切れ味はもうなんかおかしい。さすがは名工メイコの作というところか。
「それなら、絶対に村には通せないね!」
「守るべき民が後ろにいる、ならば絶対に敗北は許されない!」
リエルがカーティスの魔術支援を受けてククリを投げながら俺たちを鼓舞し、カーティスもまた烈帛の気迫をもってそれに応える。
彼らは、実際に軍を率いるとなれば、士気を上げる能力の高さによってより多くの戦果を上げられることだろう。
ブランドルやカイトをスタンドアローンで大将首を狙う遊撃型決戦兵器として動かし、数と数の戦いはリエル、カーティスを筆頭にした部隊で対応する。
…悪くない構想だ。覚えておこう。
そして、さっそく彼らによって士気を高められた者が1人。
「はい、絶対に!」
セレスが、何かの魔術を纏わせた斬撃で数体の獣を消し去った。
なんというか、オーバーキルにもほどがある。
「待ってセレス、貴重な肉だ、消し飛ばしたり焼き焦がしたりせずに倒そう」
俺はセレスに適度な手加減を求めたが、直後、ブランドルの鉄拳が俺の脳を激しく揺らした。
「肉の心配しとる場合か!」
「痛いぞブランドル」
「やかましわい!」
戦闘中にどつき漫才やっとる場合かという話ではあるが、逆に言えば、その程度の格下であるという事でもあり、魔獣の殲滅は襲撃者の数に比べれば、たいした時間をかけず達成された。
戦ううちに血の匂いを嗅いでさらに集まってくる悪循環で最終的に千ほどに達した魔獣の死体を収納魔術にしまい、夕陽に照らされた戦いの痕を眺める。
畑は多少踏み荒らされたが、種をまく前なのでまた耕せばよし。
畑を耕す労働力であるゴーレムの被害もない。
被害は襲撃の規模に比べれば無傷レベルに抑えられたと言っていい。
問題は、これから種をまいて、夜中に別の群れが襲撃してきたら本当に台無しにされるということの方だろう。
ゴーレムは強いが機動性には難がある。素早い獣を相手に、防衛戦をやるにはいささか不向きと言わざるをえない。
さすがに不眠不休で見張りをやるわけにも行かないし、あの規模の襲撃を前提とすると、1人2人を見張りに立たせても、それこそ魔獣におにくをあげるだけの結果になりかねない。
俺は仲間が魔獣の腹に収まることを容認できないし、妖精さんからせっかくもらった植物の種や苗が台無しにされることも許せない。
かくなるうえは、ゴーレムに対高機動兵器を搭載しなければ。
高機動の敵を撃ち落とすならCIWSなんかがお約束だが、獣が相手なら散弾の方が有効かもしれない。
「ショットガンとガトリングガン、どっちがいいと思う?」
横にいるセレスに尋ねると、セレスは首をかしげた。
「しょっとがん?がとりんぐがん?」
そういえば、この世界に銃砲火器の類いは存在しないのだったな。
うっかりしていた。
「ごめん、忘れて」
「よくわからないですけど、はい」
セレスは深く突っ込まず、聞かなかったことにしてくれた。
さて、ゴーレムに搭載する対高機動武装は何が現実的か…。
考え込む俺の視界の隅で、何かが動いた。
「まーた僕たちを頼らないつもりだな魔人さん、拗ねるぞ」
視線を下げると、畑からぴょこっと顔を出した土の妖精さんがこちらをジト目で見ている。
「えっと、ここに畑を作るのは妖精さんとしては問題ないんですか?」
人の都合での開墾とか結構嫌われるイメージだったんだが…。
俺の予想に反し、妖精さんは首をかしげて見せた。
「荒地を住みやすくしてくれる魔人さんは好きだぞ?森を荒らす奴は嫌いだけど、魔人さんは持って行っていいのはどれか聞いてくれたし」
森を切り開くのは怒りを買うとして、もとが荒地なら畑の方がましなのか。
あとどうやって森での俺の行動を把握したんだ妖精さん。
ともあれ、そういうことなら力を借りてもいいのかもしれない。
「では、明日の朝まで、近づく魔獣を射殺してもらえますか?」
妖精さんが手助けしてくれるなら、とても心強い。
「そんなんでよければ毎日ずっとやるぞ?ただし、魔力がなくならないようにちゃんと畑に水と肥料をやって毎日耕すんだぞ。荒地を畑に変えるのも忘れずにな」
妖精さんは俺の頼みを快諾し、その代わりのごく軽い条件を出してきた。
もともと薬草を栽培するため言われずともそうするつもりなので、お安いご用というレベルですらない。
「ありがとうございます。お約束します」
応えた俺が差し出した人差し指と握手して、妖精さんは地面に潜っていった。
畑を魔獣から守り、その後農民出身のカイトの指揮のもとで種まきや植林を終え、夜間の防衛を妖精さんに任せて転移で帰宅した俺たちを、シルヴィアが出迎えてくれた。
「お帰りなさい、ラグナ様、皆様」
そう言って屋敷に迎え入れてくれたシルヴィアは、頼んでいないのに先回りして、まるでそれが当然かのように食事の用意も風呂の用意もしてくれていた。
命じられなくても、率先してこちらの面倒を見てくれるシルヴィアには、子供の頃から頭が上がらない。
せっかく用意してくれた料理がさめないうちに食べようと、まずは夕食の席についた俺たちだったが、カイトは駆け込んできた薬学協会店員ミミーと冒険者協会受付嬢エステルに拉致され、その両側を確保された。当然、カイトはめちゃくちゃ戸惑っている。
な、なりふりかまってねえ…。
若干引いたが、両側から「あーん」攻撃を食らうカイトを無視して食事をすることは、思いのほか簡単だった。
シルヴィアの作ってくれたポトフはとても美味しかったし、領主という立場からお誕生日席みたいな上座に席を固定される俺には隣の席というものがない。
つまりカイトのような目に遭う可能性がないのだ。
…やはり食事は、落ち着いてするに限る。
1日の活動でほどよく疲れた体に沁みるポトフをしみじみと味わいながら、俺はそんなことを思った。
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