第40話:追放系主人公を想う者

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


俺が乙女の恋路を応援することになるバグが発生しております。



荒地で俺の頼みに応えてエレナが召喚したぺブルゴーレムを数え上げると、全部で13体。

10体くらい、というエレナの申告からすると、多少上振れたと言えるか。

まあ、労働力が増える分にはありがたい。


「彼らに、小石がなくなった場所を耕しておいてもらうことは可能か?」


ひとまず、当初の目的である、この場所を畑として開墾する作業を進めることを優先しよう。


「できますけど、肥料と水と、あと植物の種にあてはあるんですか?」


エレナの答えは、可能だが他の準備ができるかという問い。

ゴーレムを呼び出した者として、無意味なことをやらせるわけにはいかないようだ。

きっと、俺が妖精さんに無駄なことを頼めないのと同じだろう。

召喚師というのは、えてしてそういうものだ。


「肥料と水は俺が魔術でなんとかできるが、植物の種だけは村に戻って、森から採取する許可を妖精さんにもらうしかないな…」


そして、俺は必要なもののうち一つが確実には入手できないことを認めなければならない。

つまり、エレナがNOと言った場合、俺は無理強いできないわけだが。


「それなら、肥料と水を用意して、耕して待っててもらいましょう」


幸い、エレナはゴーレムたちにこの場を耕させること自体には同意してくれた。


「そうか。ありがとう」


俺は魔術で水と肥料を大量に作り出し、ぺブルゴーレムが這い出てきた、今は小石がないであろう場所にまき散らす。過剰になってもそれはそれで問題だが、これほどやせた土地なら手当たり次第にまき散らしても過剰という事にはならないだろう。


「というわけで、皆さん、小石がない範囲を耕しておいてください。」


「「「「「エレナちゃんのたーめなーらえーんやこーら!」」」」」


ぺブルゴーレムたちは一糸乱れぬ敬礼を見せた後、畑に手を突っ込んで手で耕し始めた。

ゴーレムの大きさと頑丈さから繰り出される貫手は人間ごときが鍬で耕すよりも遥かに効果的に土をほぐし、空気を含ませ、肥料と水を土壌になじませていく。


その仕事ぶりには感服するほかないが、彼らの言葉が気になってしまう。


「…あれは、ゴーレム語で命令に応じる際の定型句なんだろうか…」


そのつぶやきを聞きとがめたエレナは、俺の袖を引いて首を傾げた。


「ゴーレムさん、話せるんですか?私には話しかけてくれたことがなくて…」


そうか、ゴーレムの言葉が分かるのは神様チートであらゆる言語が分かる俺だけだ。


「ああ、ちょっと独特な定型文なので、必ずしも気持ちが汲める言葉ではなかったが」


「そうですか…」


俺が目をそらしたことで、聞かないほうがいいと判断してくれたのか、エレナはそれ以上食い下がって聞いてくることはなかった。



転移で村に戻った俺たちは、ひとまずそのまま屋敷に戻ることにした。

カイトたちがいれば情報を共有できるし、そうでなくとも書置きくらいは置いていける。

と、思っていたのだが。


「ラグナ様、お帰りなさいませ」


なぜかシルヴィアがいた。

父上の屋敷から派遣されてきたのだろうか。


「やあ、シルヴィア。一応確認だけど、父上の差し金?」


俺が尋ねると、シルヴィアはにっこりと笑って答えた。


「はい!ヴェート様より、本日からラグナ様にお仕えするようにと」


予想通りか。

まあ、屋敷のメイドで俺と一番気が合うのはシルヴィアだし、大変ありがたいのだが、ちょっと父上は息子に対して過保護なのではないかとも思ってしまう。

いやまあ、魔人として生まれ、母上や姉上とは結局和解できないまま成人してしまったような息子を心配するなという方が無理なのかもしれないが。


いや、そうではないか。


15年、母上に疎まれ続けていた俺の母親役をやっていた彼女が、俺を息子のようなものだと思っていても不思議ではない。

そして、そんなシルヴィアは、きっと父上が母上や姉上と暮らしていくあの屋敷ではもう、邪魔なのだろう。


シルヴィアの境遇に少し物寂しい同情を覚えた俺は、この地で俺の母親代わりを続けることになるシルヴィアの毎日が、少しでも充実したものになればいいなと思った。


「…フィンブルの屋敷に比べれば掃除のし甲斐もない小さい家だけど、管理は一任するよ。…母さん」


最後に冗談めかして付け加えると、シルヴィアは笑いながら涙をこぼし、そのまま泣き崩れてしまった。


「…ラグナ様…私を母と…!」


どうやら、悲しませてしまったらしい。

最近、女性には泣かれてばかりだ。


「何が、いけなかったのだろう…」


答えを求めて妻に目を向ける俺だが。


「ぷいっ」


セレスはかわいらしく拗ねている。


「あはは…」


エレナは気まずそうに頬をかいている。


「これでわざとじゃないのが面白いよね」


リエルが笑っている。


「ラグナ様、そういう嬉しい言葉は、使用人ではなく奥様に向けるべきです」


泣き笑いの表情のままシルヴィアがしてくる説教に、俺は一つの勘違いを悟る。

シルヴィアが泣き崩れたのは、どうやら嬉し泣きだ。


なら、いいか。


「気を付けるよ」


何故か3人の妻全員からわき腹をつねられた。


「はあ、前途多難ですね。…ところで、さっそく屋敷のことでご相談が」


わき腹をつねられた意図を確認する前に、シルヴィアが相談を持ち掛けてくる。


「どんな相談?」


俺の問いににやりと笑い、シルヴィアは人差し指を立てた。


「二部屋使わせていただいて、薬学協会の出張所と、冒険者協会の出張所を屋敷内に置きたいのです」


シルヴィアの意図を間違いなく理解し、俺もまたにやりと笑って見せる。

どうやら、俺が手紙を出すまでもなく、薬学協会と冒険者協会は職員の恋を応援しているアットホームな組織であったらしい。


「店員の人柄によるな。一応面接しておきたい」


「かしこまりました!」


この展開を読んでいたのか、シルヴィアは早速俺を屋敷内の一室に案内した。


そこにいたのは、予想にたがわず薬学協会店員ミミーと、いまだカイトに個体識別してもらえていない冒険者協会の受付嬢。

椅子に座って待っていた二人は、シルヴィアに連れられて入室した俺を見るなり素早く立ち上がった。


「おかけください」


俺は二人に座るよう促した。

少しためらう様子を見せた後、おずおずと椅子に座った2人に、俺は質問する。


「まずは所属と、お名前から伺いましょう」


「薬学協会のミミーです」


「冒険者協会のエステルです」


受付嬢の名前はエステルというのか。まあ、それはいい。

俺は質問を続ける。


「事情について察しはついているつもりですが、お二人はカイトを追いかけてここに?」


その質問に、2人ははっと顔を見合わせ、そして、気まずそうにうなずいた。

まあ、本人に気づいてもらえていない恋心を第三者、しかも俺のようなデリカシーのかけらもない男に知られているというのは、いい気分はしないだろう。


「それについて咎めるつもりはありません。どんな動機であれ、薬学協会、冒険者協会との手続きが自宅で完結することのメリットは大きい。ただ…」


そこで一度言葉を選ぶために沈黙した俺を、2人は固唾をのんで見つめた。

何を言われるか、さぞ不安だろう。

不安にさせてしまうことは、確かに申し訳ない。

だが、こればかりは俺も慎重に言葉を選ばなければならない。


「カイトは俺以上に鈍感です。生半可なことでは振り向いてもらえないでしょう」


結局、俺は何のひねりもなく、ただ思っていることを告げた。

これなら、言葉を選ばないほうがましだろう。


「あ、ラグナ以上というのはとてもとても鈍感という意味です」


いらん補足をしてくるセレス。


「複数の妻を持つ気がない感じで私を振っといて、うっかりエレナにお揃いの服渡しちゃうのがラグナだからね」


苦笑するリエル。


「そうですよ。私なんて、それなりに露骨に下心を見せてたのにカイトのことが好きだと誤解されてましたからね」


エレナの追撃にはもう、なんというか申し訳ないという気持ちしかわいてこない。


そして、薬学協会店員ミミーと冒険者協会受付嬢エステルはその話を聞き、顔を見合わせて絶望したかのように打ちひしがれた。


「まあ、協力は惜しまないとは言っておきましょう。仕事をきっちりやってくれる限り、俺はあなた方の味方です。カイトの味方でもありますが」


俺はそう言って、2人の面接を終えた。

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