第37話:妖精の住処
どうも皆さんこんにちは。
異世界転生者です。
未開の地は、俺にとってはかなり住みやすそうです。
屋敷に戻り、ロークを領地として与えられたことを伝えると、カイトたちはとても喜んでくれた。
セレスなどは領地より爵位の高さに驚き、飛びかかるような勢いで抱きついて来る始末。
領地については、俺について来てくれるという彼らに、またさんざん苦労をかけそうな地だということに少しだけ気が引けていたのだが、どうやら一流の冒険者は、その程度の逆境ならむしろ燃えるようだ。
冒険者としてはいまだに駆け出しも良いところの俺としては、そういうところは是非彼らから学びとりたい。
中でも、ブランドルの喜びようはまるで遠足前の子供のようで。
「あそこはまだまだ未開だからか、強い魔獣も多いんだよな。その分うまい肉が食い放題だぜ。今からよだれが止まらねえ」
「それ聞くの3回目だよブランドル」
「いいじゃねえか、何回だって話したいんたよ」
父上が用意してくれた祝いの酒をがぶ飲みしながら、ホントに遠足前の子供のようなテンションでカイトに絡んでいる。
転移魔術があるとはいえ、使える魔術師が希少で、その魔術師が国防のために貴族に囲い込まれ、同じく国防上の理由で規制もかなり厳しいことから、転移によって流通が凄まじく便利になったりはしていない。
規制が厳しくない収納魔術で量を運べて新鮮さも保てるが、移動に関しては歩くか馬車を使うしかない商人の行き来とその護衛にかかるコストなどの問題で、土地土地の名産品はよそではどうしても高値になってしまうのだ。
そして、どうやらロークのうまい肉はブランドルのお気に入りらしい。
「肉だけではないぞ、ローク周辺では良質な種々の薬草が取れる。薬品の研究には最高の環境だ。現地の住人が受け入れてくれるなら、薬師をしている妻と子供を呼びたいくらいだ」
魔法青年打撃くんであるカーティスが珍しく魔術師らしいことを言いながらブランドルに絡んでいったなーとか思ってたらさらりと妻子もちカミングアウトされて俺のめんたまが飛び出た。
まあ、あのイケメンで恋人いない方が変か。
それに、若人の成長がどうとか、ときどき年長者ムーブもしてたし、恋人と結ばれて子宝に恵まれた経験があるといわれればまあ納得できる部分もある。
ともあれ、ブランドルやカーティスのはしゃぎようを見るに、ロークは随分自然豊かな土地のようだ。
未開としか聞いていなかったが、確かに未開とは言い換えれば手付かずの自然が残っているということでもあるか。
少し、俺も楽しみになってきた。
「ねーねー、カイトはどうするの?」
リエルがカイトの袖を引く。
どういう意味だろうか。
「どういう意味だい?」
カイトも分からないらしい。
問い返されたリエルは、頬に指を当てて少し考え込んだ。
「カイトはフィンブルに残りたい理由が色々ありそうだなーって」
そういうことか。
薬学協会店員ミミー、個体識別してもらえていない冒険者協会の受付嬢、そして、姉である名工メイコ。
何かと、カイトに縁ある人物がフィンブルにはいる。
リエルが考え込んだのは、何処までを伝え、何を伝えないかの選別といったところだろう。
主にカイトに恋している二人の少女的な意味で。
「姉さんのことか。無事でいてくれて、今では手に職もある。たまに手紙でもやり取りできれば十分さ」
そしてカイトは相変わらずの唐変木にしてシスコンだった。
俺は頭を抱え、深いため息をついた。
こいつ、どうしてくれようか。
「あの、ラグナくん、少しいいですか?」
その様子を見て、エレナが俺に目を向けた。
「どうした?」
もう、エレナに敬語を使うこともない。
年上のお姉さん相手に無礼という以上に、正室であるセレスより重んじていると誤解されるようなことは厳に慎まなければならないのだ。
「いろんな薬草があるなら、薬学協会の人を誰か引き抜いて雇うのって、どうですか?それに、美味しいお肉も手に入るなら、腕のいい料理人も必要だと思うんです」
エレナの提案は、とても素晴らしいものだった。
相棒の恋路は応援してやらねばなるまい。
「あてはあるな。冒険者協会と薬学協会に手紙を出しておこう」
無論、冒険者協会と薬学協会には、相応の対価を提示しなければならないが、まあそこはなんとか交渉するしかない。
「ありがとうございます」
やはり同じ女として薬学協会の店員ミミーや冒険者協会の受付嬢の恋が報われることを望んでいるのか、エレナは少し安心したように微笑んだ。
そして、セレスが俺の手を握ってくる。
「楽しみですね、ラグナ」
未開などと言われる辺境の地に飛ばされるというのに、セレスは本当に楽しそうだ。
流石、冒険者に憧れて厩舎に忍び込んだ王女様だ、面構えが違う。
「セレスが楽しそうで嬉しいよ」
深入りするとまずい気がしたので流そうと試みた俺だが。
「だって、ここ数日は嫁入りと同時に戦場を走り回ってましたから、ラグナの妻としての新生活がようやく始まるんだなって」
真っ直ぐな目から繰り出されるド直球の好意でぶん殴られた。
「やばい。嬉しくて鼻血でそう」
「は、鼻血って…ラグナのえっち」
顔を赤くするセレスに抱きつきたい衝動を抑えるのに、俺はかなりの精神力を必要とした。
翌朝、父上お抱えの転移魔術師の手によってロークに転移した俺達は、村人より先に、無数の妖精さんに出迎えられた。
「魔人さんだー!」「噂の魔人さんだー!」「はじめましてー」「サインくださいー!」「お噂はかねがねー」
なんか変なテンションの奴が混じっている気もするが、まあなんか好意的なのでとりあえずよし。
「どうもはじめまして。ラグナ・アウリオンです」
ちょっと引いてしまったためか、某忍者殺しのような応答になってしまう。
少ししくじったかと思ったが、妖精さんは嬉しそうにこちらの服の中に潜り込んできたので多分喜んでくれているのだろう
あと、どうやら妖精さんの噂は転移魔術より早いようだが、どういう方法で情報を伝えているのか本気で気になる。
…おっと、しまった。
妖精さんの殺到に気を取られたせいで、出迎えに来てくれていた村人の皆さんを無視する形になってしまっている。
「すみません、せっかく出迎えていただいたのに、大変失礼なことを」
咄嗟に頭を下げる俺だが。
「…なんと…」
「?」
「こんなに妖精に好かれておる領主様は初めてじゃ!」「今度の領主様は違うかもしれないぞ!」「やたーっ!」
なんか村人はものすごくテンションが上がっていた。
よく見ると、村人たちの耳は馬のそれのように見える。
鹿のような角がある者もいる。
獣人の中でも、大型の草食動物の傾向を持つ種族の村であったらしい。
獣人にも色々いる。
猫耳のリエルのような肉食動物タイプや、兎耳の薬学協会店員ミミーのような小型草食動物タイプなどはよく見かけるが、彼らのタイプは初めて見た。
見たところ、妖精さんに好かれることが彼らの好感度を稼いだようだが、自然との調和なんかを大切にする文化なのだろうか。
「…ハッ!申し訳ありません!領主様の前でこのような…」
しばらく眺めていると、俺の視線に気づいた鹿角の老人が頭を下げてきた。
「いえ、構いません」
もともと先に失礼を働いたのは俺だ。咎める気などない。
「私はこの村の村長をしております、ムラオーサと申します。村のことは、私めに何でもお尋ねください」
「これはご丁寧に。この度陛下からローク領を賜り領主となりましたラグナ・アウリオンです」
村長ムラオーサの挨拶に、こちらも名乗りを返す。
「では早速、領主様のお屋敷へご案内いたします」
歩き出したムラオーサに続き、俺は自然豊かな村の景色を楽しみながら歩きだした。
友好的な妖精さんが多いこの村は、俺にとってはかなり住みやすい環境になりそうだ。
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