第34話:追放パーティ以外がポンコツ過ぎる
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
追放パーティの有能さを思い知りました。
いくつかの政治的な事情によってモロヴァレイ戦線に参加することになった俺たちだが、一つ問題が生じた。
『冒険者は戦争、内紛には不干渉』というルールの存在だ。
俺たちのみで赴いたヴァレテルンは、俺の個人的な蛮族狩りにブランドルたちを雇ったという言い訳でごり押ししているが、既に軍勢が派遣されているモロヴァレイの場合はそうもいかない。
軍事行動が行われている地域への立ち入りが許可されている時点で、そんなもんは個人的な蛮族狩りではないのだ。
さて、どういう言い訳で通したものか。
朝食を取る傍ら、頭ではそんなことをずっと考えていると、さすがに表情も硬くなっていたのだろう。
メイドのシルヴィアが心配そうに覗き込んできた。
「ラグナ様、もしかしてお口に合いませんでしたか?」
ものを食いながら暗い顔をしていれば、そういう誤解も受けるか。
「まさか。美味しいよ。ちょっと悩みがあるだけさ」
俺は正直に現状を答えた。
「悩み?」
「ああ」
シルヴィアは心配そうなままにしているが、今は父上もいないので相談のしようもない。
今日は、別邸で母上や姉上と過ごす日なので、邪魔もしたくない。
母上も姉上も、俺からすると顔を合わせたくない相手だが、父上にとっては大事な妻と娘であることにかわりないのだ。
「僕たちのことかい?」
悩みと言うだけである程度察したのか、カイトが尋ねてくる。
「ああ。今回ばかりは掟破りの言い逃れができない」
俺の答えに鼻をならしたのはブランドル。
「そんなことか。くだらねえこと気にしやがる」
くだらない。ブランドルはそう言い切った。
自分の生活のことだというのに。
「職を失うんだぞ」
その重要性を訴える俺だが。
「んなこと気にしてる場合かよ」
ブランドルの言うことは正論だ。
数人の生活を犠牲にして国を救えるのなら、迷わずそうすべきだ。
それでも、国とはその数人が無数に集まったものだ、という事実が忘れられない。
「全くだ。…ラグナ殿、職、仕事とは国家という集団内での分業について、個々人に割り当てられる役割のことだ。国難の中で自分の職ばかりを気にする自分本意な者だと思われていたのなら、心外だな」
カーティスの言葉を信じるなら、これは当人も納得ずくの自己犠牲。
それすらも容認しがたいと考える転生者的感覚は、良く言えば優しさなのだろう。
だが、それは為政者の心に宿るとき、惰弱さと呼ばれる悪徳となる。
もはや、一介の冒険者としてひっそりと生きることを許されない俺にとって、これは必ず克服しなければならない欠点だ。
分かっては、いるのだが。
「僕たちが冒険者を続けられなくなることを気にしてくれてるんだよね。だったら、君の領土で雇って貰うってのはどう?」
煩悶する俺に、カイトが提案してくるが。
「俺は領土持ってないぞ」
俺は成人を迎えて数日、まだ封土も爵位も与えられていない、親が貴族というだけの放蕩者にすぎないのだ。
「確実に与えられると思いますけど」
セレスが首をかしげて俺を見る。
まあ、言われてみればそのくらいの功績はあげてるか…。
「…分かった。これほどあてになる仲間を手放す理由もない。領土を貰ったら要職につけてこき使ってやるから覚悟しろ」
「おう、魔物狩りと蛮族退治が多い仕事で頼むぜ」
開き直った俺に、ブランドルはニカッと笑って見せた。
全く、何と頼もしい連中であることか。
転移によってモロヴァレイ戦線に移動すると、陣地には夜通し戦っていたらしい、疲弊した兵士たちが座り込んで休んでいた。
転移魔術も万能ではない。一度に転移させられる対象数や重さに限界があるのだ。
大軍勢を転移させる、というのはそれなりに難しい。
何度も使えばいいと言えばそうだが、大軍勢を毎日安全な場所と戦場の間で反復横跳びさせられるような回数使ったら転移魔術師がダース単位で干からびることになる。
そうなると、大規模な侵攻においては、陣地を張って夜襲を警戒し、補給線を維持しつつ兵站が維持できているうちになんとか決着をつけるように攻める、というセオリーが生まれてくる。
そして、目の前に広がる光景は、蛮族が夜襲を含むゲリラ戦を仕掛けて攻め側のセオリーを徹底的に邪魔していることを、即座に理解させるに足るものだった。
つまり、敵の蛮族はこちらの戦のセオリーを知り、それをメタることができる程度の知恵があるわけだ。
しかるに、俺が取るべき行動は。
「まずは、イレギュラーに対応できるかの確認からか」
敵の知性を試すのが先決だろう。
「どのような策を立てる?」
訪ねてくるカーティスに、俺はニヤリと笑って見せた。
「ち・か・ら・お・し♡」
「………」
カーティスは頭を抱えた。
「まあ、いいんじゃねえの?ヴァレテルンの時も読み合いはほぼ壊滅だったろ」
ブランドルのフォローは、若干不服だが事実であり、俺が力押しを選んだ理由そのものであった。
どうせ読み合いで負けるなら、読み合いを完全に拒否した力押しで勝負するのだ。
「じゃあ、一直線にモロヴァレイ領都を目指して吶喊ってことでいいかい?」
確認してくるカイトに、俺はうなずき返した。
「いかにも。幸い、この陣地からなら今日中にたどり着くだけはできそうだ」
領都の城壁との距離、途中に見える蛮族の陣地らしいものを数えながら、俺は陣地から踏み出した。
蛮族の陣地を焼き払いながらまっすぐ進むと、狼煙か何かで連絡を取ったのか、領都の門を開け放って蛮族の群れが打って出てくる。
こういう場合、逆に引きこもって防戦に徹する方が有利なのではなかったか。
敵はセオリーを把握してその裏をかく程度の知恵はある。
つまり、これは愚行ではなく、敵がセオリーを無視すべき状況と判断したと考えるべきだが。
そうなると、敵に何か秘策があることを警戒しなければ…。
「城門が開いた!好機だ!このムダジーニ・スグシニマスに続けぇ!」
思考に沈み、足を止めた俺の後ろから味方の騎馬隊がものすごい勢いで突っ込んできた。
やむなく、その道を開けるために退避する。
その後、突撃していった騎馬隊は敵部隊に激突する直前、地雷によく似た魔術トラップに引っかかってまとめて吹っ飛ばされた。
「スグシニマス男爵ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
敵が打って出てきたのは、城門を開けてこちらに好機と思わせ、トラップにかけるのが狙いだったか。
ムダジーニ・スグシニマス男爵がいなければ、死んでいたのは俺たちだった…。
その武勲によって平民から一代貴族の騎士を越え男爵にまで登り詰めた、勇敢なる戦士ムダジーニ・スグシニマス男爵の死は、この国の未来に暗い影を落とすだろう。
だが、ムダジーニ・スグシニマス男爵の犠牲で、そのトラップは除かれた。
「ムダジーニの死を無駄にするな!我に続けぇぇぇぇぇぇ!」
俺が動くより早く後方から突撃してくる、スグシーヌ・イヌジニヨン男爵の騎馬隊。
彼女はムダジーニ・スグシニマス男爵と恋仲であり、なにかと父権的なこの世界で、女性でありながらムダジーニ・スグシニマス男爵とともに、平民から男爵を叙されるほどの功績を上げてきた彼の相棒でもある。
その相棒を奪われた彼女の報仇の念はいかばかりか、察するに余りある。
そして、彼女の騎馬隊はスグシニマス男爵と正確に同じ位置で、地雷によく似た魔術トラップに吹っ飛ばされた。
「イヌジニヨン男爵ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
勇猛果敢な騎士をごく短時間に二人も失ってしまった国家の損失の代価にしてはあまりに安いが、俺はまた一つの情報を得ることができた。
あのトラップは、すぐ再設置可能または何度でも発動できる性質のもの。
つまり、単純な突撃では突破できない。
「カーティス、術式構造を解析できるか」
迫りくる敵の先鋒を待ち構えながら、俺はイケメンエルフ魔術師をちらと見やる。
「やっている。3分持たせろ」
さすがは熟練の冒険者というべきか。言われるまでもないとばかりに返すカーティスの何と頼もしいことか。
「諒解!耐えるぞみんな!」
俺たちは、カーティスを守るように前に出た。
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