第31話:決着と不安
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
ヴァレテルンを制圧しても、問題は山積みです。
俺が頼ってこないことに激怒していた妖精さんたちを味方につけ、カイトたちのいる位置まで退いた俺は、即座に妖精さんにカイトとエレナを示した。
「あの二人が浄化魔術の準備をしています!手伝ってあげてください!」
「うおおー!」「浄化だー!」「蛮族を消し去れー!」
視界を埋め尽くす妖精さんが一斉にカイトとエレナが用意した魔法陣に飛び込み、その輝きを増していく。
「ら、ラグナくん、この妖精は!?」
蛮族の蔓延る地に、これほどの妖精さんがいるはずもないと思っていたであろうカイトの困惑はよくわかる。
俺だってさっき大挙して押しかけられたとき大いに困惑した。
「俺のために集まってくれた妖精さんたちだ!この力で一気に決めちまえカイト!」
だが、のんびり困惑している暇は、今はない。
それはカイトもわかっているのか、すぐに浄化魔術の発動準備に戻る。
「分かった!エレナ、術式の書き換えは任せた!僕は妖精の力を誘導する!」
「はい!」
ここにきて、勝負の天秤は俺たちの側に大きく傾いた。
このまま妖精さんたちの力を借りて、極大規模の浄化魔術を発動できれば、ラミアクイーンと言えどひとたまりもあるまい。
当然、この数の妖精さんを認識している敵側も、それは承知しているはずだ。
「カーティス、弾幕の支援は引き続き任せた!」
「承知した!リエル、筋力強化の魔術を使うぞ、投擲の感覚が変わることに注意しろ!」
「おっけー!」
リエルが投げる8本のククリは、さらに軽やかに蛮族の群れをなぎ倒していく。
敵が手を変えなければ、このまま押し切れるだろう。
つまりここで重要なのは、敵がどう手を変えるか、だ。
果たして、敵の手は。
「させると思うかぁっ!」
先程まで、手下を使って指揮者気取りに俺とセレスを嬲っていたラミアクイーンが、なりふり構わず突っ込んでくる。
随分と余裕のない手だ。
敵の余裕がないということは、こちらの手が適切に敵を追い込んでいるということだ。
つまり、王手。
「踏ん張りどころだ!行くぞブランドル!」
魔神化のフィジカルでごり押しがきく俺と、純粋な戦士としてはパーティ内最強のブランドルの二人で、コイツを止めれば、勝ちだ。
「あの、さっきからなんで男性陣に声かけて妻は無視なんですか!まだ側室に自覚がないだけならまだしも正室の私まで!?」
直後、嫉妬に燃えるセレスの剣がラミアクイーンの左腕を斬り飛ばす。
以前、ブランドルが雄叫びをあげながら全力の一撃をぶち込んで腕を斬ることができなかったドレイクロードと同格の敵の腕を、こんなにもたやすく。
こええ。
セレスは絶対に怒らせないようにしよう。
数分の膠着のうちに、しかし戦いの趨勢は完全に決する。
もとより、こちらの勝利条件は時間を稼ぐことだ。
「よし、術式は完成、このまま発動頼む、エレナ!」
「…”ギガ・ヴァニッシュ”!」
エレナが発動させた浄化魔術の光は、その範囲内のあらゆる穢れを浄化し、抹消する。
その結果、穢れによってこそ生きる蛮族は、塵となって消滅するのだ。
いささか大掛かりな儀式魔術であり、蛮族側からも最大限に警戒される一手であるため、乱戦になった場合に決められることは少なく、小規模な戦闘なら殴り倒した方がいいことも多いが、このようにごく限定的な状況で、少数の兵力をもって多数の蛮族を倒すなら、ほぼ唯一手といえる魔術である。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
怨念に満ちた断末魔をあげるラミアクイーンもまた、例外ではない。
どんな強い人間でも窒息すれば死ぬのと同じことだ。
生命活動に必要な穢れを失えば、蛮族は死ぬ。
やがて、蛮族の気配とともにまばゆい光が消え、敵意ある空間独特の張り詰めた空気が抜けたところで、カイトはふと、盾と腰の剣を見下ろして言った。
「せっかく姉さんに作ってもらった剣と盾を使う機会がなかったのが、ちょっと残念かな」
「これからいくらでもあるさ。それよりも」
俺は自分が蹴り砕いた転移封じの塔を見上げた。
「壊す必要、なかったな」
「それは結果論というものだ」
カーティスのツッコミはもっともである。
ここに降りたときには、一撃で都市丸ごと浄化できるような規模の浄化魔術が使えるレベルで妖精さんの助力が得られるなどということは全く期待していなかったのだ。
「じゃあ、帰って父上に報告だな。生き残りの保護含めて、後始末は父上に押し付けようぜ」
反対意見が出るはずもなく、俺たちは転移魔術でフィンブルに戻った。
戻った俺たちの報告を聞いた父上は頭を抱えた。
「お前さぁ…本ッ当にさぁ…!なんで考えさせたら不合格なのに力押しをやらせたら完璧以上の成果出して来るの…!猪武者にもほどがあるだろ!」
全く、自分でもそう思う。
最も成果が出る方法が力押しというのはもう、なんというか、猪武者にもほどがある。
だが、それは父上の教育方針によるところもあるのではないだろうか。
「いやまあお前がほぼ冒険者になるしかない魔人だから、冒険者として身を立てるための武術やら魔術の修行ばかりやらせてた私の教育方針のせいでもあるんだけど、そのジトッとした目で見るのやめてくれない?」
どうやら、つい父上を生ぬるい目で見てしまっていたようだ。
「失礼しました」
俺は一度目を伏せ、表情を作り直した。
その間に父上も咳ばらいをし、威厳ある表情を作り直す。
「まあ、とにかく、ヴァレテルン制圧成功について、陛下に報告の手紙を出しておく。当座の支援は当家からいくらかの兵を派遣しよう。それについては陛下の許可も得ている」
制圧後の段取りはあらかじめ陛下と打ち合わせ済みだったのか、父上は制圧後の仕事を引き取ると宣言してくれた。
その上で深呼吸し、父上は俺たちに視線を巡らせた。
「おそらくお前たちは、陛下から直接褒美を賜ることになるだろう」
それは何とも栄誉なことだ。
だが。
何故、父上はものすごく暗い顔をしているのだろうか。
「同時に、ラグナ、お前が魔人であることが公になる」
俺は一瞬で父上の意図を理解した。
何故7人という寡兵で、陛下の号令の下に集った大軍勢より早くヴァレテルンを制圧したのか。事実を語っても、おそらく信じる者は少ないだろう。
頭の固い貴族連中に納得させるのに手っ取り早いのは、魔人の、人を超えた力によるものだという説明をすること。
そうでなくとも、ドレイクロード戦で、俺は多くの者に魔人であることを知られている。
それが公の事実として確定すれば、俺はどうなるか。
それを分かっていたから、家系図から俺を消すために冒険者になろうとしたのに、状況がそれを俺に許さなかったというのは、あるのだが。
「覚悟はしておきます」
「うむ。それと、側室の件について、陛下から『気絶するまで折檻してやるから覚悟しやがれ』という手紙を預かっている。そっちも覚悟しておくように」
「アッハイ」
やっぱり、結婚して数日で側室が二人も出来ている節操なし具合に関しては陛下もお怒りらしい。
その折檻に関しては甘んじて受けるほかないのだが。
「陛下にお時間を頂けるまでの間、屋敷内で休め。下がってよいぞ」
ひとまずは、陛下にお目通りがかなうタイミングを待つほかないようだ。
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