第27話:追放系主人公の再会

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


忘れてた幼馴染との再会から始まる恋って、憧れることありますよね。




あまりにもクソボケすぎるカイトを俺がはっ倒したところで、鍛冶師との打ち合わせに行っていたはずのブランドルが見慣れない女性を伴って戻ってきた。


その女性は鍛冶師には見えないが、鍛冶師との打ち合わせのあとナンパでもしてきたのだろうか。

それとも、見かけによらず、彼女が凄腕の鍛冶師なのだろうか。


「ブランドル、お帰り。そちらの方は」


「例の鍛冶師だ。仕事の話の前にちょっと野暮用ができたんで連れてきた」


「そうか」


鍛冶師だったようだ。

だが、仕事のためでない用件のために連れてきたというのが気にかかる。


黙って見ていることにした俺を尻目に、ブランドルは俺がはっ倒したまま寝転がっているカイトの傍らまで進み、鍛冶師の女に手招きした。


「コイツがカイトだ」


鍛冶師の女はカイトの知り合いなのだろうか。


鍛冶師の女はゆっくりとカイトに歩み寄り、寝転がったままのカイトの傍にかがみこんだ。

そして、カイトの顔をじっと見つめる。


もしかしてカイトに一目ぼれしてブランドルにわたりをつけてもらったとかそういう話だろうか。

もげろ。(純度100%の嫉妬)


「…左目のなきぼくろ…目鼻立ち…やはり、そうだったのか」


「当たりか?」


「ああ」


何のことか分からないやり取りの後、鍛冶師の女はカイトを抱きしめた。

やはり一目惚れ案件か。

もげろ。(純度100%の嫉妬)


「え、あ、あの……」


「無事で何よりだ、カイト…」


その名前を知り、無事を喜んでいるということは一目惚れではなく旧知の仲か。

幼馴染とかだろうか。

もげろ。(純度100%の嫉妬)


「えっと、どちらさま、ですか?」


カイトは鍛冶師の女が誰であるか分からないらしい。

忘れている幼馴染か。

王道極まるヒロインが増えたものだ。

もげろ。(純度100%の嫉妬)


「まあ、何年も前のことだしな。…メイコだよ。久しぶりだな、カイト」


だが、鍛冶師、メイコというらしい女はめげない。

なんとけなげなヒロインであることか。

もげろ。(純度100%の嫉妬)


「嘘だ…姉さんがここにいるはずが…」


涙ぐむカイトを見て、俺は自らの過ちを悟った。


本人かどうかわからなくなるくらいの期間離れ離れだった、しかも好色家の腐敗貴族に誘拐されて生死不明だった姉とかいう絶望的な状況をギャルゲ的幼馴染シチュエーションと勘違いして嫉妬するとかさすがにクソ野郎が過ぎる。


俺は自分の頭を石畳に何度も叩きつけた。


「どうしたラグナ、さすがに折檻が効いたか」


「いいえ、自己嫌悪です」


心配してくれる父上には申し訳ないが、心配には及ばないというかこんなんで心配かけてたらなおのこと死にたくなる。


俺の自責の念はさておき、カイトとその姉の感動の再会はまだ続いている。


「さらわれた後売り飛ばされた娼館の客に腕利きの鍛冶師がいてな。鍛冶の才能を見込まれて身請けされたのさ。で、弟子入りしたら本当に才能があったらしくて、めきめき上達したもんで、最近暖簾分けしてもらってフィンブルに店を構えたのさ」


カイトの姉だという鍛冶師、メイコがカイトに語った事情は、カイトから聞いたことがある話とも矛盾しない。

カイトも、姉がここにいる事情を納得したことだろう。

彼女の師匠だという鍛冶師には感謝しなければ。


これで、カイトの姉を探すために、という個人的な事情は消えたわけだが、ヴァレテルン侵攻の本来の目的である、蛮族からの奪還という目的は消えない。

個人的な事情がなくなり、大義だけが残る戦い。

貴族の本懐というべきところだが、やはり、目的の一つがなくなるというのは、少し寂しいものだ。


ふと、誰かに手を握られた。

目を向ければ、俺の手を握っているのはセレス。


俺は失笑した。


そうだ。個人的な事情ならいくらでも抱えている。

隣のヴァレテルンを蛮族に占領されたままでは、天文学的な幸運によって俺の嫁さんになってくれたセレスを失うことになりかねないのだ。

それだけで十分すぎるではないか。


相棒の身内とはいえ、自分の妻のことさえ忘れるほどとは、視野狭窄は俺の重大な欠点だな。



カイトとの長い抱擁を終えた鍛冶師メイコは、立ち上がり、一度収納魔術に手を突っ込んだところで動きを止めた。


「領主様、ここでブランドルにいくつか剣を振らせても?」


どうやら、収納魔術からは剣を出そうとしていたらしい。

平民が戦場でもない貴族の目の前で無許可で抜刀すると最悪それだけで死罪なので、すんでのところで気づいたと言ったところだろうか。


「構わない。続けたまえ」


父上の許可を得て、改めてメイコはいくつかの剣を取り出した。


「ではブランドル、この5本の剣で、一番気に入ったものを教えてくれ。理由も聞くぞ」


そう言ってメイコが地面に並べたのは、以下の5本。

①:明らかに普通の剣

②:長さが①の倍ほどある剣

③:太さが②の倍ほどある剣

④:②と同じ長さだが明らかに細く、重さは①と同等と思われる剣

⑤:材質以外は①と変わらない、どうやら重い金属で作られているらしい剣


ブランドルはそれらを順番に振り、そして、迷わず最後の一本を選び取った。


「これだな。このくらい重くて、重心が手元から離れすぎないのがいい。重さはもう少しあってもいいかもしれんが、長さについちゃあ、長くするとそれだけ振りにくくなるからな」


ブランドルの筋力なら重いほうが威力が出せるが、それはそれとして技の邪魔をしない長さというものはある、ということらしい。


「ふむ、筋肉馬鹿かとも思ったが、お手本のように堅実な回答だな。よい師匠に恵まれたと見える」


鍛冶師メイコは満足げに頷き、地面に並べた4本を回収する。

どうやらブランドルは彼女のお眼鏡にかなったらしい。


「へっ、師匠を褒められんのは悪い気しねえな」


最後の1本を返しながら笑うブランドル。

その気持ちはわかる。

自分の技を見て師を褒められるということは、師の教えを体現できていること、師の教えそのもの、その両方を褒められているということなのだ。


その回答に満足した様子で、鍛冶師メイコは踵を返した。

どうやらもう帰るようだ。


「じゃあ、これをベースに、今見えた君の振り方の癖を踏まえて剣を打ってくる。満足いく出来のものになるまでしばらくかかるだろうが、その間のつなぎの武器は…領主様から借りてくれ」


そして一歩、二歩踏み出したところで、足を止めて振り返る。

何か忘れていたことがあったのだろうか。


「しまった。生き別れの弟と再会させてもらった恩を返していないじゃないか。私としたことが」


なるほど、恩を返すのは大切だ。

恩知らずの無礼者のそしりは、やがて手を差し伸べてくれる人が失われるという最悪の結末を招くのだから。


「ブランドル、君の仲間のうち、武器を作ってほしい者はいるかい?カイトは姉として再会祝いを用意するつもりだから、それ以外で頼む」


ブランドルはメイコの問いに少し考え込み、やがて俺に目を向けた。


「ラグナ、なんか武器いる?」


その問いの意図はよくわかる。

まず、相手が鍛冶師であり、ブランドルの武器は既に依頼済であることから、武器の作成を頼むとしたら戦士としての心得があるカイト、セレス、カーティス、俺の4人が候補となる。

カイトがまず除外され、セレスの剣は下手すると国宝指定されかねない魔術兵装なので、現実的には俺かカーティスが候補として残るわけだが。

本来は魔術の発動体である杖にメイスの頭部分を被せて敵を殴る魔法青年打撃くんであるカーティスに、わざわざ鍛冶師に作らせた業物を渡しても、という考えになるのはまあ、よく分かる。


そうなると残るは俺、ということになるのは、そうなのだが。


「領主様のご子息か。構わないが、私が何か武器を作ったところで無手の方が強いだろう」


鍛冶師のメイコが指摘したとおり、俺が得意とする戦術はあくまでも徒手空拳での格闘戦。

武器をもらっても…ん?


「いやまてなんで見ただけで分かった」


なんで鍛冶師メイコは俺が格闘家だと分かったんだ?


「細かな調整はともかく、客が得意とする戦い方くらい一目で見抜けなきゃ、師匠に申し訳がたたないのさ」


さらりと、鍛冶師メイコはすさまじい特技を明かした。

どんな凄い師匠だよ。


「だがせっかくだ。魔神化して見せてくれ。魔神化すると戦い方がガラッと変わる魔人もいると聞いたことがある」


さらに軽い調子で俺が魔人だということまで見抜かれては、もう閉口するほかない。


俺は無言で魔神化した。


直後、鍛冶師メイコの目つきが変わる。

しばらく俺の全身を舐めるように観察し、少しの間困惑した様子だったメイコは、やがて納得したかのように何度かうなずいた。


「半魔神化、実物を見るのは初めてだな。半魔神化でこれ、ということには驚嘆すべきか」


「半魔神化?」


聞いたことがない単語だ。


鍛冶師メイコは、その単語を当事者の俺が知らないことに驚いたような表情を見せたあと、生徒の質問に答える小学校教師のような口調で説明しはじめた。


「魔人の中には、あまりにも強力な魔神の力を宿すゆえに、無意識に魔神化を途中で止める者がいると聞いたことがある。君を見てそれだと確信したのは、押さえつけられた膨大な力が見えたからだよ。もっとも、今そうして解放されている力だけでも、君は並みの魔神化した魔人を片手で捻り殺せるだろうが」


悲報:俺氏、しっかりチート転生者だった模様。


鍛冶師メイコの説明は明快で、かつ、彼女の極端に優れた感覚に立脚するものであった。

鍛冶師メイコの鍛冶師としての才能も、おそらくその何もかもを見通すようなその目に立脚しているのだろう。


「そうだな、魔術兵装の作成も一応できるし、魔神の力を引き出して制御するベルトでも作ってやろうか。男の子はそういうの、大好きだろう?」


…コイツ転生者なんじゃないかな。


ともあれ、それは非常にありがたい申し出だ。

使いこなせていなかった力を使えるようになるというのは、シンプルな戦力増強になる。


「では、それでお願いします」


「承った。納品は他のものとまとめて持ってくる」


そう言って、今度こそ鍛冶師メイコは去っていった。


「呼び止めなくていいのか」


念のためカイトに聞いてみるが。


「こんなに近い場所で生きていてくれたんだ。いつでも会いに行けるなら、仕事の邪魔はしたくないよ」


カイトの答えは、なんともカイトらしかった。

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