第26話:転生系も追放系もだいたい節操なし
どうもみなさんこんにちは。
異世界転生者です。
どうやら、俺も追放系主人公も別方向にもげるべきだったようです。
エレナと話があるというセレスに言われた通り中庭に出ると、父上やカイト、カーティス、リエルがこちらを見てあんぐりと口を開けていた。
一体何があったというのだろうか。
「愛されているな、ラグナ…」
死んだ魚のような目で言ってくる父上に、普段の圧とはまた別格の恐怖を感じる。
「何があったんですか」
「いや、ラグナは妻とよい関係を築けているようだなと思っただけだ」
目をそらす父上。
絶対何かある。
こういう時の父上は必ず何か隠しているのだ。
「目ぇ見て喋ってください」
俺は、父上が普段俺に対してするように、眼力を込めて父上に顔を近づける。
普段自分が問い詰める時にやっているということは、こうして問い詰められると嫌だということを父上自身が自覚しているという事なのだ。
つまり、この方法は父上に対して最も効果的な問い詰め方である。
「う、うむ。先程までお茶を飲んでいたのだが、唐突に『むむっ、ラグナが困っている気がします!』とか言って急に走り去った息子の妻の姿は、なかなかの恐怖体験だったぞ」
期待通り、父上は白状したわけだが。
聞かなきゃよかった。妻のそんなホラーな姿。
やっぱり王族はなにかしらの超能力があるのではないだろうか。
「それでラグナ、なにか困っていたのか」
やっべ、墓穴掘った。
「え、いや、ナンデモナイデス…」
今度は俺が目をそらす。
「目ぇ見て喋れラグナ」
血走った目で顔を近づけてくる父上の圧、こええ…。
俺はあっさりとその圧力に屈した。
「ええと、その、戦力のことしか頭にない状態で、エレナさんに魔術師装束を渡してしまってですね、セレスにもプレゼントなんてしたことないのにと気付いて…」
「…何やっとんじゃあ!」
言い終わるより先に、父上の背負い投げが見事に決まった。
ずきゃあ!みたいな音を立てて地面に叩きつけられるが、甘んじて受ける。
「はい、すみません」
投げられた姿勢のまま謝るしかない俺。
やらかしはやらかしだ。
「それで、何か埋め合わせはちゃんと用意したんだろうな!?」
「はい、セレス用にも魔術師装束を…」
「バッカモーン!」
父上のジャイアントスイングが完璧に決まった。
ドゴォ!みたいな音を立てて庭の木に激突するが、反撃などしない。
「側室と同じものですまそうとするんじゃない!もっと良いもん渡すか他にも用意したらんかい!王家と伯爵家の力関係分かっとんのか!」
投げ飛ばした俺にのしかかりマウントポジションを取って俺の襟首をつかんで揺さぶりながら怒鳴る父上。
「はい、すみません」
父上の言は全くの正論である。
あと、父上的にももうエレナは側室確定らしい。
揃いの服の一つを贈るというのはこの世界ではそういう意味なのだ。
服という衣食住のひとつ、つまり生活の象徴を揃いのもの、同じもので揃えるということは、生活の全てをともにしたいという意思表示。
なにしろ、食と住を揃えるのは、同じ場所にいるだけで達成できるのだ。
服は意識的にあわせなければ、まして男女の別もあるのでなかなか難しい。
無論、安価な量産品を生活上の都合で融通しあう程度ならそこまで重く捉えられることもないが、俺が贈った魔術師装束は特注品で金もかなりかかっている。
そのうえ、仕立て直しまできっちりやっている。
婚約申し込み装束として申し分ない。
申し分ないのが、大問題だ。
「それで、殿下はなんと?」
少しの恐怖と、聞かないわけにはいかない苦しさを感じさせる声で問う父上。
そらそうだ。
これでもしセレスが激怒してたら普通に俺と父上の首が飛ぶ。
「今回のやらかしについて、俺らしいと苦笑し…今はエレナと話があると、先に俺をこちらに…」
エレナをさん付けで呼ぶことももうできない。正室のセレスを呼び捨てにしている以上、側室に敬称はつけられないのだ。
「側室を迎えることについては?」
「歓迎、と」
父上はほっと胸を撫で下ろした。
文字通りの命拾いである。
「殿下の寛大なお心に深く感謝するように」
最後に俺の脳天を軽くこづいて、父上のダイナミックお説教タイムは終了した。
立ち上がって仲間の方を見ると、ものすごい顔でドン引きしていた。
それはそうだろう。
俺が魔人でなければ死んでいてもおかしくない家庭内暴力の現場を目の当たりにしたのだから。
なお、これは子供の頃の俺が魔人の回復力をあてこんで死ななきゃ安いの精神で無茶苦茶やった結果、父上の折檻が極限までエスカレートしただけなので、まあわりと残当だったりする。
「…こほん、見苦しいところを見せたな、すまない。忘れてくれ」
「忘れられるかなあ、これ…」
父上の言葉に、カイトは空を見上げて頬をかいた。
「ところでラグナ、エレナを側室にするなら私もいい?ほら、ドレイクロードのときに私が振られた理由って側室はとらない主義みたいな話だったでしょ?」
そして空気を読まず、とんでもない爆弾を投げ込んでくる獣人少女リエル。
「ラ…グ…ナ…?」
背後に感じる父上の圧がこええ。
「その話はセレスがいるときにしよう、そうしよう」
情けなくも逃げを打つ俺だが。
「セレス様にはもう話してるよ?」
逃げ道を塞ぐように、さらにぶっ込むリエル。
「お!ま!え!と!いうやつはー!」
父上に背後から蹴り倒され、キャメルクラッチをかけられる。
「知らん間に何人もたらしこみやがってこのスケコマシが!武人肌に育ったかと思えば実際は好色家か!?外は堅物に見えて中身はドンファンか!そんなに女遊びが好きか!」
反論したいが、状況が状況なので何も言えない。反論のしようがないくらいなんか急に、知らん間にモテ期来てるのと、あとはキャメルクラッチを食らっている最中であるせいで。
「違いますわ、お義父様」
助け船を出したのは、俺と同じ魔術師装束に着替えて出てきたセレス。
「殿下?」
技を解き、セレスの話を聞く父上。
俺もその間に立ち上がった。
「私も、エレナさんも、リエルさんも、どの側面に惹かれたかは違えど、民のため、誰かのために必死なラグナに惹かれたのです。必死すぎて視野が狭いのは確かに欠点ですけど、だからこそ、ラグナを支える妻は、何人かいた方がいいのではないでしょうか」
エレナやリエルに好かれた理由は全く分からないが、そう思って共に歩いてくれるのなら、それはとても幸せなことなのだろう。
それを、セレスが許してくれることも含めて。
「殿下のお心遣いに、深く感謝申し上げます」
父上に合わせて、俺も頭を深く下げた。
「というわけでラグナ、魔術師装束、リエルさんの分も用意してくださいね♪」
セレスがものすごく楽しそうなのはなんでだろう。
「ねえ、カーティス」
騒ぎの傍らで、ようやく再起動したカイトが、隣のカーティスの袖を引く。
「ラグナって、凄い朴念仁?」
テメーにだけは言われたくねーよ物語開始時点で2人攻略済みの追放系主人公。
「カイト、ゆめゆめ忘れるな。人のふり見て我がふり直せという言葉を」
よく言ったカーティス!
「どういうこと?」
首をかしげるカイトに歩み寄り、俺は薬学協会の店員ミミーと冒険者協会の例の受付嬢のことを言ってやろうかとも思ったが、こらえた。
「近すぎて気づかない、お前を大切にしてくれる人がいるってことだ」
代わりに告げたのは、かなり遠回しな言葉。
「それって…」
カイトは少し考え込み、もしかして、と前置きして、言った。
「…ラグナくん?」
俺は無言でカイトを殴り倒した。
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