第23話:転生者は信用できない語り手

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


俺、信用できない語り手という奴らしいっす。

嘘なんか言ってないんだけどなぁ。



フィンブルに転移して時計を見ると、まだ昼前の時間だった。

少し早いが昼飯を済ませてすぐ再出撃…とはいかないだろう。

異常な回復力を持つ魔人である俺以外、全員が最低でも3時間は休息が必要なレベルだ。


「ラグナ様、ヴェート様からこちらを預かっております」


どうしたものかと考えながら転移室を出ると、転移室を管理している魔術師が一通の手紙を差し出してきた。


「なになに…」


既に封が切られている手紙を開くと、冒険者協会の支部長からの手紙であることが読み取れた。

ブランドルの剣を打たせるために父上が声をかけた鍛冶師の時間がとれたということが記されている。

鍛冶師は久々にフィンブルの冒険者協会の食事を楽しみたいらしく、冒険者協会で待っているようだ。


俺はその手紙をブランドルに見せた。


「ブランドル、冒険者協会に、父上が呼んだ鍛冶師が来ているらしい。行ってくれ」


「おう!」


ブランドルは即答し、父上から借りたバトルアックスを俺に渡して立ち去った。

そう言えば武器庫の位置はブランドルを含む仲間には教えていないのだったな。


さて、全員が疲れているうえ、前衛最強のブランドルが抜けた以上、再出撃の選択肢は完全に消えた。

ブランドルが鍛冶師と話しに行ったために休息できないとなると、俺たちだけが休息しても3時間後に再出撃はできないのだ。


となると、再出撃は明日になるという前提で、戦力を整えるしかないが。

さて、それは何から手を付けるべきか。

いや、手分けして片っ端からやってしまおう。

なりふり構っている余裕はない。


まずは。


「セレス、父上への状況報告は任せて構わないか」


セレスに、父上への報告を頼む。

当然、報告内容は知恵ある蛮族による待ち伏せの事実と、その蛮族が待ち伏せさせていた蛮族の軍勢の数と質について、だ。

それを、最も(当然、俺よりも)聡明なセレスに任せる。


援軍を送るかどうかの判断は父上や陛下に預けるとして、不都合な事態を早急に報告するというのは戦時では最も重要なのだ。


これは生半可な者に任せることはできない。

そして、俺自身の使い道は別にあるので、この役目は負えない。


「任されました!」


その依頼が俺からの信頼の証であることを間違いなく理解したであろうセレスは、にこりと笑って父上の執務室に向かう。

が、やはりその背中はかなりの疲れを感じさせた。

13歳の幼い体であれだけの蛮族と大立ち回りを演じたのだ。さもありなん。

父上が話を聞いた後、ちゃんと休憩するよう促してくれることを祈るばかりだ。


残るメンバーでやれる戦力増強、その中でも優先度が高く、速効性のあるものはどれか、いくつか思い浮かぶものの中から、選び取る。


真っ先に手を付けるべきなのは、やはり、これだ。


「リエル、君は投擲武器を同時にいくつ扱える?サーキュラーブーメランで手元に戻ってくる前提で、何度も投げ続けることができる本数だ」


カイトと俺がやった、投擲の攻撃範囲を拡大する戦術を、リエルの、石ころでライフル弾並みの威力が出せる優れた投擲技能で叩き込むという、脳筋極まるが呆れるほどに有効な戦力増強。

俺の質問に、リエルは人差し指を顎に当てて少し考え込み、答えた。


「片手で4として…8つかな」


片手で4つ。

それはつまり、リエルはカイトの4倍の頻度で、武器を投擲できるということ。

リエルの投擲火力で、恐るべき範囲への攻撃を、カイトの4倍の頻度で撃てるのだ。

間違いなく、リエルはパーティ最強の火力を叩き出せる。


むしろ、その状態のリエルを止められる敵が出てきたら一目散に逃げるべきだろう。


「素晴らしい。好きなものを8つ買ってきてくれ」


俺はリエルに金貨袋を渡した。


「え、いいの?こんなに?」


目を丸くするリエルに、俺は首肯を返した。


「その分働いてもらうからな」


「じゃあ、武具店に行ってくる!」


金貨袋を手に、リエルは走り出した。

それを見送ったところで、カイトが俺に耳打ちしてくる。


「ラグナくん、もしかして、敵が今回以上の待ち伏せをしてくる前提で、ごり押しで突破するつもりかい?」


冴えてるな、カイト。

俺はウインクとサムズアップで返答した。


「僕は君の脳筋っぷりが心配になってきたよ…」


カイトはなぜか、頭を抱えてうずくまってしまった。


「当然ごり押しは物理だけじゃないぞ。魔術も可能な限り多く撃てるように、カイトには薬学協会から魔力回復薬を仕入れてほしい」


そのカイトの肩に手を置き、俺は追い打ちをかけるが。


「任された。ミミーに在庫を回してもらえないか頼んでみるよ」


カイトはやる気満々に答えただけでなく、横のカーティスに目を向けた。


「カーティス、魔術師協会に魔力水晶を回してもらう交渉ってできるかな?」


カーティスは魔術師協会にわたりが付けられるらしい。

もし、実現するなら非常にありがたいが。


「任せろ」


頼もしくも、カーティスは即答した。


「では、2人とも、頼んだ」


俺は2人に金貨袋を渡した。

これだけあればそれなりの数を揃えられるだろう。


「ああ」「うむ」


2人を見送ったところで、俺の隣に残っているのは、神官少女エレナだけになったわけだが。


「エレナさん」


目を向けると、何故かエレナはビクッと体を震わせた。

そんなに俺は嫌われているのだろうか。


「い、いえ、嫌ってなんて…」


声に出ていたらしい。


「ラグナきゅん…私…」


意を決したように何かを言いかけ、しかし、神官少女エレナは盛大に噛んだ。


「きゅん?」


俺が首をかしげると、エレナは顔を真っ赤にした。


「あ、いえ、その…」


その気持ちはわかる。相手の名前を呼ぼうとして噛むのは実際恥ずかしい。


「まあ、俺の方が年下でしょうし、くんづけでも呼び捨てでもお好きなように」


だから、俺は努めて優しく微笑んだ。


「はい、ラグナくん…」


胸の前で手を組み、何かを言いかける神官少女エレナ。

言いたいことはわかる。

戦力増強に関する、彼女への役割分担についてだろう。

当然、考えてある。


「エレナさんはメイドに声をかけて、俺の予備の魔術師服を仕立て直してもらってください。エレナさんの回復魔術は俺たちの要だ」


それだけを伝え、俺はヴァレテルン領に転移した。




「さすがに、戦力の連続展開はできないか」


ヴァレテルン領の、先程と同じ場所に転移し直したが、やはりまだ伏兵はいない。

想定される敵は、こちらの転移を読み伏兵を置ける神がかった策士だが、さすがに短時間であの大群を再配備できるようなチートキャラではないようだ。


ならば、まだ勝機はある。


恐らく敵は、あの戦力で撃破しきれなかった俺たちが、同じ待ち伏せを警戒して戦力を増強して再度突撃してくることに備えるだろう。


だから、なりふり構わず戦力を増強する。

読み合いにあえて乗り、その上で、読み合いを完全に拒否した全力の力押しで叩き潰す。


そして俺たちは、それが決して不可能なメンバーではない。


俺は周囲の状況を確認しつつ1時間ほど進み、転移でフィンブルに戻った。

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