第16話:追放系主人公たちとの旅立ち

どうもみなさんこんにちは。

異世界転生者です。


蛮族殺すべし慈悲はない。



父ヴェートが治めるフィンブル領は、西側の蛮族の領域に蓋をするように南北に細長い地域であり、人が住み豊かに暮らすための豊かな田畑と活気ある交易都市というよくある構成ではなく、蛮族を通さないための万里の長城めいた城壁とそれを支える後方支援要塞を兼ねる領都で構成されている。


そこで普通に民が貧困にあえぐことなく暮らせているのは、多くの魔術師を雇い魔術で肥料を大量生産させている父上の手腕によるところが大きい。

戦うための土地で普通に他領に売ってやれるだけの作物を作っていると言えばどれほどの異常事態か通じるだろうか。

ちなみに連作障害の存在は一般的に知られていないが、父上は感覚的に知っていて、畑を三分割して毎年入れ換えながら三種の作物を作るよう領内にお触れを出していたりする。

内政のバケモンである。

そして、そのお触れを理解し実行できる程度の教育が、農村にも行き渡っているのが恐ろしい。

父上は内政チートを貰った転生者なんじゃないかとたまに疑う。


…話がそれた。


フィンブルは西側には万里の長城もどきを持つが、東側には当然そんなものはない。

もちろん街道には関所くらいあるが。


南北に長いフィンブルの東側は、北半分はヴァレテルン領に接し、南半分はモロヴァレイ領に接している。

その二つの領土が、謀反を企てた領主の手引きという方法で蛮族に制圧されているという事実は、フィンブルが蛮族に挟み潰される可能性を示唆しているのだ。

そうなれば、蛮族の領域からラインジャ王国を守る手だてはなくなるだろう。


だから。


「…すまんラグナ。我が軍と、ジン、イザークの軍はフィンブルの防衛に徹することになった」


陛下との相談の末、父上の軍が領内に引きこもらなければならなくなったのは、戦略的に正しいのだ。


加えて言えば、ここで父上や兄上が他領に一切手出しをしていない事実を残せれば、自作自演だとか、謀反を企てているのは父上の方だとか、そういうイチャモンもつけられにくいので、政争的にも最適解に近い。


だが、なにもしなければそれはそれで、国家存亡の危機に自領だけ守りやがってというイチャモンをつけられる可能性は残る。


「そこで、ご子息の出番って訳ですな、領主様」


ブランドルが意を得たりとばかりにニヤリと笑う。


「その通り。そして、ブランドル君、”紅剣”に、フィンブル領主として愚息の供を依頼する。無論、『冒険者は戦争、内紛には不干渉』というルールには抵触しない。あくまでも愚息が個人的に赴く蛮族討伐の供だ」


「引き受けやした」


頭が回る者同士の会話は、本音を全て伝えながら、周りには建前をアピールできると聞いたことがあるが、父上とブランドルの会話はまさにそんな感じだった。

ブランドルは今すぐにも、俺より立派に貴族やれるんじゃないか?


「ところで、”紅剣”は一人メンバーが減っておりやして」


ブランドルの言葉に、カイトがビクッと肩を震わせる。

やはりパーティを追放されたという事実は重いのだろう。


「そこのカイトと、共同で依頼を受けても構いませんかね、領主様」


しかし、ブランドルは追放したのがカイトだとはおくびにも出さず、父上に言ってのけた。

平民の面倒な人間関係にまで領主を巻き込めないという配慮か。


「カイト君は”紅剣”のメンバーではなかったか?ちょうど独立したところだったのかな。もちろんそれで構わないよ」


まあ知ってるけどね、といわんばかりに、すっとぼけながらも釘を刺す父上。

こええよアンタ。


「当然、私もお供しますよ、ラグナ」


父上の前で抱きつくのやめてセレス…。


「仲睦まじいのは結構だが、節度は守るように。いいなラグナ?」


ほら、こうやってものすごい眼力で顔を近づけてくるんだから。

恐らく徹夜で陛下と相談していたのだろう、隈の残る顔でそれをやられるとシンプルに怖い。




ヴラギティール侯爵が治めていたモロヴァレイ領は、陛下率いる王家と王派閥、そして王側につくと決めたらしいいくらかの日和見派閥の軍勢が王の名のもとに制圧することになったらしい。

王の名のもとにでもなければ、侯爵領を潰すのはまず無理なのでまあ仕方ないだろう。

いかに謀反への断罪、既に蛮族に奪われた都市の奪還といえど、王が自ら貴族領を攻めるというのはそれなりの暴君ムーブなので、陛下は苦しいお立場に置かれることになるが。


ともあれ、冒険者である俺達は戦争そのものへの直接介入がご法度である(冒険者をやめて兵士になる必要がある)ため、ひとまず合流を避けるためヴァレテルン領に向かうことにした。

ついでに言えば、伯爵領のこちらなら、辺境伯のせがれが出向いてもまあなんとか言い訳がたつのだ。


関所まで転移し、父上の書状を関所の兵士に見せて領外に出る。


さすがにそれだけですぐ蛮族が襲ってくるということもないが、気分の問題か、しばらく歩く間に、嫌な空気を感じてしまう。


「あっちとこっちと…ヒューッ…すげー数が潜んでやがるな」


ブランドルが愉快そうに口笛を吹く。

どうやら、見える位置だけでもかなりの数が隠れてこちらをうかがっているらしい。


無視して通ったとして、後ろから挟まれる恐れもあるか。


「…行けるかな」


試しに妖精さんが好む魔力を広げてみると、さすがに森の中ほどではないがいくらかの妖精さんが集まってきた。


「魔人さんだー」「こんにちはー」


ここは地の属性が強いのか、大半の妖精さんはとてとてと地面を歩く約2頭身の手乗り人形みたいな土の妖精さんだった。


「か、かわいいです…!」


セレスも年相応にそういうものは好きらしい。

俺は先頭にいた妖精さんを手のひらにのせ、目線をあわせて話しかける。

土の妖精さんが大量に集まってきたときはこうするのが礼儀だ。

上から目線で話すのが良くないのもそうだが、同時に、妖精さんの数が多すぎて誰に話しかけてるのかわからなくなるという問題もある。


「こんにちは。あちこちに隠れてる蛮族は、皆さんの友達ですか?」


妖精さんは腕組みしてぷいっとそっぽを向いた。


「ともだちなもんか。あいつら穢れをばらまくから大嫌い」


「きゃ、きゃわわ…」


セレスがあまりのかわいさに耐久限界を迎え、悶えている。

が、俺は妖精さんとの対話に集中する。


「それは良かった。これからあいつらを倒そうと思っていたので」


そう返答して妖精さんを地面に下ろすと、大量の妖精さんたちがうぞうぞと俺の体に登ってきた。


「わーい」「ありがとー」「それならちからかしたげるー」


くすぐったいが、我慢だ。


やはり俺は、妖精さんに好かれやすいらしい。

それとも、運がいいだけか。

いずれにせよ、妖精さんの力を借りられるのはありがたい。


「みんな、行こう。これだけの妖精さんが力を貸してくれるなら、サーチアンドデストロイでも問題ない」


「はい、ラグナ!」

「分かった」

「おう!」

「承知!」

「おっけー!」

「はい」


セレス、カイト、ブランドル、カーティス、リエル、エレナ。

全員が俺に応えて武器を抜く。


その直後。


「どうも。蛮族です。お前ら丸かじり。これぞ蛮族飯」


どうやらこちらの戦意を理解し、隠れているのがばれていると判断したらしい蛮族が一斉に物陰から飛び出してきた。


ちなみに蛮族の言葉は神様チートがある俺にしか分からない…と思う。


「どうも人類です。お前ら挽き肉。これぞ人類飯」


とりあえず蛮族語で応答するが。


「はっはは!これだけの蛮族を狩れば楽に冬が越せるな!まあ、報酬金をくれて買い物ができる世間が残ってればの話だがよぉ!」


ブランドルは楽しげに、父上からかりたバトルアックスを振りかぶり走り出した。

蛮族より蛮族だよこの男!


「その世間を守る戦いだな!覚悟せよ蛮族!このメイスで全身の骨をミゾレのように砕いてくれる!」


カーティスも今は魔法の杖ではなく、メイスを振りかぶっている。

魔力は温存するということだろう。

戦士の心得もあったのかこいつ。

つーかこいつも脳みそ蛮族かよ。


「長期戦だからね、矢は温存するよ!」


リエルが石を拾って投げると、頭を撃ち抜かれたゴブリンが即死した。

なんで投擲でライフルみたいな威力だしてんだよ、弓要らないじゃん。

投石とかそれこそ蛮族ウェポンだろうが。


悲報:仲間の半分が頭蛮族だった件について。


「ええと、えと、えと…」


純神官らしいエレナは立ち尽くすが。


「君の魔力は温存したい。今は耐えて欲しい!」


「わかりました!」


役に立てない痛みを知るカイトが、そんなフォローを残して前に出る。

その心遣いは、以前俺に話してくれたように、カイトの苦しみを知るエレナにはどれほど沁みたことだろうか。


カイトのやつめ、順調にハーレム要員を確保しやがって。もげろハーレム主人公。(純度100%の嫉妬)


「ラグナ、私はエレナさんの直掩につきます。ご遠慮なくどうぞ」


「ありがとう」


セレスに促され、俺も前に出る。


…この戦い、これからの旅の景気づけにはちょうどいい。

派手にやらせてもらうとしよう。


「皆殺しにしてやるぜぇっ!」

「みなごろしにしてやるぜー!」


妖精さんたちとともに、俺は蛮族どもを片っ端からなぎ倒した。


…俺もたいがい頭蛮族かもな。

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