第14話:追放系主人公と転生系主人公
どうも皆さんこんにちは。
異世界転生者です。
いや、転生系主人公です。
父の領土を襲っていた蛮族の首魁、ドレイクロードとの戦いが始まって数分。
「ち、さすがに強いな……」
こちらの打撃の効果はあまり確認できず、むしろこちらの拳に血が滲み始めている。
妖精さんも、まだ未熟な俺の声に応えてくれる低位の妖精さんでは、ドレイクロードには有効打を与えられないので、周囲の冒険者たちのサポートを頼むしかない。
当然、他の魔術も、いまいち効果的ではない。
俺の感覚を信じるなら、能力の差で抵抗されているという状況だろう。
そして、魔神化の能力を持たないセレスも、有効打がないという意味では似たようなもの。
剣が武器である分、消耗具合は俺より多少ましといった程度か。
「素晴らしい。やはり骨のある者との戦いは心躍るな」
ドレイクロードのほうは、むしろ体が温まってきて絶好調という感じだ。
参ったな、これは。
ちょっと、本格的に打開策がない。
「さあ、もっと我を楽しませてくれ!」
斬りかかってくるドレイクロードの斬撃をかわすことは、なんとかできる。
まだ、それができるだけの体力は残っている。
だが、それはいつまでもつ?
余計な思考に気を取られたせいか、ドレイクロードの剣風が体をかすめる。
「ラグナ!」
余波だけで吹っ飛ばされた俺と入れ替わるようにセレスがドレイクロードに切りかかるが、あしらうように切り払われ、その体が木の葉のように宙を舞う。
「くっ!」
セレスへの追撃を封じるため、痛みという体からの抗議を無視してドレイクロードに殴りかかるが、今の俺の技量ではその厚い鱗の皮膚を打ち抜く打撃力を生み出せない。
いや、多少のダメージは与えているのかもしれないが、こちらの拳のほうが持たないのは自明だ。
この膠着状態における、最も重大な不利要素は、俺もセレスも破壊神ヴァルタギアスの信者であるということだ。
ヴァルタギアスは、その恩寵に回復系魔術が存在しない。信仰してもいわゆる回復魔術が何一つ使えるようにならないのだ。
あるのは筋力を一時的に増やすとか一時的に剣技がうまくなるとか、武神らしい攻撃系の魔術ばかり。フィジカルだけで破壊神の称号を手に入れているヴァルタギアスのギャグじみた逸話から連想される恩寵としては正しいのだが、神官としてはどうなのかという話である。
ヴァルタギアス神官といえば戦場の最前線で理性を感じさせない雄叫びをあげながら両手斧を片手持ちして二刀流で首スパァ!しまくってる狂戦士のことを指す、と言えばその異常さが通じるだろうか。
「せめて、回復ができればな…」
魔神化の能力強化幅の高さゆえに、ここまで圧倒的な格上との戦闘経験をあまり積んでこなかったのも逆風だ。
格上相手にどういう戦いのペースを作り、相手の虚を衝くために何をすべきか、ということがあまりにもわからなさすぎる。
「どうした、もう抵抗できぬのか!」
襲い来るドレイクロードの乱撃を何とかかわす。
が、一手、仕損じた。
ドレイクロードの剣先が、天魔の仮面にわずかに引っかかり。
仮面を、割った。
この強敵を相手に、魔神化の能力強化幅を引き上げてくれていた天魔の仮面の喪失は、敗北を決定づけたと言って過言ではない。
ここまで、か。
剣風の余波で地面に叩きつけられた痛みの中で、俺は死を悟った。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
死を待つ俺の意識の外側から、何かがドレイクロードの剣と俺の間に割って入った。
青い髪の、華奢な青年。
俺を裏切り者と呼び、見限ったはずのそいつは、必死にドレイクロードの剣を押し返しながら、怒鳴りつけてきた。
「なんで自分だけで戦ってる気になって諦めてるんだ、ラグナくん!周りを見てみなよ!」
わだかまりがある仲間のピンチに駆けつけて一喝か。
たいした主人公ぶりだ。
さすがは追放系主人公。やはり俺は、調子に乗らずに太鼓持ちに徹するべきだったのかもしれない。
言われた通りに周りを見ると、多数の兵士と冒険者、そして民までもが、俺たちの戦いを包囲していた。
魔人の俺が始末されるのを待ってドレイクロードを総力で仕留めようという腹か。
なら、とっとと死んでやらねば、彼らの時間を無駄にしてしまう。
「ラグナ、お前の戦いに心打たれた者達だ。お前が魔人であっても構わない、助けたいと集った者達だ」
立ち上がった俺を制止するように、聞き慣れた声が俺の耳を打つ。
「父上…」
いつの間に戻っていたのか、完全武装で愛馬に騎乗した父上が誇らしげに周りを見渡していた。
どうやら、俺が死ぬのを待ち構えていたというのは俺の被害妄想であったらしい。
俺が魔人であることを知ってなお、手を貸してくれる者がこれほどいる。
間違いなく、勝機だ。
俺とセレスでは、このドレイクロードをなんとか足止めできるだけで、倒すのはさすがに無理だった。だが、全ての戦力をここに集結できたのなら、勝算は十分にある。
だが、何故。そして、いつの間に。
蛮族の群れとの戦闘で、そんな余裕など誰にもなかったはずだ。
「妖精に助けられた。言葉はわからなかったが、仕草で、誰の頼みで動いているのかを教えてくれた。貴殿に命を救われるのはこれで二度目だな」
口に出す前の俺の疑問に答えて前に出たのは、イケメンエルフ魔術師のカーティス。
妖精さんたちが協力的過ぎて笑うしかない。
もしかして妖精さんは俺のことを気に入ってくれているのだろうか。
「いい背中だったぜ。男は背中で語るもんだ。妖精を全部人助けに回して、目減りした戦力であんなバケモノを必死で止める姿なんて見せつけられたら、筋金入りの貴族嫌いで目が曇ってるあのバカでも、考え直すんだろうさ」
顎でカイトを指すブランドルの言葉は、俺を見限ったはずのカイトが真っ先に飛び出した理由の説明としても、貴族であるということを明かしただけでカイトが激昂した理由の説明としても、俺を納得させるには十分だった。
そのまま走り去り、カイトと並んでドレイクロードと斬り合うブランドルの背中は、相も変わらず頼もしい。
そして、それと並び立つカイトの背中も、出会ったばかりの頃の弱気な青年とは似ても似つかない。
男子三日会わざれば、とはよく言ったものだ。
「凄くかっこよかったよ!ねーねー、好きになってもいい?」
「ダメです。妻がいるので」
「速攻で振られたー!?」
頬ずりしてくる獣人少女リエルの頼みはノータイムで断るしかない。
申し訳ないが他のいい男を探してもらおう。
それとそんな暇があったら弓を構えて矢をつがえてほしい。
今は超強い敵との戦闘中なのだ。
「そんなに一途に愛されて、うらやましいです」
「ラグナったら…」
神官少女エレナはともかく、セレスに聞かれていたのはわりとマジで恥ずかしい。
「…ふふ」
笑いが漏れる。
とんだ道化だ。
忌避される種族で、ピンチに陥って、仲間に助けられ、民の声援を背に立ち上がる。
これではまるで、俺が。
「主人公みたいじゃないか…」
ならばよし。
俺の物語は異世界転生の物語でもなければ追放系主人公の物語でもない。
転生者と追放者の、ダブル主人公ものだ。
俺が決めた。今決めた。
天魔の仮面に導かれた高みを思い出しながら、俺は再度、魔神化を発動する。
道具の力を借りて至れる高みなら、自力でその高みに上ることも、不可能ではないはずだ。
「ヴェート・アウリオン・フィンブルが三男、魔人ラグナ・アウリオン、推して参る!」
決して叫ぶことはないと思っていた戦場での名乗りをあげ、俺はドレイクロードの顔面に飛び蹴りを叩き込んだ。
こういうときは殴った方が絵になるのは知っているが、あいにく俺の両手はドレイクロードの硬い鱗を殴りすぎてもう感覚がない。
足が潰れるまで蹴っても、ドレイクロードの命には届かないだろう。
蹴られたドレイクロードの一瞬の隙をついて四方八方から浴びせられる数多の魔術と矢の嵐でも、まだ足りない。
「カイト、鱗の隙間に剣をぶちこめるか」
「君とブランドルが信じてくれるなら」
「よし、信じてやる」「おう!」
短いやり取り。
そこから先は、もはや言葉など邪魔。
「妖精さん、力を貸してくれ!」
妖精さんの力を借りて作り出した光の刃でドレイクロードの剣を受け、刃を変形させてその右手ごと絡み取る。
「ぶるぅらぁぁぁぁ!」
狂戦士じみた雄叫びをあげたブランドルの大剣が、空いたドレイクロードの左手に食い込み、斬れないまでも動きを止める。
「貫け!」
魔力を込めた剣でカイトが放つ全力の刺突は、確かにドレイクロードの急所をとらえた。
が。
「なめるな人間ども!」
ドレイクロードは恐るべき膂力で、まとめて俺たちを投げ飛ばした。
…殺しきれなかったか。だが、十分だ。
「ごめん、届かなかった…」
信頼に応えられなかったと、悔しそうに地面を殴るカイト。
だが。
「いいや、届いているぞ!」
その背中を踏み台に、俺はドレイクロードにもう一度飛び蹴りを叩き込む。
「お前の!一撃は!」
俺の飛び蹴りに押し込まれた、ドレイクロードに刺さったままの剣は、深々とドレイクロードの急所を貫いた。
「僕を踏み台にした!?」
…お前まさか転生者じゃないだろうな。
ともあれ。
カイトの剣は、確かにドレイクロードの命に届いたのだ。
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