第11話:追放系主人公の怒り
どうも皆さんこんにちは。
異世界転生者です。
追放系主人公を怒らせてしまったようです。
「ラグナ、ちょっといいか」
翌朝、書斎に本を返しに行った俺を父上が呼び止めた。
「殿下と王都に飛ぶ前に、冒険者協会に同行してくれ。陛下には手紙を送ってある」
どうやら、昨晩兄上たちと話していた作戦に、冒険者も組み込むようだ。
そこに俺が必要な理由はいくつか思いつくが、このままついていくのは得策ではない。
「それは、冒険者として、領主の子として、あるいは、領主が戦力として保有する魔人として、いずれでしょうか」
父上の目的に応じて服装を変える必要があるのだ。
「すべてだ」
父上の答えは最も合理的で、最も残酷だった。
つまり、状況はそれだけ悪いという事だ。
「承りました」
俺は着替えるために一度自室に戻った。
「ラグナ、冒険者としての仕事はどうだ?信頼のおける仲間はできたか?」
冒険者協会に向かう道すがら、父上は子を気遣う親の顔で問うてくる。
が、それをただの親の気遣いだけだと思い込むほど俺も幼くはない。
「近場の依頼を2つ受けた程度ですが、数人、あてにできる者はいます。此度の戦の役にも立つかと」
言いながら、数少ない知り合いの顔を順番に思い浮かべる。
カイトは兵卒としてなら実力も申し分なく、さらに将来性も見込める。
ブランドルは間違いなく父上のお眼鏡にかなうだろう。何なら近衛に欲しがるかもしれない。
ブランドルの仲間は恐らく単体では不合格だが、ブランドルが信を置く仲間ということを加味すると、ブランドルとセットで合格というところだろうか。
「そうか。酒場にいたら紹介してくれ」
「承りました」
危険な戦いに知人を巻き込むことに多少の慙愧はあるが、もともと冒険者とは命を賭け金に切った張ったするならず者一歩手前の仕事だ。
危険を加味した報酬額と、領主からの直接依頼という名誉で勘弁してもらうとしよう。
「失礼する」
父上が冒険者協会併設の酒場の戸を開けたとき、その場の空気が一瞬にして変わった。
談笑しながら朝食をとっていた者も、依頼の掲示を見ていたものも、受付で何かの手続きをしていた者も、全て、父上の姿を見て目を見開き、こちらに深く頭を下げる姿勢をとったのだ。
「邪魔をしているのはこちらだ。楽にしたまえ」
そう手を振った父上は、俺に向き直った。
「ラグナ、お前があてにできると判断した冒険者はこの場にいるか」
俺は酒場を見回し、青髪の青年と、金髪の男を中心とするパーティの姿を認めた。
「はい」
「呼んできなさい」
俺はまず、カイトのもとに向かった。
「すまん、ちょっと来てくれ。カイトの力を借りたい」
「領主様から何か頼まれたのかい?」
「そんなところだ。ブランドルたちも呼ぶ」
「それがいいと思う」
緊張感に満ちた手短なやり取りの後、ブランドルのところに向かう。
「ラグナ、急に領主様と一緒に来てどうしたんだよ」
「あとで説明する。力を貸してくれ」
「そうか。どうすればいい」
「ひとまず、父上の話を聞いてほしい」
「父上って……」
「それも後で話す」
「お、おう……」
口を滑らせてしまったが、ひとまずブランドルも連れて、父上のもとに戻る。
「こちらの5人です」
「そうか。…うむ、全員、十分な実力者だな。お前があてになると評価するのも頷ける」
父上は俺が連れている顔ぶれを見渡し、納得した様子で頷いたあと、ちょうど奥から出てきた冒険者協会の支部長に目を向けた。
「彼らに指名依頼を出したい。応接室を借りても構わないか?」
「もちろんでございます。領主様」
支部長の爺さんに恭しく案内された父上に続いて、俺たちは冒険者協会の応接室に入った。
「かけたまえ」
応接室の上座に座り、そう促す父上の言葉に従い、俺たちは椅子に座った。
「まず、愚息がどうやら君たちに隠し事をしていたらしいので、その詫びから始めよう。信頼関係は大切だ」
「愚息って……」
父上の言葉に目を見開き、俺に目を向けたのはカイト。
「すまん。俺は、領主の三男なんだ。見てわかっていると思うが、魔人でもある。俺は、家系図から
直後、カイトは俺の襟首をつかんだ。
「騙していたのか、僕を…!」
「そうなるな」
俺はカイトの言葉を否定しない。
「友人みたいな顔で近付いて、騙して、内心見下してたのか!いずれ裏切るつもりで!」
俺はカイトの言葉を否定しない。
そんなつもりはなかったが、カイトがそう思い込むのも無理はない。
「ふざけるなぁっ!」
カイトが拳を振りかぶる。
「待てよカイト」
その拳を掴んで止めたのはブランドル。
「離せブランドル!こいつは…」
有無を言わさず、カイトの顔面を、ブランドルの拳が打ち抜く。
「頭冷やせバカイト!裏切るつもりなら、もっと都合がいいタイミングはあっただろ。貴族様の事情はわからねえけどよ、何か事情が変わったんじゃねえの?」
「ぐっ…」
ブランドルの正論に、カイトは押し黙るしかないようだ。
「カイト君と言ったな、愚息がこの場に集めるメンバーとして真っ先に君を選んだ通り、少なくとも、愚息は君を信頼している。君がそれを利用と解釈し、愚息への不信を拭えないというなら、退出してくれて構わない」
そして、父上はどこまでも冷静だった。
「……」
カイトは一度俺を睨み、無言で応接室を出た。
…嫌われてしまったか。
「ラグナ、今回のことは教訓とするように。平民の殆どは、貴族は上から目線で自分たちを見下していると思っているし、それは一面の事実でもある。ブランドル君のように、こちらの事情に配慮してくれる者ばかりではないのだ」
「肝に銘じます」
低頭する俺。
会話が一区切りついたと理解してか、ブランドルが気まずそうに挙手した。
「…済まねえ領主様、エレナをカイトのところにやってもいいですかい?依頼の話はあとで俺から伝えますんで」
「うむ、構わない。エレナ君といったな。愚息の尻拭いを押し付けてすまない」
「い、いえ…」
神官の少女が一礼し、応接室を出る。
「さて、少し遠回りしたが、依頼の話をしよう。先程ブランドル君が言ってくれたように、愚息の事情が変わった。その事情の詳細はまだ話せないが、その事情に関連する別の事情によって、このフィンブルは高位蛮族の脅威にさらされている」
父上の言葉に、ブランドルは腕を組んで何度も頷いた。
「身に覚えはありまさあな。一昨日ラグナ…様達が討ち取ったラミアだとか、昨日ラグナ…様達が救援に来てくれたオーガ三体とか」
あくまで冒険者としては対等であった俺をつい呼び捨てにしようとしては、とってつけたように「様」をつけてしゃべるブランドル。
こういうのが嫌だから黙っていた、というのも、きっとカイトには信じてもらえないのだろう。
「え、うちの息子そんなのと戦ってたの?」
急に目を丸くする父上。
「ラグナ、聞いていないぞ」
父上の圧が凄い。
「…すみません」
目をそらすしかない。
「目ぇ見て喋れ」
凄い目力で顔を近づけてくる父上がマジで怖い。
「こほん。とにかく、そういうわけで、親族の領地からも救援を出させるくらいの大規模な掃討作戦を予定しているのだ。腕利きの冒険者である君たちには、高位蛮族のいる場所を調べ、地図に記してもらいたい。通常なら長旅になるだろうが、そこはうちのラグナをつける。ラグナは転移魔術が使えるので、私の屋敷に戻ってくることは可能だ。寝泊りの際は、我が家で客人として遇しよう。この内容はこれから冒険者協会に正式に書類で共有する」
会談中だということを思い出した父上は、滔々と、読み上げるように依頼事項を告げた。
「破格の条件ですなあ。つまり、それだけ状況は深刻だと?」
「そう理解してもらって構わない」
ブランドルの問いに、父上は真正面から答えた。
嘘つきの俺とは大違いの、何とも正々堂々とした態度だ。
「それなら、受けやしょう。お困りの領主様にこの”紅剣”が応えられなきゃ、フィンブルに冒険者がいる意味そのものが疑われらあ」
”紅剣”。彼らのチーム名だ。
二つ名があったほうが都合がいい、実力を認められたチームには冒険者協会から二つ名を名乗れというお達しがある。
「そうか。君達がかの”紅剣”か。普段の功績は耳にしている。この危機を乗り切ったら、褒美は期待するといい」
そして、二つ名を持つチームは、領主にも普通に認知される程度の人物ではある、ということになる。
「そいつは楽しみだ。それで、どこから調べやしょうか」
受けると決めれば早速仕事の内容の話。
ブランドルはなんというか、仕事人気質だ。
「しばらくは日帰りできる範囲を頼む。ラグナの事情が片付き次第、転移を利用しての調査を進めてもらいたい」
「かしこまりやした。確実に勝てるなら倒しても構いませんやな?」
「うむ。その場合は追加報酬を出す」
「ありがとうごぜえやす。じゃあ、行くぞ野郎ども。エレナと合流だ」
話が決まったとなれば早速仕事に取り掛かると言わんばかりに退出したブランドルたちを見送り、父上は席を立った。
「陛下との約束の時間が迫っている。すぐに王都に飛べ、ラグナ」
…カイトを追いかけて弁解する時間はないようだ。
戻ってきてくれるだろうか。
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