第8話:追放パーティは普通にいい奴
どうも皆さんこんにちは。
異世界転生者です。
追放系主人公の仲間もめっちゃいい奴でした。
冒険者協会フィンブル支部最強のパーティが、待ち伏せていたオーガ3体に殺されかけていた。
俺とカイトの救援によってなんとか生きて戻った彼らの証言は、冒険者協会を震撼させた。
1日で行き来できる位置まで、集団のままで高位の蛮族が侵入している現状は、毎日が命がけの冒険者にとってあまりにも絶望的なニュースなのだ。
つけ加えるなら、ゴブリン討伐に行ったらラミアをしばいて帰ってきた新人もいる。
次にゴブリン討伐に出かけて、ドレイクなんかに出くわすのは自分かもしれないのだ。
しかし、冒険者の酒場がお通夜ムードかというとそんなことはなく。
「おら、俺の奢りだ、好きなだけ飲め!」
粗野な金髪の男ブランドルをリーダーとする4人が陽気に酒盛りしていることで、まあ、あいつらがいるからなんとかなるか、みたいな雰囲気が醸成されている。
なお、カイトは例の受付嬢と、薬学協会からすっ飛んできた店員ミミーにすがり付かれて大泣きされているので酒盛りには不参加。
その結果何が起こっているかと言えば。
「私はカーティスという。命を救われた借りは命で返すのが正道。いつか貴殿の命を救えるよう奮励努力することを誓おう」
「お、おう…」
なんか誇り高いエルフ騎士な雰囲気出してるイケメン魔術師に堅っ苦しい誓いを押し付けられたり。
「お兄さん強いね!オーガを投げ飛ばせる人なんて獣人にもなかなかいないよ!」
「顔近え…」
「私はリエルって言うんだ!よろしくね!」
「そんなに怒鳴らなくても聞こえるから…あと離れて…」
陽気な獣人少女に耳元ででかい声出されたり。
「危ないところを助けていただいてありがとうございます。カイトさんも、なんだかあなたと一緒だと元気に見えて、安心しました」
「カイト、前はそんなに元気なかったのか?」
「はい…。うまく行かないことにかなり思い悩んでいた様子で…。あ、申し遅れました。私はエレナと申します」
王道ど真ん中過ぎて逆に特徴を探しづらい神官少女に以前のカイトの話を聞いたりと、カイトの昔の仲間にもみくちゃにされている。
本来これはカイトのやることではないだろうか。
仕事を放棄して両手に花を楽しみやがって。もげろハーレム主人公。
「ラグナっつったか?ずいぶん辛気くせえ顔してるな。酒が足りねえか?」
カイトへの怨念が顔に出ていたらしく、金髪の男ブランドルはそんなことを言いながら酒を追加で注文し始めた。
「いや、そもそも酒は好きじゃない」
俺はかぶりを振った。
この世界では、10歳あたりから酒を飲むのが一般的なのだが、俺はどうしても酒の味が好きになれなかった。
生前のパワハラ上司とのストレスフルな飲み会の嫌な感覚を思い出すからかもしれない、などと勝手に解釈しているが、真相は闇の中だ。
「酒嫌い?俺に言わせりゃ、そいつは人生の9割くらい損してるが…酒断ちが強さの秘訣ってとこか?」
粗野な言動のわりに、ブランドルは踏み込みすぎない程度の分別を持ち合わせていた。
だからこそ、地域最強パーティのリーダーをやれているのだろう。
「そういうことにしておいてくれ」
「じゃあメシだな。好きな食いもんは?」
「鶏肉と根菜のクリームシチュー。パンと果物がついてくれば言うこと無しだな」
「バランスのいい食事が強さの秘訣その2ってとこか。ストイックな野郎だぜ」
バランスのいい食事。
中世風味のファンタジー世界で飛び出す単語としてはかなりトンチンカンだが、この世界では食事にバランスの概念が存在する。
といっても、この世界の栄養学は生前の世界の栄養学とは根本から異なる。
一言で言えば、世界の構成要素である地水火風の四大元素に対応する属性のバランスがよくなるように、なるべく色々なものを食べましょうというものだ。
野菜は土の属性に対応し、特に根菜は強く土の属性を持つ。
水棲生物一般は水の属性、鳥は空を飛ぶため風の属性に対応する。
複数の属性に対応する食材もあり、鴨などの泳ぎができる鳥は棲む場所が複数あることから水と風。
獣の肉は、草を大量に食べ水を大量に飲むからか、土と水。ちなみに油や乳は液体のため水が強め。
小麦や果樹の実は植物であり高い位置(つまり空に近い)に実りをつけるため土と風。
このような魔力の属性のバランスをうまく取り、食材として存在しない火の属性は煮炊きによって補うのがこの世界の栄養学だ。
このため、この世界の貴族は普通に根菜も食う。火の属性や風の属性が尊く、土の属性は卑しい、といった序列付けはなく、全ての属性は世界の構成要素として等価なのだ。
ちなみに父上の好物はじゃがいもに小麦粉の衣をつけて豚の脂で揚げたものだ。
生前の栄養学では炭水化物と脂質の塊であるフライドポテトも、この世界ではじゃがいもの土、小麦が持つ風、豚の脂が対応する水、そして高温で揚げることで火と、魔力属性バランスに優れた健康食である。
「みんなもラグナの強さの秘訣にあやかるってことで問題ねえか?酒はもう飲んじまってるけどよ」
ブランドルは一度仲間に確認すると、ウェイトレスを呼び止めた。
「わりい、今からシチューって頼めるもんか?」
ブランドルは、意外にもまず、そう質問した。
この粗野な男、言動に似合わず、酒場が料理の仕込み中だということに配慮している。
「作り置きのでよければ、収納魔術にいくらか保管してありますよ」
ウェイトレスの答えは、この世界の魔術のご都合っぷりを改めて俺に実感させた。
この世界の収納魔術は、雑に言えば時間を止めて物を保管できる。
作り置きというが、保管場所が収納魔術なら、できたてホカホカとなにも変わらないものが出てくる。
そんな冷蔵庫の上位互換にも程がある魔術が、そこらの酒場で当たり前に使われているというのは、もうなんというか夢の世界である。
「じゃあそいつをありったけ持ってきてくれ」
ブランドルの注文によって、俺たちのもとに寸胴鍋がひとつ運ばれてきた。
大量に作る店側の感覚で「いくらか」保管してあったようだ。
「おいカイト!お前も食え!俺の奢りだ!食って力つけやがれ!」
ブランドルは両手に花状態のカイトを引きずってテーブルにつかせた。
色気より食い気。
全く、武骨で粗野な男だ。
実に、好感がもてる。
こうなると、見殺しにしようとしたことのけじめはつけておかなくてはならない。
「ブランドル、一つ頼みがある」
俺は席を立ち、ブランドルの前に立った。
「おう、言ってみろ」
「俺を殴ってくれ」
「おう!」
ブランドルは立ち上がり、俺の襟首をつかんで思いっきり俺の頬を殴った。
「何を気にしてるかは知らねえが、これでチャラだ。それでいいな?」
訳もきかずにそうと察して実行できるこの男に、俺はますます好感をもった。
相伴に預かったシチューは、実に、いい味だった。
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