第3話:追放系主人公との共闘

どうも皆さんこんにちは。

異世界転生者です。


そして、追放系主人公の相棒です。




妖精さんに足を潰されたゴブリンの群れをいくつか皆殺しにしたところで、俺とカイトは顔を見合わせた。


妖精さんが次に行くこともなく、この場にとどまっているからだ。


どうやら、これでゴブリンの群れは殺し尽くしたらしい。


「今ので最後の部隊のようですが、どうしましょうか。上位の蛮族を探して叩き潰しますか?」


当初カイトが警戒していた、槍を作れるような上位の蛮族には、まだ遭遇していない。

つまり、ゴブリンだけを殺しても、またゴブリンをかき集めて襲ってくる可能性が高い。

それでは半端仕事というものだ。


「うーん。ラグナ君にとっては冒険者になって初日の仕事だし、今でも十分な成果だとは思うけど」


カイトは一度、撤退を匂わせ、


「ラグナ君となら、やれる気がする」


そんなことを言った。

できたばかりの仲間をすぐ信頼するのは、確かに追放系主人公あるあるだ。

そういうのはヒロイン枠にしてやれと思わなくもないが、相方ポジションを確保するのも一興ではある。


「問題は、蛮族の居場所ですが…」


妖精さんに探してもらうのも手だが、あまり頼りきりというのも申し訳ない。

妖精魔術の行使を少し躊躇していると、カイトが淀みない足取りで歩きだした。


「あたりはついてるよ。この森には何度か来たことがあってね。念のため、この足跡を追ってみよう」


「なんと頼もしい」


太鼓持ちらしく追放系主人公をヨイショしながら、俺はカイトのあとに続いた。




「やっぱり、ここだった」


ゴブリンの足跡を追っていたカイトが足を止めたのは、森の中の少し開けた場所。

何故開けているか。

手入れする者がいるから…ではない。

石畳があるからだ。


「廃城…こんなところに」


かつてはここに、城をたてるような誰かが住んでいたのだろう。

だが今は、ほとんど基礎部分しか残っていない。


おそらく、壁に囲まれて見えないところに雨風をしのげる構造物が残っており、蛮族が住処としたのだろう。


その前提が正しければ、妖精さんに頼んで廃城を崩落させ、中のやつを圧死させる手もあるが。


「カイトさん、一対一で正面からやりあったとして、ギリギリ勝てるのはどのくらいの敵ですか」


戦略を練るため、カイトに戦力を確認する。

ゴブリンウォーリアとかゴブリンシャーマンを問題なく処理できるならありがたいが。


カイトは着込んでいる金属鎧と、腰の長剣を見下ろし、少し考えて答えた。


「レッサーオーガなら…なんとか粘り勝ちできるかな。回復魔術を全部自分に使う前提で。ドレイクや普通のオーガは、最低でも僕が3人必要かな」


カイトは超強かった。

村の自警団レベルの実力なら、レッサーオーガは数人の時にうっかり遭遇したら全員死亡確定。ドレイクやオーガに至っては、村の近くに出たとなれば自警団20人くらいが、最低でも半分は死ぬ前提で悲壮な時間稼ぎをしながら、村の蓄えを全て使ってでも高ランクの冒険者に討伐依頼を出す、そういう相手だ。


そのレッサーオーガを、手札を使い切れば勝てる相手と評し、ドレイクやオーガも、自分が3人いれば勝てる可能性があるというカイトは、かなりの実力者である。

それも、全身を覆うプレートアーマーに某ドラゴン殺しのような巨大な剣、とかではなく、胸甲や小手などの部分鎧と、片手でも扱いやすいタイプのロングソードにバックラーというなかなかの軽装で。


少なくとも町の衛兵の中には、カイトに勝てる者はいないだろう。


そんなカイトを役立たずと評したあのパーティは、一体何と戦っているのだろうか。

ドレイクロードとかだろうか。


…そんなもんが日常的に出てたらいろんな意味で終わりだよ。


「じゃあ、レッサーオーガ以下の奴だと期待して、踏み込みますか」


「え、ラグナ君は戦力にならないの?」


「駆け出しに無茶言わんでください。ぬののふく一枚の新人魔術師ですよ、俺」


軽口を叩き合いながら、廃城の壁が崩れている箇所から中に踏み込む。


「どわっ!」


踏み込んだ直後、足元に雷撃魔術が飛んできた。


「人間…何故ここまでたどり着いた。ゴブリンどもはどうした」


魔術を撃ったのは、人間の下半身を巨大な蛇で置き換えたような、長さだけなら8メートルくらいある蛮族。


「ラミアか…」


ちなみにラミアは大体ドレイクと同格である。\(^o^)/


格が高い蛮族ほど穢れを好むので、森に穢れを撒き散らし汚染活動に励むゴブリンがいるという時点で、敵の格には気づくべきだったかもしれない。


「ゴブリンなら殺したさ。この僕が!」


カイトは勇ましくもそう宣言すると、俺をかばうように前に出た。


自分を犠牲に俺を逃がすつもりか。

さっき、自分が3人必要だと言い切ったのと同格の相手に、足を震わせながらよくもそこまで見事な啖呵が切れるものだ。


ただの追放系主人公かと思えば、普通に王道主人公の精神性してやがる。


…もう、太鼓持ちはやめだ。


「おいおい、手柄全部自分のもんってか?そりゃないぜ相棒」


俺はカイトの隣に進み出た。


「ラグナ君!?どうして!」


自分の目論見を潰されたカイトは狼狽するが、俺はそんなことはもはや気にしない。


「あとで話す。この蛇野郎の皮を剥いだ後でな!」


説明を拒否し、自らの力の全てを解放する。

ラミアを一人で相手取るには地力が足りないが、足りない分はカイトに補ってもらおう。


「吼えよるわ人間ども。よかろう。貴様らを殺したあとで、新たなゴブリンどもを呼び寄せてこの森を住みやすい場所に作り替えてくれるわ!」


ラミアは王道悪役そのままに、ご丁寧な悪事の説明をしながら蛇の動きそのままに間合いを詰めてきた。


「カイト!突っ込んでくるアホ面に剣をぶちこんでやれ!」


その場で受け止める構えのカイトに叫びながら、俺は低い姿勢でラミアと入れ替わるように走り出した。


「え、わ、分かった!」


戸惑いながらもきっちり踏み込んだカイトはラミアの顔面に見事な剣撃を撃ち込んだ。

無論、この程度は高位の蛮族相手に致命傷にはならないが、感覚器官が集中する頭部への攻撃は、相手の隙を作るのにはもってこいだ。


何故、カイトの攻撃が当たったのが見えたか?


決まっている。俺が、振り返っているからだ。


では何故、振り返ったか。


俺が、ラミアの後頭部を蹴り抜こうとしているからだ。


「盾を構えて踏ん張れカイト!」


俺はロケット噴射の要領で魔力を後方に撃ち出し、某仮面ヒーローの必殺キックのような勢いで、ラミアの頭を俺の足とカイトの盾ではさみ潰すように全力で蹴り抜く。


「腕折れるって!」


泣き言をいいながらも、頭への度重なる衝撃で意識が刈り取られかけているラミアの腕を狙って再度斬りかかるカイト。


「ナイスガッツ!」


カイトが斬ったのと反対の腕を、魔力で強化した腕力で引きちぎる俺。


「何がナイスガッツだ!」


涙目で抗議しながら、ラミアの噛みつきをバックラーで受け止めるカイト。


「ナイスガッツ第二弾!」


盾に噛みついたラミアの頭をかかと落としで地面に叩きつける俺。


「だから腕折れるってば!」


「じゃあ、あとは任せた! 俺は手を止める!」


立っているのも辛くなる、魔力切れの感覚を味わいつつ、使える限りの強化魔術をカイトに流し込み、決着の全てをカイトに託す。


「おのれ、人間風情がァァァ!」


断末魔に魔術を放とうとするラミア。

だが、その上半身を、一瞬だけ早く届いたカイトの唐竹割りが叩き斬った。


どさりと崩れ落ちる巨体と、蛮族の血の不快な臭いが、戦いの終わりを告げる。


「か、勝てた…」


へたりこむカイトを尻目に、俺はふらつく体に鞭打ってナイフを取り出し、ラミアの皮を剥ぎ始めた。

蛮族のものなので一般人にはあまり好まれないが、頑丈なラミアの鱗や皮はスケイルメイルの材料としてそれなりの高値で取引されるのだ。


「は、はは、やったんだ…やったんだね、僕達…!」


勝利の余韻に浸っているカイトを待つ間に、結局剥ぎ取りの作業は全部終わってしまった。




「ラグナ君」


仕事を終えて町に戻ろうとする道すがら、カイトは思い出したかのように声をかけてきた。


「ラミアと戦うとき、目元に血の涙みたいなのが見えたんだけど、もしかして、魔神化、なのかい?」


魔神化。

その単語が出てきたということは、カイトに俺の種族がばれたことを意味する。

無論、それを覚悟のうえで能力を解放したわけではあるが。


「はい。俺は魔人です。よくお気づきで」


今さら太鼓持ち的態度を取り繕う意味もないが、ついそっちよりの対応になる。


魔人は人やエルフ、ドワーフなどから突然変異的に生まれてくる種族だ。

その最大の特徴は、人類種の限界を大きく超えた魔力と身体能力、そして異形の姿を得る「魔神化」。

その異常な力と、魔神化時の姿が大抵は不快感を誘うものであることなどから、差別されがちな種族だ。

生き残るためには戦力が全てという考えを持つ一部の冒険者の中には、魔人好きを公言している者もいるが、それは例外中の例外だ。


「やめてよ、さっきの戦いの時みたいに気安く話してほしいな」


だが、カイトが言及したのは種族のことではなく、言葉遣い。


「ラグナ君、すごく気を遣ってくれてるよね。仲間に愛想を尽かされて気落ちしてる僕を励まそうとしてくれてるんだろうけど、それより、僕は君が相棒って言ってくれたことのほうが嬉しかったからさ」


意図を図りかねて沈黙した俺にカイトが補足したのは、そんな、青年の見た目からするとやや幼い、少年的な感情。


「そうか。ならそうしよう」


気遣うのをやめた雑な言葉遣いの俺に、カイトは心から嬉しそうに笑って見せた。


「うん。そうしてほしい。それと、ありがとう。魔神化を、見せてくれて」


急に変なことに礼を言ってくるカイト。

魔神化は見ても不快になるだけだというのに。

ホラー映画を見るような感覚だろうか。


「どういうことだ?」


「見られたくない姿を隠すより、一緒に勝つことを選んでくれたってことだからね。相棒って認めてくれた感じがしたっていうか…」


カイトは俺を、他人をすぐに信頼するタイプだと思ったようだ。

カイト自身がそうだからだろうか。

重いとは感じるが、不都合もなければ不愉快でもない。


それでよしとしておこう。


「じゃあ、そういうことにしといてくれ」


異世界転生者と追放者。

よくある王道ハーレム展開ではない、男二人の気楽な珍道中。


…こういうのも、悪くはないだろう。

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