第2話:追放系主人公との初仕事

どうも皆さんこんにちは。

異世界転生者です。


そして、パーティに追放系主人公がいます。


たぶん俺、仲間A的なモブキャラです。

女の子じゃないのでハーレム要員にすらなれません。






追放系主人公、カイトが仲間になった。

ここからのお約束は、簡単な依頼を受けたらなんか強い敵が出てきて、引き立て役である俺がピンチになりカイトが格好良く助ける的な展開だろう。


つまり、俺がとるべき行動は、簡単そうな依頼を受けることだ。


噴水広場から冒険者の酒場に戻り、併設されている冒険者協会の窓口で仕事の斡旋を頼むと、薬草の群生地にゴブリンが出現しているので追い払ってこいという、まあお約束の仕事を貰えた。


「ラグナ君、まずは依頼主の薬学協会に行こう」


仕事をもらってすぐ、薬草の群生地に向かおうとする俺を制止し、カイトはそう提案してきた。


「何かあるんですか?」


目的を聞いてみると、カイトはなぜか嬉しそうに話し始めた。


「この依頼を出したってことは、協会の誰かがゴブリンを見てるってことだからね。例えばどんな武器を持ってたとか、依頼書には書いてない情報が聞けるかもしれない。ゴブリンの後ろに上位の蛮族がいて、対策してなかったから返り討ちにされた、なんてことにはなりたくないだろう?」


追放系主人公であるカイトは期待にたがわず、練達の冒険者らしい理由で依頼主からの情報収集を提案していた。


「素晴らしい。なんと頼もしいことか」


もちろん、追放系主人公の太鼓持ちである俺はヨイショも忘れない。

すぐに薬学協会に向かうことにしよう。


…そこ、哀れなものを見る目で俺を見るな。




立ち寄った薬学協会は、いくつかの種族が入り乱れ、なんとも忙しなく人々が行き来する賑やかな場所。

静かな工房のようなスペースもあるが、そちらは研究設備であって一般人は立ち入れない。俺達が訪れたのも、薬師や商人が薬を仕入れに来る店舗側だ。


「いらっしゃいカイトさん。またパーティの使い走り?」


出迎えてくれたウサギ耳の獣人の女性店員の様子からすると、カイトはよく薬品の買い出しに来ていたようだ。この賑やかな店で店員に顔を覚えられるレベルなのだから、相当だ。


「やあ、ミミー。残念ながらパーティは追い出されちゃって、今は彼のパーティにいるんだ。今日の用事も買い物じゃないよ」


カイトはそう言って俺を示した。


「どうも。ラグナです」


一応会釈はしておくが、話の邪魔にならないようにすぐに後ろに下がっておく。

太鼓持ちはでしゃばらないのだ。


「そっか、カイトさん、買い物じゃないならなんの御用かな?」


「この依頼なんだけど、ゴブリンを見た人に話聞きたいなって」


カイトが見せた依頼書を見ると、ミミーというらしいウサギ耳の獣人女性はポンと手を打った。


「あ、それあたし。なんかね、みんな槍持ってて変だなーって。穂先は石っぽかったけど、珍しかったから覚えてるよ」


その言葉を聞いたカイトはいきなり頭を抱えた。


「槍かい?参ったな。何匹くらいだった?」


「5匹くらいの固まりが三つはいたね。隠れながらだけど、このミミーさんの聴力で足音をとらえたから間違いないよ」


カイトは地面に両手両膝をついた。

ここまで見事なorzは初めて見たかもしれない。


「…ラグナ君、この依頼、リタイアも視野に入れよう。槍持ちってことは、斧より小さな穂先を作れる器用さと、槍のメリットが理解できて、群れに使い方を教える知能がある蛮族が裏にいる。下手すると槍に毒を塗ってるかもしれない。その上小分けにした複数の集団で哨戒しているわけだから、かなり危険な相手だ」


なるほど知恵が回る、実に危険な相手だ。

つまり、そいつにうまいことやられれば、カイトが格好よく事態を解決するための引き立て役の仕事はきちんとこなせるということになる。


「そうですか。では、行くだけ行って駄目そうなら退きましょう。流石にこれだけでリタイアでは言い訳が立ちませんから」


行くという結論は譲りたくないが、無理に行くのではなく、退却を念頭に置いて行動すると宣言しておくことにする。

主役が難色を示している以上、引き立て役が強引に意志決定するわけには行かないのだ。


「分かった。じゃあ、行こうか」


幸い、カイトも、行くこと自体には反対しなかった。




3時間ほどの行軍で到着した薬草の群生地だという森に踏み込むと、淡く光る何かがフヨフヨと漂って集まってきた。


「魔人さん、この森になんの御用?」


話しかけてきたその言葉は妖精語。

淡く光る、森にいる妖精さんとなると、ウィスプの類いだろうか。


「ゴブリンを追い払いに来ました」


妖精語で応じると、その光は愉快がるように優しく明滅し、俺の周りをくるくると舞い始めた。


「追い払ってくれるの? ありがとー!」


どうやらゴブリンには妖精さん達も迷惑しているらしい。


「妖精の言葉が分かるのかい?」


横から訊ねてくるカイトに、俺は首肯を返す。


「はい。大抵の言葉は分かります」


俺は異世界転生する際に、世界のことを学ぶための基礎となる言語だけは全て分かるようにしてほしいと、俺を転生させた神に願い、神はそれに応えてくれた。

幸い辺境伯なる貴族の、家督を継ぐこともない三男に生まれ、父の書斎に侵入しては書物を読み漁ることができたこともあって、ゲーム的なこの世界の攻略情報にはそこそこ精通していたりする。


たとえば、妖精さんに力を借りる、妖精魔術もまた、俺が知るこの世界の知識のひとつだ。


「力を貸してもらえませんか。大量のゴブリンを2人だけで倒すのは少しきついと思っていたところで」


俺は妖精さんに好まれる波形の魔力を生成しながら、目の前の妖精さんに頼み込む。


「いいよー。みんなに声かけてくるねー」


妖精さんはそう言うと飛び去っていった。

どのくらいの力を貸してもらえるかは、妖精さんたちの気分しだいだが、場合によってはこれだけで勝てる。

妖精さんの気分に大きく左右されるが、妖精さんのノリがよければ絶大な力を得られるのが妖精魔術だ。


「妖精さんたちに力を貸してもらえることになりました。多少なりとも勝機は出てくるかと」


妖精魔術を使ったことをカイトに報告し、ゴブリンの群れを探して森を歩くことしばし。


「ラグナ君、ストップ」


カイトが俺の肩をつかんで制止した。

即座に物陰に飛び込んで耳を澄ますと、少し遠くに複数の足音が聞こえる。

おそらく、すぐ物陰に隠れなければ視認されてエンカウントしていただろう。

さて、隠れたことでイニシアチブはこちらが握ったわけだが、どう対処するか。


正面から相手取れば、いくら練達のカイトがいても不利。

だが、妖精さんがいるなら話は変わる。


「妖精さん、連中の足元を少しの間だけぬかるみにできますか。膝くらいまで沈んだらまた固い土に戻す感じで、足をがっちりと固められれば最高なんですが」


我ながら悪辣な攻略法だが、不利な状況である以上手段は選べない。


「なにそれ面白そう! やるやるー!」


幸い、妖精さんたちにとっては楽しいイタズラの範囲だったらしく、いくらかの妖精さんがノリノリで飛び去っていった。

嫌われると同じ悪辣さが自分に向けられるので諸刃の剣なのだが、好かれる努力を怠らなければ、妖精さんは非常に心強い味方だ。


「よし。行ってとどめ刺しましょう」


「え?」


カイトを連れて物陰を出ると、そこで俺を待ち受けていたものは、足を地面に食いちぎられ、もがき苦しむおよそ10匹のゴブリン。

固い地面に戻す過程で、俺はゴブリンが動けなくなることを期待していたが、妖精さんは固くなる地面で足を食いちぎるということだと理解していたようだ。


「うわ、うっわ…」


カイトは引いているが、まあこのくらいのコミュニケーションロスは妖精さん相手ならいつものことだ。


「じゃあ、とどめ刺して他の群れを探しましょう」


「え、あ、ああ…そうだね…」


倒れたゴブリンの横に転がっている槍を拾い、一匹ずつ刺し殺す。

殺した証拠として冒険者協会に提出しなければならないので、ゴブリンの右耳を切り取って袋に入れるのを忘れずに。


戦闘というより屠殺に近い作業を終えると、カイトが首をかしげた。


「ミミーは5匹くらいの固まりが、って言ってたよね」


「そう記憶しています」


カイトの確認を肯定する。

そして、カイトの言わんとすることも、ある程度理解した。

ここには10匹の死体があるのだ。


「でも、今回は10匹固まってた…もしかして、群れの規模は大きくなり続けている…?」


「ありうるかと」


さらに肯定すると、カイトは同情するかのような苦笑を浮かべた。


「駆け出しの初仕事にしては、ずいぶん重い仕事になりそうだね」


確かに、冒険者登録して初めての仕事がゴブリンの大規模な群れの討伐というのは、重たい。どこかの小鬼殺しの英雄がいる世界なら確定的な死亡フラグだ。

とはいえ、退却を決断するにはまだ早い。

ゴブリンより強い敵と遭遇してカイトの引き立て役をやるか、戦闘継続を諦めるか、撤退の条件はそのどちらかの条件が満たされたときだ。


「まあ、幸い今は妖精さんが力を貸してくれてますし、気が変わらないうちにやれるだけやりましょう」


「そうだね」


カイトの合意もとれたところで、俺は妖精さんに声をかける。


「妖精さん、森のなかにいるゴブリン全部に同じことできます?」


「やっていいの!? わーい!」


ここまで好戦的かつ協力的な妖精さんは初めて見た。

よほどゴブリンに腹を立てていたに違いない。


「じゃあとどめだけ刺すので、場所教えてください」


「わかったー!まずはこっち!」


楽しそうに舞う妖精さんについて歩きだすと、カイトが耳打ちしてきた。


「ラグナ君…もしかして、今妖精さんにゴブリン全部さっきと同じ目に遭わせようって言った?」


「はい。妖精さんもノリノリでしたよ」


カイトは頭を抱えた。


「ねえ、これ、薬草を取りに来る人類種も同じ目に遭わされないかな」


なるほど、薬草を取りに来ることが妖精さんにとって迷惑なら、ありうる話だ。

その辺り、妖精さんはどう思っているのだろうか。


「妖精さん、この辺に薬草取りに来る人類種のことはどう思います? ゴブリン達みたいに妖精さんを怒らせちゃうことがないようにしたいので」


「ゴブリンは森を穢れで染めようとしてるから許さない。薬草を取りに来る人間さんは、穢れがなくなるようにお祈りしてくれるから好き」


返ってきた回答は、妖精さんがやけに協力的かつゴブリンへの殺意が高い理由を納得するに十分なものだった。


「ゴブリンは森を穢れで染めようとしてるから許さんそうです。人間は穢れがなくなるよう祈るやつがいるから好きみたいですね」


「え、ゴブリンそんなことしてたの?…絶対ゴブリンより上位のやついるじゃん…いや妖精を敵に回す心配がないのはいいことなんだけどさ」


カイトは諦めたようにため息をつき、かぶりを振って再び歩き出した。

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