第40話

 そんなわけで、この新しい世界で生きていくことになった道通様。しかし、疑問が残る。


(どうして、この世界で生まれ変わった)


 通常、神様は信仰を失えば死ぬ。だけれども、この世界に生き返ったということは誰か自分のことを信じてくれる人がこの世界にいるということである。それは一体誰だ。


 イツが去ったあと。自分はあの溜池に向かう。そして小さな石の祠へ。

 そういえば。あの後、この石の祠は壊された。それを何者かによって復活させられた。それは一体誰の力によって?


 とその石の祠に1人の少女。ハレがいた。

 そのハレは石の祠を磨いている。


「おい、お前。何をやっているんだ」


「何をって。この石の祠を磨いているのですよ」


「だからどうしてこんな時間に」


「こんな時間って。今は朝5時でしょ。神様が起きる前にここを綺麗にしてあげなくちゃ」


「だから」


「ここには蛇神様がいるからです」


「なっ」


「私の親が言っていました。蛇神様が私たち一家をずっと守ってくれていると」


 彼女は笑みを浮かべる。

 これは……

 間違いない。道通様は確信をした。この人は弥生の血を引くものである。


 そして弥生はあの後。京都に帰った後もずっと、ずっと。蛇神を信仰していた。そしてそれは子から子へとずっと伝承されていた。それは歴史に残らないぐらい小さな話だけれども、それでも個人の間で今の今まで繋がれていた。


「私ね、少し。蛇神様に無理を言いました」


「無理を?」


「そう。7月30日。花火が見たから晴れにして欲しい。そんな無理をです。だけれどもそれは自己中な話ですよね」


「それは」


 イツから聞いた話である。

 決して無理な話ではない。ただ、この地区の花火大会の歴史を知ってしまったから。彼女は中止にしようとしていた。


 昔、昔。この地方にとても大きな火事がありました。そのせいで何人もの人が死んでしまいました。それを供養するために、お盆が始まる前に花火を上げるのです。そして死者がこの街に帰って来るようにするのです。


 と。弥生を苦しめた人たちを供養するための花火など見れるわけがない。例え、その歴史を知っている人がほとんどいなくても。

 だからその日。ずっと雨を降らせていた。


「天気なんてみんなものです。こんなもの、お願いされる神様も困ったものでしょう」


「そんなことない」


 道通様は言う。


「お前の家。お菓子屋さんだろ」


「ど、どうして知っているのですか?」


「さぁな。とにかくここの神様はそのお菓子が好きだ。いや、好きかどうか分からない。だけれどもきっと食べたいと思っているはず」


「そうなんですか?」


「あぁ、そうだ。だからそれを持ってこい。そうすれば晴れになる」


「本当ですか。それじゃ」


 今すぐそのお菓子をとってきます。そう言って去っていた。

 その後ろ姿を見て


「後、間違ってもお酒は置くなよ。あんな不味いものはいらない」


 と道通様は叫んだ。

 全く。どこまで素直な人なんだ。自分のことを一才疑わなかった。少しは疑ってもいいものだろうに。


 そして静かに、道通様は水竜に話しかけた。


「と言うわけだ。その日は静かにしておくれ」


 と。そういう。

 すると大きな泡がブクブクと出てきた。


「おや、あんた。今日機嫌がやけにいいな」


 道通様はそれを見て笑う。

 今まで、一体何の為にこの力を使うのか分からなかった。だけれども初めて。この力を使う理由が分かった気がする。


「俺様も今日は機嫌いいぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絶滅危惧少女の仏滅 ぼっち道之助 @tubakiakira027

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ