第20話

 ヨルと木船の集合場所はノエによって指定された。

 その場所は、空瀬神社の最寄り駅から3駅ほど離れた場所にあった。


「神が電車に乗るとか実に馬鹿げている」


 とヨルは必死にノエに抗議した。というのもヨルは電車に乗ったことがない。初めての経験だったから。そして彼女にとっての電車のイメージ像というのは人身事故だったり、痴漢だったりとあまりいいイメージがない。特に朝の通勤ラッシュ時。よく、ニュース映像とかでそういった光景が映し出される。


 あぁ言った人混みを見ると実に人間というのは馬鹿な生き物だ。そうヨルは思う。どうしてわざわざあんな人が密集している場所に集まるのか。これを見ると、コンビニの電灯に集まる虫たちを決して馬鹿にできないのではないか。そう思う。


 そしてヨル自身もそんな馬鹿になりたくない。そう思っていた。つまりあんな人と人とが密集している世界に飛び込むのは真平ごめん。


 そのようなことをヨルはノエに言った。そのノエは


「ダメ」


 と短くそう答えた。


「この課題はあくまでも、あなたが人間慣れしてもらうための試練なのだからさ」


 と。結局電車に乗ることになった。

 そしてハレと一緒に稀有怪訝を探しに行く当日。駅までは無事に辿り着いた。

 しかし、問題はその後である。


「これを改札に通せばいいから」


 そうやって渡された一枚のカード。切符にしては分厚いと思った。そしてそれを改札口に差し込んでも、何も反応しない。というよりも差し込めなかった。


 そして隣に、カードをタッチさせて通過する人がいた。それで、ヨルはあぁこれはこうすればいいのか。そう学習をした。

 改札にカードをタッチする。そうしたら、ピコンと。改札の扉が閉まった。結局そこを通れなかった。


「何だよ! これ!」


 と思わず、改札を蹴りそうになった。まさか、こんな不良カードをつかまされるとは。

 それからしばらく改札の外で呆然と立ち尽くす。としばらくしてから、後ろからチョンチョンと叩かれる。何だよと後ろを振り返る。


 その後ろにはフードを被った人がいた。顔は全く見えない。男か女か、その姿だけでは分からなかった。そしてその人は改札外にある機械の方を指差す。そこには一台の機械が置いてある。


(ここにカードを置くのか)


 そしてカードを置いた。すると画面から金額選択画面というものが出る。

 これを一体どうしろとそう思った。そしてその人は千円というボタンを押す。するとお金を投入してください。と機械音声で言われる。ヨルは自分の財布から1000円取り出して、その機械に入れた。そうしたら、ピコンと音がする。


 そのフードを被った人は今度はそのカードに指を差す。もうこのカードを取ってもいいということであろうか。ヨルはそのカードを取る。そして改札にカードを当てる。開く。通れた。


 そのまま振り返る。あの人にお礼を言わなければ。そう思ったが、フードを被った人はもう既にどこかへ消えていた。


 一体、あの人は何者だったのだろうか。そう思う。


 この駅は支線と本線がある。本線は神戸方面、大阪方面と、日本でも屈指の大都会に向かうので混み合っている。それに対して支線は、そのような都市から離れて、むしろ山側の方へ向かう。この路線の需要は、高級住宅街沿線の通勤路である。そのため、午前は神戸方面などに混み合う。しかしその逆の山側方面の行き先ではほとんどと言ってもいいほど人が乗ってこない。


 ヨルからしてみればそちらの方がありたがった。人混みの電車になど乗ってしまったら気絶をしてしまう。そうして、ヨルはそのまま電車に乗った。その途中。考える。あのフートを被った人は一体何者だったのだろうか。


 ただの人間だったのだろうか。


 そして途中駅。女子高生2人が乗ってくる。そして、とある会話をしていた。


「道通様って知っている?」


 と。そんな会話だった。

 道通様。ヨルは聞いたことない。イツなら何か知っている可能性あるかもしれない。


 聞こえてきた話ではこうだ。


 昔、道通様という神様がいた。その神様は今で言う稲荷神と同じぐらい勢力があった。そんな時期があったそうだ。それぐらい信仰にあつい神様である。


 そして道通様は非常に大らかな性格であり、信仰している人も、信仰していない人も、平等に全員に幸福の恵みを与えていた。そんな道通様だったが、ある時。間違って人を1人殺してしまった。その結果。道通様の権威を失った。彼は神としての地位を下されてしまい、妖怪へと零落をしてしまった。


 しかし道通様は神から零落した今でも人間のことを愛していて、今もどこかで人々に対して親切な行為をしている。と言うものであった。


 それに対して、ヨルは急に親近感が湧いてきた。自分も能力をコントロールすることが出来ない。その部分に関しては道通様と全く一緒である。そして自分も何度か人を殺めそうになったことがある。もしあの時、人を殺めてしまった時。ヨルは一体どうなっていたのか。聞いた話、神から零落をするらしい。それは分かっている。しかし神から零落をしてしまったら、今ある力を失うのだろうか。それならそれでいいのではないか。


 また、神から妖怪へと零落するのか。零落をしたらどうなる。ただ名称が変わるだけであればなんてことないような、そんな気がする。


 そんなことを考えているうちに、終点に辿り着いた。

 改札を出る。そしてそこに広がっている光景。それは坂道と家であった。南宮市は南側は大都会。だけれども北側は山岳地帯。それを現しているような土地であった。

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