第17話

 美鶴は購買部に着いた。現在、昼休みらしくその購買部にはたくさんの人でごった返している。


(こんなに人がいるなんて)


 美鶴は驚いた。

 確かに夏祭りなどでもたくさんの人が集まる。しかしそこは老若男女の人が集まるし、その夏祭りの時でなければ人は集まらない。ここの購買部が特別イベントがあるわけではない。それでもこのように人が集まっている。人の肩と肩が触れ合うのが当たり前というぐらいにひしめき合っている。


 流石の美鶴もこの人混みを見ただけでゲッとなった。これをヨルなどが見てしまったら……それを考えればここに来たのは美鶴でよかったと思う。

 もしヨルがこの場所に来ていたらショック死をしていたかもしれない。


 さてこの中から、木船を探さないと行けない。これは大変な作業だと、そう思ったがその心配に関しては杞憂に終わった。

 購買部から誰かと誰かが騒いでいる声が聞こえる。


 何か言い争いをしている。そしてそちらの方に目を向けると、いた。

 男3人と木船1人。


 そこの空間だけ、誰も寄ってきていない。ポカリと結界が貼られたように空いていた。そして言い争いをしている。


「後ろで並んでいたのに、どうして前に割り込むのですか。不敬です」


 と。

 しばらくその言い争いを聞いているうちに状況を理解することが出来た。どうやら、この男子グループのうちの1人が順番を抜かし割り込んできた。しかし男子グループからすれば、別に割り込んできたわけではなく、元々並んでいたグループに合流しただけ。1人はちょっと座席を確保しに行っていただけ。だから決して順番を抜かしていたわけではない。という言い分らしい。


 更に言えば、その男子グループは別段、木船の前を割り込みしたわけではない。むしろ木船は何の関係なかったが、その横から勝手に突っかかってきた。男子グループからしてみればそのように感じているらしい。


 確かに、美鶴も男子グループの言葉一理あるとは感じる。

 結局、周りが何も言わなければ、何もする必要などない。むしろ、それを好意で説教などをすると周囲の人はウザがれる。


 ずっと求めている善意に対しては、受動的だけれども、突然やってくる善意に対しては批判的。それがこの世界である。それはイツもヨルも重々学習をしていた。


 と言っても、木船を救わないという選択肢は美鶴にはなかった。


――危ないんだ。彼女は。


 なるほど。その言葉の意味を理解する。恐らく、彼女は男がごめんなさいと謝罪するまでは、あのグループに説教を続ける。男も男で自分たちの意見を決して折れないだろう。そうなるとこの言い争いの終着点は。まず時間が過ぎるまで続ける。それかどちらかが暴力的行為をして降伏させる。そうなった場合、当然女性である木船は不利だ。


 そして第三の終着点は、誰かの介入。恐らく男子生徒たちもこの第三の選択肢を待っている。彼らもお腹空いているだろうし、何よりも貴重な休み時間をこんなストレス溜まる事象で時間を過ごしたくないだろう。


 だから。

 美鶴は人と人との間をすり抜けて、彼女の元へ向かう。そして


「申し訳ございません」


 と頭を下げる。この男子たちはただ人の頭を下げる姿を見たかっただけである。


「まぁ……いっか」


 そう言って男子生徒たちは納得して、そのまま購買の方へ向かった。


「ちょっと! 何で謝っているのですか」


 と木船は不服そうな顔をする。美鶴は彼女の耳を引っ張った。そしてこっちに来なさいと。強い口調で言った。

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