第15話
「まさか、あの時の女の子というのか」
「どう考えてもあの時の女の子でしょ」
そしてイツはため息を吐いた。
「とにかくヨルはあの子に感謝をしないとダメだよ」
「感謝? なんで」
「なんでって。あの子が賽銭泥棒から神社を守ってくれたわけだし」
「別に僕は守ってくれと」
「そんなこと言わない」
とイツはヨルの頭を叩いた。
「普段から神様に感謝しろと言っている人が、人への感謝を忘れたらダメでしょ」
「まぁ、そうだけれどもさ」
「だから、一緒に稀有怪訝を見つけてきなよ」
「稀有怪訝ねぇ」
とヨルは窓の外を見た。この神社に神様らしき気配もない。妖がいる雰囲気などもない。
「本当にそんな妖怪いるのかね」
「さあ。もしかしたらいないかもしれない。いたとしてもヨルと木船さんは出会えないかもしれない」
「その言い方だと、イツは稀有怪訝に会えるみたいな言い方だな」
「どうだろう。会えないかもしれない。だけれども、どこにいるかは分かる」
「それなら教えてくれよ」
「うんとね。南方熊楠という人がいるんだけれども」
「誰だ、それ」
「植物学者、哲学者、妖怪学者。とにかく色々なことをやっていた天才だよ」
「そんな天才がどうしたんだ」
「その人が澄んだ気持ちで世界を眺めれば異常なものはいくらでも見えると言っているんだ。実際そうかもしれない」
「どういうことだ?」
「例えば、あの木の葉を見て」
とヨルは木の方へ指を差す。その木の葉はソヨソヨと揺れている。
「ヨルはあの揺れている木を見てどう思う」
「風が吹いているなぁとしか」
「それではダメよ」
と言われてしまう。ヨルは瞬きをしてもう一回その木の方を見る。やはり見えている景色は何も変わらない。そこに化け物がいるわけでもなかった。
「それは風という先入観があるからそう感じるだけ。だけれども実際は違うかもしれない。誰か見知らぬ妖怪の仕業かもしれない。現代社会、誰もそう言ったことを疑わなくなってしまったから妖怪をそもそも見る力を失われていったかもしれない」
「つまり、何が言いたいんだ」
「つまりは、稀有怪訝はいないと思えばいないし、いると思えばいるかもしれない。ということ」
「それじゃ、どうすれば……」
と言っていると、ゲドーが教室に入ってきて、ヨルの肩の上に乗った。
「ゲドー」
ゲドーは通常は一般の人には見えない。しかしヨルや美鶴などには姿が見える。
「なんだ、なんだ。ヨルお嬢が変なことに巻き込まれたと聞いたぞ」
「そうなの。ゲドー。だからお願い。一緒に稀有怪訝見つけて」
「見つけるだけでいいのか」
「うん、それだけでいいよ」
「イツ、これは」
「うん。今回の稀有怪訝探しにゲドーを貸して上げる。だから頑張って」
ファイトだよ。とイツは言った。
「そんなことを言われてもさ」
「ちなみにヒントはあの木の葉。あれをよく見て」
そう言われてイツはじっくりと木の葉を見ていた。しかしそれはただ揺れているだけであった。ヨルの目では特段その木におかしな部分など目に映らなかった。
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